私はただ、憧れのテントでゴロゴロしたいだけ。

もりのたぬき

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【1部】第五章.いざ行かん馬車の旅

063

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夕食中はあの父娘に絡まれることも無く、平和に食べ終えて談話室へ戻った。

(ライム、お腹減ってない?何か食べる??)
(まりょく、まんたん、たべもの、ふよう)
(そっか、お腹減ったら言ってね。沢山あるから)
(あるじ、かんしゃ、ありがと)


『今はマスターと契約をしたばかりで魔力が満たされているので、食欲の方も満たされているのでしょう』
(スライムって、魔力がご飯なの?)

『そういう訳ではありませんが、生きるために必要な要素の一つなので、普段は物を食べて補充します』
(なるほど?)

『ライムの場合、ポーションで不足した魔力が満タンになった上に、契約時にマスターから貰った魔力が上乗せされて、120%くらいの魔力を持っている状態です』

(お腹いっぱいどころの話では無いって事ね)
『まあ、そんな感じです』

(ていうか契約する時に魔力が必要とか聞いてないけど?)
『スモールスライムとの契約ならば、渡る魔力量も少ないので言う必要は無いかなと思いまして』

契約時に主から魔物に渡る魔力は、魔物の"格"で変わるらしく、スライムは低級なのでとても少ないのだそう。

これがドラゴンとかになると幼体でも、ごっそり魔力を持って行かれて、テイマーが魔力枯渇で死ぬこともあるんだとか。
その為、テイマーは自分の力量を正確に知っておく必要があるんだってさ。

お互いに契約に同意し、テイマーの魔力が潤沢でないと強い魔物とは契約出来ない。というのがテイムスキルなんだって。

(なるほどねー、テイムスキルをスライムに限定しておいてよかったかも。まあライム以外をテイムする気は無いけど)
(らいむ、うれしい、ありがと)


暫くすると、消灯ということで暖炉以外の灯りが消され、部屋が薄暗くなった。
外は相変わらず大荒れの様で、雷鳴が響いている。

流石に、床に直接横になったり普通の椅子で寝るのはきついので、いくつかあるソファーに適当に寝転がった。

(ナビ、ライムおやすみ)
『おやすみなさいマスター』


***

翌朝、談話室から廊下に出ると、既に窓の鎧戸は開け放たれていて、外は昨日の嵐が嘘のように綺麗に晴れ渡っていた。

「おぉー、綺麗に晴れたねー!!」
『おはようございますマスター、天気は良好ですね』
(あるじ、おはよう)

(ナビもライムもおはよう)

身体を伸ばすついでに深呼吸をすると、肺の中に早朝の爽やかな朝の空気が流れ込んでくる。

「あ、お客さんおはようございます。早いですね」
「御者さん、おはようございます。天気が回復してよかったですね」

「ええ、ただ道はドロドロで馬車が揺れると思いますので覚悟しておいてください…」
「うへ…わかりました。酔い止め飲んでおきます」

「もう少ししたら、道を確認しに行った者達が帰ってきますので…ルートはその後にお伝えしますね」
「はい、よろしくお願いしますー」

『峡谷の道が通れると良いですね』
(そうだね)

私は一度、駅舎の外に出ようとしたんだけど、入り口の前が明らかにぐちゃぐちゃのドロドロだった。

「あぁ…これはやめておこう…」
『賢明な判断ですね』

仕方が無いので、ダイニングへ足を運んだ。

「あ、ブロッサムちゃんおはよー!」
「リムさん、おはようございます」

ダイニングにはリムがいた。従業員と共に、先に食事を済ませたのだろう。

「リーダーさんたちは?」
「リーダー達は道の状況確認に行ったよ」

「あ、そうだったんですね。道、通れると良いですね」
「そうだねぇー」

リムと話した後、道の確認に行った人の為に出入り口に水桶を用意するのを手伝った。
水桶の用意が終わるとすぐに、泥だらけになった人と馬が帰って来た。

「いやー!駄目だ!!スプリット渓谷の南側の道は完全に崩れちまってる!迂回しかない」
道を見に行った人たちが口々に言った。

「南側の道?ってことは対岸にも道があるんですか?」
「あ、ブロッサムちゃんは知らない?」

リムさんの話によると、スプリット渓谷の道は殆どが細く、馬車のすれ違いが出来ない為、南側の崖をザラックへ行く道、北側の崖を王都へ向かう道と分けているのだ。

「なるほど」

「場所によっては途中に退避できる場所も無いから、馬車が故障して立ち往生すると、すぐに直せない場合は馬車を谷へ捨てることもあるのよ」
「うわぉ…」

確かに、1台しか通れないとなると、そうせざるを得ないのか。
という事は、谷底には馬車の残骸が沢山落ちてるって事なのか…でも、それって大丈夫なのかな?
川の神様が怒っちゃいそう…。

そして朝食の後、峡谷を大きく迂回して黒の森を通る事が他の乗客たちにも伝えられた。

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