日本昔話村

たらこ飴

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7. 凄惨な事件

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 それからの日々はあっという間に過ぎていった。朝は五時起きで水汲みに行き、今度は薪拾い、薪割りからの畑仕事を手伝う。休憩もあまり長くしていると松に「働かざる者食うべからず!」と怒られる。普段身体を動かすことが少ない僕は最初のうちは全身の筋肉痛に悩まされた。また、道を歩くたびに突き刺さる物珍しそうな村人たちの視線もかなり痛かった。

 一方の権田には人見知りという概念はないのか誰とでもすぐに打ち解け、誰かにアフロを珍しがられても「鳥飼ってるんすよ!」と本当か嘘かわからないようなことを言って笑わせていた。

 朝、昼、晩と質素だが美味しい食事をとらせてもらえ、夜は疲れて20時には床につく。いつもあちらの世界で不規則で自堕落な生活をしていた僕は、こっちの世界で役割を与えられ規則的な生活を続けることで活力が漲り気持ちが充実しつつあった。

 そのうち僕たちのことを怪しんでいた村人たちとも少しずつ打ち解け、近所のお婆さんから煮物をもらったり、その向かいの家のおじさんから川魚をもらったりもした。何か困ったことがあれば皆が率先して助けてくれた。全てがアナログの生活に不便を感じることは多々あったし戸惑うことも多いが、この旧式の暮らしに少しずつ馴染んでいった。

 村に来て二週間が経ったころ、畑仕事の休憩中さつま芋を頬張りながら権田が言った。

「俺よぉ、前に母ちゃんから聞いたんだ。俺たちが住んでた町のはずれに昔村があったんだけど、やばい事件が起こって住民が全滅したんだと」

「何だよ、やばい事件って?」

「その村には大男がいた。身体がデカく知恵遅れなもんで村人達から虐められてた。ある日ついにそいつがプツンときて、村の皆を武器なしで殺してまわった。最後に隣村からかけつけた自警団に銃殺されたんだと」

「そんな恐ろしいことが……」

 もしその話が本当なら僕たちが今いるのがその村で、あの大男が惨殺事件の犯人ということか。優しく気の弱そうな彼が皆殺しなど俄かに信じられない。だが感情を押し殺して爆発することは誰にでもある。

 会ったばかりの相手には信じられないと言われるが、僕も子供の頃は攻撃的でよく施設を逃げ出したり職員にひどい言葉を吐いたりしていた。今となれば自分がいかに幼稚で愚かだったか分かるが、あの時の僕は両親がいない、誰にも必要されていない人間なんだという思い込みが異常なまでに強く、やりようのない怒りを誰かを傷つけることで発散していた。あの時辛抱強く愛情深く僕を叱り、受け止めてくれた施設の人たちには感謝してもしきれない。もしかしたらあの大男だって、誰か心を許せる相手がいれば、誰かを殺そうなんて思わなくなるかもしれない。彼の孤独が理解できる僕からしたら、自分が彼の話し相手にでもなれたらと思うのだった。

 僕は、近くの川で洗濯をしていた幸にそれとなく彼のことを訊ねた。彼女はすぐに「ああ、耕太郎のことね」と合点がいったようだった。耕太郎の姓は猪山というらしい。幸と耕太郎は子どもの頃同じ寺子屋で読み書きを習っていたそうだ。耕太郎が覚えが悪く他の子どもたちにからかわれて泣いていたのを、幸はよく庇っていたらしい。村人たちから虐げられるうち、耕太郎は次第に心を閉ざすようになったという。

「同じ人間なのに、どうして虐めたりするのかしらね」

 幸は悲しげに呟いた。

 例の事件が事実だとして、何故僕たちはここに入り込んだのか? 疑問は沢山あったが、それがこの先起きるのだとすれば、何としても阻止しなければならない。村人たちをーー誰よりも幸と松を救わなければ。
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