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 セデルステイン王国には、それはそれは美しい王女がいた。金色の美しい髪に、吸い込まれそうな碧い瞳の王女。名はレイアといい、18歳になったばかりの彼女は淑女としての教育を経て美しく成長し、宮廷の華として皆に愛されていた。それは、宮廷内を歩けば皆が見惚れる美しさで、その後に使用人達の間では、レイアの話で持ち切りになるのであった――


「ああ、レイア王女様は、今日も何て美しいのかしら」
「まだご婚約の話はないのか?引く手数多だろうに」「それは国王様も王妃様も兄のヴィンセット王子様もレイア王女様を溺愛されていますもの。そう簡単にはお嫁には出せないのではなくて?」
「フォーセル公爵のご令息エルド様とはどうなったんだ?昔から1番の候補だと言われていたではないか?」
「ええ、そうね。幼い頃のお二人は、それはそれは仲睦まじいご様子で、本当に可愛いらしかったわ。エルド様が隣国フォシェーン王国へ遊学された後なんて、レイア様はお食事も喉を通らず、倒れてしまって……」
「そうだったわね。あの後、目覚めたレイア様は何だか様子もおかしくて、あの時は本当に痛ましかったわ」「では、やはりレイア王女様のお相手はエルド様なのか!?」
「いや、それが分からないのよ。遊学してから、さっぱりエルド様は帰って来ないし、倒れた後はレイア様もエルド様のお話をされなくなったし。それに他国へ嫁がれるのではというお話もありますわよ?今度、フォシェーン王国の方を招いた舞踏会があるでしょう?その時にどうやらフォシェーン王国の王子様もいらっしゃるらしいわ」
「まあ、そうなの!?」

 使用人達のレイアに対する話は尽きる事がなく、美しく成長した王女の昨今の噂話は専ら誰と結婚するのかという話題であった。その噂話はもちろんレイア自身の耳にも入っていた。

 私の結婚相手が誰かですって?
 フフッ皆さんのご期待に添えなくてごめんなさい。

 レイアは皆が気付かないくらい小さく笑うと、国王である父の執務室の扉の前に立った。そして従者が扉を開けるとレイアは軽く膝を曲げて挨拶し国王の前に立った。

「お父様、ご機嫌よう」

「ああ、レイア。お前に新しい護衛が付く事になったんだ。君、レイアに挨拶しなさい」

 お父様が合図をすると、部屋の隅にいた黒髪にグレーの瞳の整った顔立ちの騎士の青年が前に出てくる。そして、私の前に片膝を付いた。

「レイア王女様。お初にお目にかかります。ハンス・ホステンと申します」

「よろしく。ハンス」

 王女らしく少し微笑んだレイアにその場にいた従者らはウットリと見惚れるが、ハンスは真面目な表情を崩す事はなかった。そして、そんなハンスにレイアの心情がとても淑女とは言い難い事になっているとは、誰も気付いてはいない――

 あああ!!ヤバい!きたきたきたー!!本物のハンス様きたあああ!!!

 なぜ、完璧な淑女のはずの私がこんな事を考えているかって?だって私は前世の記憶をもった転生者だから!
 そして、ここは私が前世で好きだった小説の世界。そしてそして、彼は私の推しだったハンス様!しかも、私が転生したのは、そのハンスと結ばれるレイア王女だったんだから……異世界転生万歳ー!!

 レイアは、今にも両手を上げてしまいそうな所をグッと耐えていたのだった――
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