【完結】名門伯爵令嬢の密かな趣味〜公爵令息と趣味友になりました〜

花見 有

文字の大きさ
9 / 12

第9話 近付く距離

しおりを挟む
 数日後、エドワルド様からティータイムのお誘いを受け、私はフレシアム公爵邸に伺った――


「わあ、ありがとうございます」

 私はエドワルド様からリリック先生の本を受け取ると、笑顔で顔を上げた。
 すると、すぐ近くにエドワルド様の顔があり、微笑み返してくれたのだが――

 近い!近いです!エドワルド様!

 前までは向かい合わせに座っていたのに、今日は隣に座っているし、なんか視線もよく合うのよね……。
 婚約者としての扱いってこういう事なの!?
 これは……、物凄く照れるんですがあああ!

 急に距離が近くなったエドワルドに、シルヴィアはそろりと距離をとってみたり、視線を感じてもエドワルドの方を見ないようにしたりと、なんとかその場をやり過ごした。

 ◇

「ふう……、今日のティータイム、物凄く疲れたわ……」

 シルヴィアは、部屋で一人ソファの背もたれに寄りかかり、やっと今日のエドワルドとのティータイムの緊張から解き放たれた。

「だって、今日のエドワルド様、距離が近過ぎるんだもの!!小説では、主人公の二人が接近するとキュンキュンしてたのに、実際に男性に近付かれるって、そんな可愛いもんじゃないわ!心臓が破裂するんじゃないかってくらいドクンドクンするし、すっごくすっごく恥ずかしかったわ。私、絶対にずっと顔が赤かっただろうし、熱くて汗まで滲んでしまって……。もう嫌!こんなの、恥ずかしすぎるわ!明日も会う事になってるのに、このままじゃ、身が持たないわよ!」

 シルヴィアは、また赤くなった顔を覆ってしばらく微動だにしなかったが、急に立ち上がった。

「こういう時こそ、本を読みましょう。本を読んで落ち着くのよ!」

 シルヴィアは、今日借りてきたリリック・アリーの小説を読み始め、暫くは集中していたのだが、中盤に差し掛かり主人公が両想いになると、ページをめくるたびにシルヴィアの顔がどんどん赤くなっていった。

「どうしましょう……。ヒーローの台詞が全て、エドワルド様がいっているように変換されて聞こえてくるわ!しかも、よりにもよって、リリック先生の甘々な話!駄目だわ!今日はもう寝ましょう!」

 ベッドに入ったシルヴィアだったが、頭の中はエドワルドの事ばかり考えてしまい、眠れぬ夜を過ごす事になってしまったのだった――

 ◇

 翌日――

「危ない!」

 気が付くと、私はエドワルド様に後ろから抱きかかえられていた。
 目の前には、池……、どうやら私は庭園の池に突進していこうとしていたようだ。

「あ、ありがとうございます」

 て、手がお腹に!!

「なんだか、今日はボーッとしているみたいだけど、どうしたんだ?」

 エドワルド様に覗き込まれると、途端に顔が熱くなる。

「ね、寝不足なんです!」

「寝不足?あ、さてはリリック先生の本を読んでいて、夜更しをしたんだな?」

 エドワルド様が普段はしないような意地悪い笑みを浮かべるから、途端にリリック先生の小説の甘い台詞を言うエドワルド様が脳裏を過る。

「い、いえ!そんなんじゃ、そんなんじゃないんです!」

 思い切り、後ろへ退こうとして、今度は腕を掴まれた。

「今度は背中から池に飛び込むつもりか?」

「す、すみません……」

 すると、シュンとしたシルヴィアの手をエドワルド様が優しく握った。

「寝不足なら、散歩は辞めて部屋でのんびりしよう」

 そう言って、エドワルド様は私の手を引いて屋敷に向かっていく。

 エドワルド様って、やっぱり優しい……。それに、握られている手が、何だか守られてるみたいで、恥ずかしいのに嬉しい……。

 シルヴィアは寝不足のボーッとする頭で、少し前を歩くエドワルドの背中から目が離せないでいた――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

王子と婚約するのは嫌なので、婚約者を探すために男装令嬢になりました

Blue
恋愛
 ガルヴァーニ侯爵家の末娘であるアンジェリーナは困った事になっていた。第二王子が一方的に婚約者になれと言ってきたのだ。バカな上に女癖もよろしくない。しかも自分より弱い男に嫁ぐなんて絶対に嫌なアンジェリーナ。第二王子との婚約が正式に決まってしまう前に、自分より強い素敵な人を探すために、色々な人の力を借りて彼女は強い者たちが集まる場所に探しに行くことにしたのだった。

ねーちゃんの愛読書の、『ザマァされる王子』に転生したんだが。

本見りん
恋愛
俺がねーちゃんに渡された数冊の本。……それが全ての始まりだった。 高校2年の初夏、俺は事故に遭った。……そして、目が覚めると……。 ねーちゃんの本のザマァされる王子に転生していた! 何故か本の内容の通り勝手に動く身体。……このままじゃ、俺は『ザマァ』されてしまう! ねーちゃん! どうすりゃいいんだ!?

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、推しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

魔王様は転生王女を溺愛したい

みおな
恋愛
 私はローズマリー・サフィロスとして、転生した。サフィロス王家の第2王女として。  私を愛してくださるお兄様たちやお姉様、申し訳ございません。私、魔王陛下の溺愛を受けているようです。 *****  タイトル、キャラの名前、年齢等改めて書き始めます。  よろしくお願いします。

処理中です...