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第8話

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 その頃、ケヴィはある森にいた――

 ルドスタ国の魔術師は、皆、国の機関に所属する事が決まっている。それは、魔術師の管理と魔術師にしか出来ない極秘任務を担っているからだ。

「ケヴィ、あいつが最近暴れてるって噂の魔獣だ」

「でっかすぎじゃないっすか!?」

 苦笑いで言うケヴィをジェロムは一瞥する。

「やれ」

「分かってますよ!逃げたりなんてしませんって!」

 ケヴィは言いながら空中に光る文字を書いていく。それを握る。

「焼滅」

 その瞬間、魔獣は大きな炎に飲み込まれ塵となった。

 今、ケヴィとジェロムがいるのは魔の森と呼ばれる場所だ。
 そこは、奇しくもシーアとケルヴィンが逢瀬に使っていたあの森だった。しかし、あの時の緑が生い茂る森とは様変わりしてしまった森に、ケヴィは奥歯を噛み締めた。

「あの森が未だにこんな事になっているなんてな……」

「ああ、この森がケルヴィン王子とシーア王女の最後の場所なんだっけ?」

「ええ……」

 この、俺達が逢瀬を交わした大事な場所がこんな事になったのも、全ては、前世に歪みあったサンシルド王国とバラスタ王国の国王達のせいだ――

 数百年前……、まだ、この国がサンシルド王国とバラスタ王国の二つに別れていた時、両国には魔力を持つ人間も大勢いて、魔術師という職業は珍しくもなかった。そして、俺……、ケルヴィン王子も魔術が使えたし、父親であるサンシルド国王だって使えたし、バラスタ国王も使えた。
 しかし、バラスタ王国の魔力を持って生まれる人間が、何故か急激に減ってきてしまったのだ。

 それまで、友好関係だった両国に亀裂が走ったのは父の一言だった。

「バラスタ王国は、いずれ魔術師が居なくなってしまうんじゃないのか?ああ、でもケルヴィンとシーアが結婚すればその子はきっと魔力があるから安心だな」

 この言葉は、魔術師が減少していく事に悩んでいたバラスタ国王の忌諱に触れた。
 そして、両国は何かと争いが絶えなくなったのだった。

 そして、争いが激化した結果、この森は戦場と化した――


「こんな争いは辞めるんだ!バラスタを攻撃するのはやめてくれ!」

 バラスタへ国中の魔術師を集めて向かう父をちょうど、この森で最後の説得をしていた。すると、反対側から同じようにサンシルド国王が魔術師を率いてやって来たのだ。そして、それをシーアが必死に止めていた。

「お願いよ!もう、サンシルド王国と争うのは辞めて!」

 しかし、そんな俺達の声も虚しく、森で壮大な魔術攻撃が繰り広げられてしまった。

 もう駄目だ。この森も二つの国ももうお終いだ――

 そうして、シーアの方を見ると、シーアも同じく絶望した表情でこちらを泣きながら見ていた。

 ああ……、せめてシーアだけは――

 俺は夢中でシーアの手を取ると森を離れようとした……しかし――膨大な魔術の攻撃を受け、ボロボロになった森が悲鳴を上げ、全てを闇に包んでしまったのだ。

 そうして、国王も王子も王女も失った両国は、消滅した――


 それから、新たに両国を束ねて出来た国が、このルドスタ王国だった。両国がルドスタ王国となる頃には魔力を持つ者は今のように少なくなっていたが、ルドスタの初代国王は魔術の危険性をよく理解しており、魔術師は国の機関に所属する事を義務とし、そして、魔の森と化してしまった森の管理を任せる事にした。

 そして、この魔の森の存在は、現在の魔術師達を守る為に極秘とされているのだ。

 それはそうだ。もし、数百年前の魔術争いで魔の森が誕生したのだという事が知れれば、少なくなった魔術師達が、どんな目で見られるかは明白だ。

「師匠、俺は必ずこの魔の森を元の緑が生い茂る美しい森に変えてみせますよ」

「ああ、そうしたらお前は、見習い魔術師どころか大魔術師様だな」

「軽く師匠を超えちゃいますからね」

 ケヴィはニッと笑うと、魔の森へ進んでいった――
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