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第3章〜新たな出発〜
芸術ホール④
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オーロラは外で話しましょうと言ってステージの舞台袖を通り、楽屋の並ぶ通路を通って裏口を出てホール外の裏庭に連れだした。細い緩やかな勾配の道に沿うように設置された花壇には、黄色や赤、白のチューリップが花を咲かせていた。緑の葉をつけ始めた木々の枝に小鳥が止まり小さく囀っている。
オーロラはベンチの一つに腰を下ろした。私もそのすぐ隣に座った。こうして隣に座るのはいつぶりだろう。オーロラがさっきよりも近く感じられた。
「あなたから手紙が来なくなって、毎日心配で夜も眠れなかった。あなたが戦争の犠牲になる夢や、車に轢かれる夢、海に落ちて死んでしまう夢も見たわ。目が覚めるたびに夢だったんだって安心する。でも、同じことが起こるんじゃないかって考えると、すごく不安で心配で……」
口に手を当て咽び泣くオーロラの姿を見て、罪悪感で胸が壊れそうになった。
「オーロラ、ずっと連絡できなくてごめん。私、一度本当に海で溺れかけたの。それで死にかけたけど漁船に救われて奇跡的に命が助かった。あなたの夢を見たわ。あなたと私が小学生のときに店でたまたま会って、お揃いのリボンをつけてはしゃいでる夢……。すごく懐かしかった。今夢じゃない本物のあなたに会えて、生きててよかったと思う」
オーロラはただ頷いて話に耳を傾けていた。聞き上手なところもオーロラのままだ。
オーロラに伝えたいことがある。渡したいものも。
私はオーバーオールのポケットからCDケースを取り出した。
「これ、あなたが欲しがってたCDよ。元はといえばこれを買うためにスラムに行って、銃撃戦に巻き込まれてサーカス列車に逃げ込んだの。次の駅で降りることもできたんだけど、あなたにどうしても直接会って渡したくて……。最悪なことに途中信頼してた人に盗まれたり、海に落ちて水で濡れちゃったの。飛び込んで救出しようとしたんだけどね。ちゃんと聴けたらいいんだけど」
オーロラの目にまた涙が浮かんだ。彼女の瞳が涙で光ると、心が得体の知れない熱を帯びた切なさに締め付けられる。
「あなたはこのCDを渡すために……。私のためにここまで来てくれたのね。本当にごめんなさい。そして、ありがとう。あなたほどの友達はいないわ、こんなに想ってくれているなんて……」
ありがとうともう一度言ってオーロラはCDを受け取り、愛おしいものにするようにそっと胸に抱き締め目を閉じた。彼女の頬を伝う涙が曇空から覗く陽の光に照らされる。その姿は聖母のように神聖で美しかった。
「謝らないで、オーロラ。私が勝手にしたことよ。CDを買ったのも会いにきたのも私の意志。あなたは悪くない。私はあなたにそれを渡したかっただけ。それがこんな大冒険になっちゃったわけだけど……」
これじゃない。彼女に本当に伝えたいことは、すぐ喉元まで出かかっていた。想いを伝えることは凄く怖くて勇気が要る。その気持ちが強ければ強いほど。だけど伝えないうちは私は臆病者のままだ。
「オーロラ、さっきの聴いてた? その……私がエスメと話してたことを」
オーロラは首を傾げた。
「エスメ? 彼女が来てたの? 私、ずっと駐車場でフィンランドの絵本作家の友達と話してて気づかなかったわ。会場に来たら何か怒ってる声が聴こえて、もしかしたらあなたかもしれないと思って急いで駆けつけたんだけど……」
ほっと胸を撫で下ろした。オーロラに全て聞かれてはいなかったようだ。それどころか彼女はエスメがいたことにすら気づいていなかった。告白の前に誤爆なんてそれこそ辛すぎる。
「ならよかった。オーロラ、あなたに伝えたいことがあるの」
オーロラが微笑み首を傾げてじっと私を見つめている。これだけで緊張が最高潮に達している。深呼吸して心の中で3秒数え彼女の目をまっすぐに見つめる。
「愛してるわ、オーロラ」
オーロラはベンチの一つに腰を下ろした。私もそのすぐ隣に座った。こうして隣に座るのはいつぶりだろう。オーロラがさっきよりも近く感じられた。
「あなたから手紙が来なくなって、毎日心配で夜も眠れなかった。あなたが戦争の犠牲になる夢や、車に轢かれる夢、海に落ちて死んでしまう夢も見たわ。目が覚めるたびに夢だったんだって安心する。でも、同じことが起こるんじゃないかって考えると、すごく不安で心配で……」
口に手を当て咽び泣くオーロラの姿を見て、罪悪感で胸が壊れそうになった。
「オーロラ、ずっと連絡できなくてごめん。私、一度本当に海で溺れかけたの。それで死にかけたけど漁船に救われて奇跡的に命が助かった。あなたの夢を見たわ。あなたと私が小学生のときに店でたまたま会って、お揃いのリボンをつけてはしゃいでる夢……。すごく懐かしかった。今夢じゃない本物のあなたに会えて、生きててよかったと思う」
オーロラはただ頷いて話に耳を傾けていた。聞き上手なところもオーロラのままだ。
オーロラに伝えたいことがある。渡したいものも。
私はオーバーオールのポケットからCDケースを取り出した。
「これ、あなたが欲しがってたCDよ。元はといえばこれを買うためにスラムに行って、銃撃戦に巻き込まれてサーカス列車に逃げ込んだの。次の駅で降りることもできたんだけど、あなたにどうしても直接会って渡したくて……。最悪なことに途中信頼してた人に盗まれたり、海に落ちて水で濡れちゃったの。飛び込んで救出しようとしたんだけどね。ちゃんと聴けたらいいんだけど」
オーロラの目にまた涙が浮かんだ。彼女の瞳が涙で光ると、心が得体の知れない熱を帯びた切なさに締め付けられる。
「あなたはこのCDを渡すために……。私のためにここまで来てくれたのね。本当にごめんなさい。そして、ありがとう。あなたほどの友達はいないわ、こんなに想ってくれているなんて……」
ありがとうともう一度言ってオーロラはCDを受け取り、愛おしいものにするようにそっと胸に抱き締め目を閉じた。彼女の頬を伝う涙が曇空から覗く陽の光に照らされる。その姿は聖母のように神聖で美しかった。
「謝らないで、オーロラ。私が勝手にしたことよ。CDを買ったのも会いにきたのも私の意志。あなたは悪くない。私はあなたにそれを渡したかっただけ。それがこんな大冒険になっちゃったわけだけど……」
これじゃない。彼女に本当に伝えたいことは、すぐ喉元まで出かかっていた。想いを伝えることは凄く怖くて勇気が要る。その気持ちが強ければ強いほど。だけど伝えないうちは私は臆病者のままだ。
「オーロラ、さっきの聴いてた? その……私がエスメと話してたことを」
オーロラは首を傾げた。
「エスメ? 彼女が来てたの? 私、ずっと駐車場でフィンランドの絵本作家の友達と話してて気づかなかったわ。会場に来たら何か怒ってる声が聴こえて、もしかしたらあなたかもしれないと思って急いで駆けつけたんだけど……」
ほっと胸を撫で下ろした。オーロラに全て聞かれてはいなかったようだ。それどころか彼女はエスメがいたことにすら気づいていなかった。告白の前に誤爆なんてそれこそ辛すぎる。
「ならよかった。オーロラ、あなたに伝えたいことがあるの」
オーロラが微笑み首を傾げてじっと私を見つめている。これだけで緊張が最高潮に達している。深呼吸して心の中で3秒数え彼女の目をまっすぐに見つめる。
「愛してるわ、オーロラ」
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