クールな伯爵令嬢と見習い魔術師

花見 有

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第6話

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「シーア……、シーア……」

 セシリアは小さく呟くように言った。昨日、夢を見てからこの名が気になっているのだ。

「うーん。知り合いにシーアという女性は、聞いた事がないし……。でも、何か引っかかるのよねぇ」

 セシリアは、ウンウン唸りながら、屋敷の廊下を歩いていると兄のアンドレに出くわした。

「どうした、セシリア。難しい顔をして」

「お兄様。ちょうど、良い所に!お兄様の知り合いにシーアという女性はいませんか?」

「シーア?さあ、聞いたことないな」

「そうですか……。私も思い当たらないけど、何か引っかかるのよね」

 とシーアはまたも眉間に皺を寄せた。

「ハハッ、お前最近、変わったな。前は、何事にも冷静……いや、興味が沸かないって感じだったろ?何でも読書の時間だと言って、熱心に部屋に籠もってるんだって?そんなに面白い本でも読んでるのか?」

 するとセシリアは、思い出したように胸を押さえた。

「そうね。とても心臓がドキドキするお話を読んでいるわ」

「へえ、それは是非、次に借りたいものだな」

 するとセシリアは、僅かに微笑んだ。

「駄目です。お兄様には、貸してあげませんわ」

 そのセシリアの反応に、アンドレは驚きつつも、妹の変化に満面の笑みで答える。

「なんだよ!そんな事、言わずに貸してくれよ!」

「駄目ですわ!」

 とセシリアも今度は笑顔になり答えた。

 そんな、仲睦まじい兄妹のやり取りを、フィグラス伯爵夫妻が嬉しそうに眺めていた――


 ◇


「全く、お兄様に構っていたら、いつもの時間よりも遅くなってしまったわ」

 セシリアは自室に戻ると、まだケヴィの姿が見えない事にホッと肩を撫でおろし、侍女に急いでお茶とお菓子の用意を頼んだ。

 そして、侍女が居なくなるとすぐにケヴィが現れた。

「やあ、セシリア!あれ、今日は本を読んでいなかったの?」

 まだ本も用意していなかったセシリアに、ケヴィは不思議そうに聞いた。

「え、ええ。今日は少し遅くなってしまったから」

「そうなんだ。実はさ、今日は俺もセシリアに話したい事があったから、今日は本を読まずに聞いてもらえる?」

「ええ、なあに?」

 この時、セシリアは魔術についての話でもしてもらえるかと、ドキドキしていた。

「俺……、もうここには来られないと思う……」

 落ち込んだ表情でケヴィは言った。

 さっきまでドキドキと陽気に鳴っていた心臓が急にズキズキと痛みだした。

 なに……これ……

 セシリアは今まで感じた事のない胸の痛みに、驚きつつ、しかし、それよりも今はケヴィの話の方が気になっていた。

「ど、どうして?」

 セシリアの困惑した表情に、ケヴィの顔も更に険しくなる。

「しゅ、修行がさ。上手くいってて、もう次は失敗しないと思うんだ!」

 ケヴィは無理やり明るく言った。

「そ、そうなの」

 そうよ。元々、ここには転移に失敗して来ていただけなのに……。ケヴィの修行が上手く行っているなら良い事じゃない。

「良かったわ、ね……」

 セシリアは笑ってそう言ったつもりだった。しかし……

「セシリア……、泣かないで……」

 涙を流すセシリアを、ケヴィは抱き締めた。

 何故、自分が涙を流しているのかよく分からないけれど、ケヴィに抱き締められると、余計と涙が溢れ出た。

「セシリア……」

 耳元で囁かれた自身の名が、シーアと呼ばれたように聞こえた気がした。

「ねぇ、ケヴィ……。私……、貴方に会えなくなるのが、寂しいのかしら?」

 セシリアの問いにケヴィは、小さく笑った。

「そう思ってくれているなら、俺は少し自惚れてしまうかもしれない」

 ケヴィのその答えは、セシリアには少し難しくて眉間に皺を寄せた。

 ケヴィは、抱きしめていた手を緩めると、セシリアの瞳を見つめて言った。

「俺は、セシリアに相応しい男になって、もう一度君に会いにくるから。その時に返事を聞かせて……」

 今までにない真面目な顔でそう言ったケヴィは、眉間に皺を寄せるセシリアのおでこに口付ける。

「ごめんっ。我慢できなかった」

 そして、いつものように笑うと、すぐに真面目な顔に戻り、いつ書いていたのか空中の光る文字を握って「転移」と言って、パッと消えてしまったのだった。

 シーンとした部屋で、セシリアは手付かずのお菓子を見て呟くように言った。

「本当は……お腹空いてなかったんじゃない……」
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