クールな伯爵令嬢と見習い魔術師

花見 有

文字の大きさ
8 / 9

第8話

しおりを挟む
 その頃、ケヴィはある森にいた――

 ルドスタ国の魔術師は、皆、国の機関に所属する事が決まっている。それは、魔術師の管理と魔術師にしか出来ない極秘任務を担っているからだ。

「ケヴィ、あいつが最近暴れてるって噂の魔獣だ」

「でっかすぎじゃないっすか!?」

 苦笑いで言うケヴィをジェロムは一瞥する。

「やれ」

「分かってますよ!逃げたりなんてしませんって!」

 ケヴィは言いながら空中に光る文字を書いていく。それを握る。

「焼滅」

 その瞬間、魔獣は大きな炎に飲み込まれ塵となった。

 今、ケヴィとジェロムがいるのは魔の森と呼ばれる場所だ。
 そこは、奇しくもシーアとケルヴィンが逢瀬に使っていたあの森だった。しかし、あの時の緑が生い茂る森とは様変わりしてしまった森に、ケヴィは奥歯を噛み締めた。

「あの森が未だにこんな事になっているなんてな……」

「ああ、この森がケルヴィン王子とシーア王女の最後の場所なんだっけ?」

「ええ……」

 この、俺達が逢瀬を交わした大事な場所がこんな事になったのも、全ては、前世に歪みあったサンシルド王国とバラスタ王国の国王達のせいだ――

 数百年前……、まだ、この国がサンシルド王国とバラスタ王国の二つに別れていた時、両国には魔力を持つ人間も大勢いて、魔術師という職業は珍しくもなかった。そして、俺……、ケルヴィン王子も魔術が使えたし、父親であるサンシルド国王だって使えたし、バラスタ国王も使えた。
 しかし、バラスタ王国の魔力を持って生まれる人間が、何故か急激に減ってきてしまったのだ。

 それまで、友好関係だった両国に亀裂が走ったのは父の一言だった。

「バラスタ王国は、いずれ魔術師が居なくなってしまうんじゃないのか?ああ、でもケルヴィンとシーアが結婚すればその子はきっと魔力があるから安心だな」

 この言葉は、魔術師が減少していく事に悩んでいたバラスタ国王の忌諱に触れた。
 そして、両国は何かと争いが絶えなくなったのだった。

 そして、争いが激化した結果、この森は戦場と化した――


「こんな争いは辞めるんだ!バラスタを攻撃するのはやめてくれ!」

 バラスタへ国中の魔術師を集めて向かう父をちょうど、この森で最後の説得をしていた。すると、反対側から同じようにサンシルド国王が魔術師を率いてやって来たのだ。そして、それをシーアが必死に止めていた。

「お願いよ!もう、サンシルド王国と争うのは辞めて!」

 しかし、そんな俺達の声も虚しく、森で壮大な魔術攻撃が繰り広げられてしまった。

 もう駄目だ。この森も二つの国ももうお終いだ――

 そうして、シーアの方を見ると、シーアも同じく絶望した表情でこちらを泣きながら見ていた。

 ああ……、せめてシーアだけは――

 俺は夢中でシーアの手を取ると森を離れようとした……しかし――膨大な魔術の攻撃を受け、ボロボロになった森が悲鳴を上げ、全てを闇に包んでしまったのだ。

 そうして、国王も王子も王女も失った両国は、消滅した――


 それから、新たに両国を束ねて出来た国が、このルドスタ王国だった。両国がルドスタ王国となる頃には魔力を持つ者は今のように少なくなっていたが、ルドスタの初代国王は魔術の危険性をよく理解しており、魔術師は国の機関に所属する事を義務とし、そして、魔の森と化してしまった森の管理を任せる事にした。

 そして、この魔の森の存在は、現在の魔術師達を守る為に極秘とされているのだ。

 それはそうだ。もし、数百年前の魔術争いで魔の森が誕生したのだという事が知れれば、少なくなった魔術師達が、どんな目で見られるかは明白だ。

「師匠、俺は必ずこの魔の森を元の緑が生い茂る美しい森に変えてみせますよ」

「ああ、そうしたらお前は、見習い魔術師どころか大魔術師様だな」

「軽く師匠を超えちゃいますからね」

 ケヴィはニッと笑うと、魔の森へ進んでいった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

処理中です...