世界は妖しく嗤う【リメイク前】

明智風龍

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2章 学校編

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 表向きは松場中学の顔、ひいては3年2組の首領とも言える4人衆の登場は僕の心臓をキュッと締め付けるのには充分だった。
 それもそのはず──。
 あのとき、見られていたのだから。
 森近光也(もりちか_みつや)。
 この男により、僕が休んだ間に起きた僕に対する心無い嘲笑やからかいを思い出させる結果をもたらした。
 だるま落としで中間の積み木をすこーんっと抜き取るように、大きく欠落していたLINEやTwitterで起きたいじめにまつわる記憶が甦ったのだから。
 
「なー、ゆ、う、き、くーん」
 
 明らかにからかうときに使う一文字一文字をぶつ切りにしたような耳に障る声で森近は話しかけてきた。
 やめて。やめてよ。怖いから。
 クラスメートに対して、高まり続ける恐怖心で血の涙が眼からこぼれ落ちるのを固唾を飲んでただ不格好な彫像のようにかたまることしかできなかった。
 
「お前、よー来れたなぁ」
 
 相変わらず声のトーンと顔の表情が合っていない。
 恐怖で萎縮しているけども、これだけはわかる。
 彼が満面の笑みを見せたらや・ば・い。
 何を企んでいるかわからないからだ。
 かくいう僕自身、周りから何て思われているか、きがしれないが。
 とにかくだ。
 森近、この男にだけは目をつけられたくなかった。
 思うように身体が考えについていかずぐだるなか、先行して話しかけてきた森近より、少し遅れて大槻と岡本が口走った。
 
「なぁ、五明。お前、家で何をしてたんだよ」
「良いよなぁ。お前は家でどうせなんもせんとぼーっとしてたんだろ?」
 (違、違う)
 否定の言葉を口に出したくても、歴とした力関係が生じているのが充分すぎるぐらい知っている今、「違う、そうじゃない」なんて言葉を口に出すことは許されなかった。
「……う、うん……」
 ただうなずくことしか僕にはできなかった。
 それを見て、隷従(れいじゅう)する人間だと僕に烙印を押して、森近、大槻、岡本の3人はぎゃはははという下品な笑いを惜しげもなく表に出した。
 涙混じりの小さなうめき声を漏らしていると、
「おい、止せよ。こんな肝っ玉のちいせぃやつをからかってどうする」
 と、生徒会長をしている木崎が普段つるむこの3人を制止。
 みじめな僕に天が味方したんじゃないか、そう思って嬉しさが込み上げてきた。
 でも、つかの間の安堵だった。
 
「ちげーねぇ」
 
 再度嘲笑の雨を食らった。
 
(見てろよ。お前ら4人め!)
 
 心のなかでは僕は充分に牙を剥いた。
 噛みつきもした。
 どうだ!
 たまには僕もやるだろう、って。
 口ではいえないんだけども。
 
「ああ、その通りさ。みてみろ。良い考えがあるから」
 木崎はそう笑いながら3人に向けて言い放つと、手洗い口の水道をひねり、トイレ用具のバケツに水をじゃじゃーっと汲み出した。

「おい、何をするんだよ!」
「まさか?」
「そのまさかさ」
     
 大槻と岡本がほぼ同時に言葉を発し、妙に勘の良い森近が「まさか?」と、発言した。
 木崎のいう「そのまさかさ」という発言が妙に明るいから3人は察していたが──。
 彼らがいわんとすることが何か、彼らにしかわからなかった、半べそをかいている僕には。
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