ネコハラ

たらこ飴

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一斉捕獲④

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「あの……少しだけ聞いてほしいんですが……」

 私は言い争いを繰り広げる六人の間に入った。

「善二さんと道子さんは、猫たちのために本当に頑張ってます。猫の家も建てましたし、朝早く起きて家と外の猫たちにご飯をあげて、トイレ掃除とか買い物とか、近所の皆さんが思ってる以上に責任を持ってお世話しています。あの数の猫をお世話するのは相当の覚悟と責任がいることです。命をあずかるというのは、皆さんが考えている以上に大変で、一筋縄ではいかないんです。でも善二さんは文句一つ言わずにやってます。だからあまり責めないであげてほしいです。それに、猫たちに罪はないです。猫たちは誰かに迷惑をかけたり傷つけるつもりはなくて、ただ自由に生きて食べておしっこやうんちをしてるだけなんです。それに、あの子たちはちゃんと人間の言葉を理解してます。人と同じで嫌なことを言われたら傷付きます。心で思っていても、臭いとか汚いとか、駆逐とか、迷惑とか、保健所にやれとか、殺すとか、そういう乱暴な言葉は使わないであげてほしいです」

「そやそや」と存田さんも話に入ってきた。

「まぁアレや。誰が悪いって責任なすりつけるんやなくて、地域でなんとかしてかんといけんのや。こんなときこそ団結せんでどうすんねん。猫も人間と同じように生きてんねん。生きてるからには、猫も人間も同じように幸せにならなあかんやろ。そのためにこの人らは努力してんのやから、もう少し頑張りに目を向けてやってや。猫たちかて悪気ないねん。自分の家の庭でされたら腹立つのは分かるけどな、あんたらやって飯食うしうんこするやろ。野良の子はそこらでうんこするしかないねん、それが当たり前やねんから。そんなわけわからん楽器ガチャガチャ鳴らしてがなり立てて反目しあってたら、憎しみしか生まれんで」

 さっきまで怒鳴り散らしていた三羽烏はぴたりと静かになった。

「最初変な奴が来たと思ったが、あんた良いこと言うな」

 善二さんは感心した様子で存田さんを褒めた。あまり人を褒めることがない善二さんが言うくらいだから、存田さんの言葉は説得力があった。

「何や変なやつって。失礼なジジイやな」

「まあまあ、悪気はないんですよ」

 しばらくして近隣女性1が何かを決意したように宣言した。

「なら捕まえましょう。あの忌々しい猫たちを一刻も早く捕まえて、1匹残らず去勢避妊させましょう。そうして皆保護されれば、私たちは元の平和な生活に戻れる」

 他の2人も「やりましょう」「捕獲! 捕獲!」と続く。

 私たちの言葉が通じたのかは謎だが、協力者が増えたことはありがたかった。

 夕方までに猫屋敷の猫7匹+善二さん宅で面倒を見ている猫7匹の捕獲が無事に終わった。知らない人がたくさんいるため、余計に警戒して出てこないのかもしれない。
 
「いや~、藤原さんたちすごいっすよ! 私イキッてたわりに2匹しか捕まえられなかったっす! 2人とも捕獲のプロになれますよマジで」

 酒井さんに褒められながら、ほとんど存田さんの手柄なんだけどなと苦笑いした。

 捕獲された猫たちは皆車に運び込まれた。このあと仔猫たちとサンコと同じように、酒井さんの車で仙台に向かい病院で手術を受ける。夕陽に照らされた駐車場で、捕まってパニックになっている猫たちの大合唱が響き渡っていた。皆目をかっ開き、「何なんだこれは?」「早くここから出せ!」と訴えているみたいだった。誰だって突然捕まえられて狭い箱の中に入れられ、知らない空間に閉じ込められたらこうなる。人間の都合でこんな大きなストレスを受け生殖機能を奪われる。いろんな事情でこうなっていることは百も承知だし必要なことだと認識しているものの、猫たちの気持ちを思うと哀れで不憫でやるせなかった。
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