最弱のネクロマンサーを追放した勇者たちは、何度も蘇生してもらっていたことをまだ知らない

玖遠紅音

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1巻

1-3

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 九話 ネクロマンサー、魔族の現状を知る


「――っ、はぁ、はぁ……ギリギリ、だったな……」

 ドラゴンが魔界ゲートに呑み込まれていく様を見届けた俺は、緊張の糸が切れて地面に膝をついてしまう。
 あのドラゴンは一体何だったんだろうか。
 最後、俺に向けてなんか言っていたし、ただの竜種という訳ではなさそうだが……

「っ、ここは……?」

 っと、蘇生が完了したか。
 目覚めた魔族の少女は、ゆっくりとした動作で首を動かして自分の体を確認したり周囲を見渡したりしている。
 改めて見てみると、かなりの美人だな。
 月明かりに照らされた金色の髪と、深紅の瞳。女性にしてはやや長身か。
 しかし体は剣を扱う者とは思えないほど細く、表情はどこかはかなげな印象さえ覚えた。

「……あなたは、人間?」
「ああ、目覚めたか、魔族さんよ。俺の名はレイル。お前は?」
「レイル、レイルね。覚えたわ。わたしは……わたしは、フィルカ。よろしくね」

 人間と魔族。
 敵対する二種族が対面して「よろしく」とは、一体どういうつもりなのかと勘繰ってしまうが、彼女――フィルカからは敵対する意思が今のところ感じ取れない。
 とりあえず話が通じそうな相手で良かった。

「一応聞いておくが、体の調子はどうだ?」
「体……不思議なくらい軽いわ。傷も塞がっている。あなたが治してくれたの?」
「……ああ、そうだ」

 正確には一度殺してから蘇生したのだが、ちゃんと記憶が消えているのならわざわざ言う必要はない。
 ついでに魔族を蘇生したのは初めてだったが、与える効果は人間と大して変わらないという情報が得られたな。
 ……まあ今後役に立つのかは知らないが。

「ありがとう。あなた、優しいのね」
「優しくはないぞ。割と真面目に」

 優しい人はまだ生きている奴を殺して、無理矢理使役するなんてことはしないからな。
 こんな事ばっかりやっていると、そのうち地獄に落とされるんじゃないか、と恐怖する事もある。

「そうなの……? ところでここは、人間界?」
「そうだ。そのことについて何故魔族のフィルカがこんなところにいるのか、さっきのドラゴンは一体何なのかなどを詳しく聞かせてもらいたい。いいか?」
「ドラゴン……魔障竜のこと? そう言えばさっきまでわたし、誰かと一緒に魔障竜と戦っていたような……」

 この微妙に記憶が残る感じも人間と同じか。
 自分が敵を倒したという記憶だけが残る仕様の能力とか、作った奴に悪意があるように思えてならない。
 いや、それよりもあのドラゴンは魔障竜という名前だったのか。
 普通のドラゴンとどう違うのかは非常に気になるところだ。

「とりあえず村に戻ろう。ついてきてくれ」
「村、村があるの? わたし、行ってみたい」
「だから連れて行くって言っただろう……」

 何と言うか、フィルカと話していると彼女が魔族だとはちっとも思えないな……
 とはいえ角もしっかりあるし、肌の色も青紫。どう見ても魔族で間違いない。
 まあ、害はなさそうだし村に入れても大丈夫だろう。多分。


     ◇ ◇ ◇


 戻ったらドラゴンの火焔かえんで結界を貫かれて村が滅びていました――なんていう最悪な事態は起こっておらず、無事なままのルスフルの村に帰ってくることが出来た。

「わぁ……これが、人間たちが暮らす村なのね」
「そんなに珍しいものなのか? 魔界にだって村くらいあるだろう?」
「魔界にこんな小さな村はほとんどないわ。だってとても危ないもの」
「危ない……? まあいいや、こっちだ」

 俺はフィルカを連れて村の入口から中へと入っていく。
 するとそれに気付いたのか、続々とこちらに村人たちがやってきた。

「レイル! 無事だったか! あのドラゴンは!?」
「ああ、何とか追い返すことが出来たからもう安心してくれ」

 俺のその一言を受けて、村人たちが安堵のため息を漏らす。
 いくら頑強な結界の中にいるとはいえ、至る所から極大の火柱が上がる様を見ていたら、生きた心地がしなかった事だろう。

「そうか、良かった……ところでその子はさっきの魔族の子か?」
「ああ、とりあえず家で話を聞きたいんだが、いいか?」
「もちろんだ。さあ、こっちへ」

 村人たちが解散して家に帰っていくのを見てから、俺たちはライル兄さんの先導で我が家へと向かっていった。


     ◇ ◇ ◇


「さて、いろいろ聞きたいことはあるが……まずは何故あんなところで倒れていたんだ?」

 母さんが用意してくれた軽食が並べられたテーブルを囲み、早速俺はフィルカに質問を投げかけた。
 人間五、魔族一という比率ははたから見れば尋問にしか見えないが、実際はそんな重々しい雰囲気ではなく、俺の家族はフィルカを歓迎しているようだ。
 しかしまずは俺が彼女にいろいろ聞きたい、と言ったので、みんなは黙って聞いてくれている。

「えっと、どこから説明したらいいのかな……わたしは魔障竜――あのドラゴンと戦っていたの。それで致命傷を負って、とっさにアビスゲートを作って人間界に逃げてきたの」
「アビスゲート?」
「人間界と魔界を繋ぐ門のこと。魔界ではこのアビスストーンを使えば――あれ? ない……?」

 懐をごそごそと探り始めるフィルカだったが、どうやらお目当てのものは見つからなかった様子。
 アビスゲートと言うのは、さっきまで俺が魔界ゲートと呼んでいたもので、間違いないだろう。
 そしてフィルカの話から察するに、アビスストーンと言うのは、アビスゲートを造るために必要な道具という事になる。

「どこかで落としちゃったのかな……ごめんなさい」
「落としたんなら仕方ない。もしかしたらさっきの戦いでぶっ壊れたのかもしれないしな」
「そう、なのかな……」
「まあいい。それで、俺はさっきのところでお前が倒れているのを見つけ、その後に魔障竜とやらが空間を突き破って出てきたんだ。何とか魔界に送り返すことに成功したんだが、奴もそのアビスゲートとやらを造れるのか?」
「魔障竜を撃退!? 一体どうやって……わたしたちが束になってもかなわなかったのに……」
「それは……まあ、後で話す」
「そう、分かったわ。それで魔障竜だけど、多分アビスゲートを造る力はないわ。わたしが造ったゲートを利用されただけだと思う」
「そうか、それなら安心だ」

 せっかく魔界へと追い返したというのに、またこっちに来られたら今度こそお手上げだからな。
 それを聞けただけでも一安心だ。

「しかし魔界には、あんなおぞましい生物が普通にいるものなのか? あんなのがそこら中にいたら生活なんてできないと思うんだが」
「確かに魔界には強い魔物はいっぱいいるわ。でもあの魔障竜は別格。魔障から生まれた魔物の中では最強格と言っていいわ」
「ほう……ところでそもそも魔障とは何なんだ? 初めて聞いたんだが」
「魔障は……あらゆる生物を侵食して魔に落とす霧みたいなもののこと。魔物は魔障によって生まれるの。だからあのドラゴンも魔物に含まれるわ」
「なんだと……もしかして、魔物を倒すと変な霧が湧き出てくるが、それが魔障なのか?」
「そうね。そしてわたしたち魔族は今、その魔障に滅ぼされようとしているわ」
「っ!!」

 フィルカの話によると、もともと魔界は魔障が極めて多い世界らしい。
 魔族は魔障に多少の耐性があるけれど、大量に取り込めば死んでしまうのだとか。
 しかし魔族は四体の神獣のおかげで魔障の脅威から守られており、その神獣の加護がある領域内で生活をしているのだという。
 しかしある日、その神獣の内の一体の加護が消滅した。

「そのせいで東の領域にあったわたしたちが暮らしていた国――ヴァルファールは滅びたわ。大量の魔障と、そこから生まれた魔障竜を始めとする強力な魔物たちの手によって」
「そんな……」

 思わずリィアがショックの声を漏らした。
 しかしまさか魔界がそんな状況にあるとはな……今まで考えた事すらなかった。

「あれからもう、一年以上経ったわ。何とか生き延びることが出来たわたしは、消えた神獣の加護を追っていたの。そこで出会ったのが魔障竜」
「……なるほどな。大体理解した。魔族が何故、人間おれたちの世界に侵攻しようとしているのかもな」
「……そう。一部の過激な国は、四神獣の加護のバランスが崩れて力を増した魔障の脅威から逃れるために、人間界への侵攻をたくらんだわ。日に日に危険度を増していく魔物とかの対処のせいで上手く行っていないみたいだけど……」

 何故一気に侵攻せず、時々魔族をこの世界に送ってくるだけなのか疑問に思っていたが、そういう事か。
 魔障による悪影響のせいで、なかなか大胆な行動を取れずにいた訳だな。

「わたしの話はこんな感じ。次はあなたたちの事を聞かせて?」

 魔族も人間の世界同様、一枚岩ではないって事か。
 フィルカはフィルカで、別の方法で魔族が救われる未来を模索しているという事だな。
 他にも聞きたいことがない訳ではないが、一方的に質問してばかりでは悪いので、今度はこちらの事も話すことにした。
 会話は夜遅くまで盛り上がり、一旦お開きとなった。


     ◇ ◇ ◇


 そして翌日、俺は朝早くにフィルカに呼び出されて、家の外へと出る事となった。

「ねえ、レイル。あなた、強いのよね?」
「朝から急に何の用かと思ったら……まあ、強いぞ」
「ならお願い。わたしと一緒に魔界に来て。魔障竜と戦えるあなたなら、もしかしたら魔族を救うことが出来るかもしれない」
「おいおい、随分と壮大だな……」

 ……冗談なんかじゃない、本気だ、と言わんばかりの視線を向けてくるフィルカ。
 俺が今日旅立つことを聞いて、出発する前に味方に引き入れておこうと思ったのだろう。
 もう勇者パーティのメンバーですらなくなった俺は、世界平和のために尽力する必要なんてないんだが……

「……分かったよ。協力する」
「――! ありがとう、レイル」
「ああ……」

 言ってしまった。こうなったらもう引き返せない。
 けれど目の前で美少女が笑みを浮かべているのを見ると、断らなくて良かったとは思えるかな。
 ネクロマンサーは、真に頼れる味方がいてこそ真価を発揮する。
 旅のお供に強力な仲間を手に入れることが出来たとポジティブに考えよう。

「それじゃあ、行くか」

 俺の第二の冒険は、今度こそ本当に、世界を救う勇者になる物語なのかもしれないな。
 そんな事を思いながら、俺はフィルカと共に歩き出した。



 幕間 勇者、報告する


「なんてことをしてくれたのだッ!!」

 ゼルディア王国、王城、玉座の間。
 その主である当代国王ラスティ・リンド・ゼルディアが、側近の制止を振り切って、怒号と共に目の前に立つ少年の頬を勢いよく叩いた。
 パシンッ、とよく響く音が広がり、そして一瞬にして場は静寂に包まれる。

「ち、父上!! 何故俺を叩くのです!?」
「この大バカ者が! 己が何をしたのか、もう一度その口で言ってみるがいい!!」
「で、ですから! 役立たずのネクロマンサー、レイルをパーティから外して、新メンバーを入れると――ふげっ!?」

 今一度、少年――ラティルの頬を弾く音が響いた。
 国王ラスティの顔はまさに怒り心頭と言った様子で、それを一旦落ち着けるためか、大きなため息を吐いて再び玉座に腰を下ろした。

「はぁ……彼には我が娘の命を救ってもらった大恩があるというのに……このバカ息子が……」
「何を言っているんです、父上! ライラを救ってくれたのは流れの回復術師でしょう!? 確か名前はレイ――ん? 待てよ……」
「愚か者め! 魔物に襲われて致命傷を負ったライラを治療してくれたのは、この国に来たばかりのネクロマンサー、レイルだと言ったはずだぞ!」
「そ、そんな……レイルなんて名前、そこら中にあると思って……あんな奴が妹を救ったはずがないって……」
「……我が息子ながらあきれてモノも言えんわ。恩人に対する仕打ちとして最低なのは言うまでもないが、パーティのかなめたる回復蘇生役を失って、貴様らは今後どうやって魔族に対抗するというのだ。言ってみろ」
「それはもちろん! 俺たちの圧倒的な力で魔族なんて蹴散らして――うっ……」

 高らかに宣言しようとしたところで、父王の厳しい視線が向けられたことに気付いて、言葉に詰まる。

「で、でも父上。アイツの蘇生能力なんて本物なのか信用ならないし、そもそも俺たちは戦闘の際、一切傷を負う事なく敵を倒してきたんですよ……?」
「貴様……平民の能力なんて興味ないなどと言って、彼の蘇生実験を無断で欠席したのは誰だ! わざわざ見せてもらう機会を設けたというのに見なかっただけでなく、あり得ないと疑っていたというのか!?」
「そ、それは……」
「……もうよい! 彼を失ってしまった以上、お前たちには今まで以上の働きをしてもらう必要がある。くだらん女遊びをしている暇があったら己を鍛えるがいい!!」
「く、くだらんって! あれは未来の王妃を決める大切な――」
「言い訳は聞きとうないわ!! 下がるがいい!!」
「はっ、はいっ!!」

 王の一声を受けて、慌てて逃げるように玉座の間を去っていくラティル。
 愚息のあまりにも情けないさまを見送った国王は、今一度大きなため息を吐いた。
 まさかこんな報告を受けるとは夢にも思っていなかったので、今後どういった対応をすべきなのかを考えると、頭が痛くなってくる。

「……右大臣」
「はっ」
「すぐに彼の、レイルの行方を追ってくれ」
「承知いたしました。すぐにネクロマンサー、レイル殿の行き先を追わせます」
「うむ、頼んだぞ」

 彼はきっと、怒っているに違いない。
 こちらの勝手な都合で無理矢理追い出した以上、帰ってきてくれとは言い難いが、せめて正式に謝罪はすべきであろう。
 我が子の失態は己の責任でもある。
 その責任を取るためにも、何としてもレイルを見つけ出さなければ、と思う国王であった。



 十話 ネクロマンサー、隣町に到着する


 ルスフルの村から一番近い隣町。
 名をゼルドと言い、冒険者や商人で賑わう活気に満ちた明るい町だ。
 この世界の町や村は隣接しておらず、別の場所に移動するには魔物の領域と呼ばれる場所を通るしかない。
 町及び村を護る結界の効果範囲などの関係もあるが、一番の理由は、想定外の大規模な魔物襲来時に、全ての町・村が纏めて滅ぼされるのを阻止するためである。
 このおかげで仮に一つの町が潰されても、次の町が襲撃されるまで時間を稼ぐことが出来るという訳だ。
 冒険者はただの旅人ではなく、危険な魔物狩りを生業なりわいとした立派な職業であり、魔物の領域を通過して別の町へと移動する商人の護衛を引き受けるのも、彼らの仕事の一つだ。
 さて、そんなゼルドの町に到着した俺とフィルカ。
 魔族である彼女の姿を大衆に晒すわけにもいかないので、とりあえず彼女には家族からもらったフード付きのローブを着せている。
 町の入口に立っていた警備員には、道中で魔物に襲われて顔に酷い傷を負った、という大嘘を信じてもらって、とりあえず中に入ることに成功した。
 角だけだったら大きな帽子で隠せたんだが、青紫色の皮膚だけはどうにもならないのでこうするしかない。

「ふぅ。ザル警備で助かった。どうしてもダメだったら最悪一回死んでもらって記憶を飛ばすという手も考えていたが……」
「レイル……あなた、きっといつか罰が当たるわ」
「まあそれは冗談だが『はい、彼女は魔族です。通してください』なんて正直に打ち明けて通してくれるバカがいるなら、俺は見てみたいぞ」
「それは……まあ」
「頼むから人前で、その正体をバラすなんて真似は、絶対にしてくれるなよ? バレたら俺もお前も、ちょっと怪しい奴らから人類の敵にグレードアップする羽目になる」
「分かっているわ。気を付ける」

 それならいい、と返しつつ、俺とフィルカはなるべく目立たないように町を歩いていく。
 魔族のフィルカと共に行動すると、いろいろと制限がかかってやりにくいのだが、これから旅をするにあたって必要な道具を買い揃える必要があるので、仕方なく町に寄ったのだ。
 フィルカも人間の町が見てみたいとテンションを上げていたしな。

「それで、もう一度確認するが、アビスゲートを造るためのアビスストーンは、ダンジョンの最下層にあるんだな?」
「そう。あっちの方角に濃い魔障を感じるから、多分、そこ」
「……やっぱ変わらねえか。そっちの方角にあるのは王都リィンディアだ。お前が言うそのダンジョンは『グランドーラ』で間違いないだろうな」

 そう。ゼルディア王国最大都市である王都リィンディアには、未だ完全攻略者が存在しない超巨大ダンジョン・グランドーラがある。
 ダンジョンと言うのは地下で階層状に広がる魔物の巣窟そうくつだ。
 別にお宝が置いてある訳ではないし、魔物がダンジョンから出てくることはないので好んで潜る奴はあまりいないが、己を鍛えたり名誉を求めたりする人が挑んだりすることがある。
 一番奥には何があるのかと思ったら、魔界への入口があったんだな。

「人間界と、魔界は裏表。ダンジョンはその二つの世界を繋げる神の遺物……って話を聞いた事があるわ」
「へぇ……とにかく俺はまた王都に行かなければならないって訳か」

 正直全く気が乗らないんだがな。
 恐らく来るであろう追手から逃れるために王都を急いで出てきたのに、翌日すぐ戻るなんて、意味がないにもほどがあるというもの。
 とはいえフィルカに協力すると言った手前、今更嫌だとは言いたくない。
 仕方、ないか。

「ダンジョンに挑むなら、二人じゃ心もとないな。もう少し味方が欲しい」
「……当てがあるの?」
「……あると言えば、ある。ついでにそいつならばお前の見た目を人間と同じものに変えることが出来るかもしれない」
「そんな事、できるの?」
「まあ、無理ではない……と思う。ただアイツは……」
「だったら決定ね。その王都リィンディア? に行きましょう」
「……そうだな」

 いろいろ思うところはあるが、今はひとまず旅に必要なモノを買い揃えるとしよう。
 後の事は後で考えればいい。人はそれを現実逃避って言うんだろうけどな……

「あっ、レイル。あれは何?」
「ん、あれは屋台だが……」

 あれこれ考えていたら、どうやらフィルカは串に刺した肉を焼いている屋台に興味を示したらしい。
 フードから顔が出ないように手で押さえながらも、足を止めて視線はそちらに釘付けになっている。

「……買うか?」
「……いいの?」
「ああ。ちょっと待っていろ」

 ちょうど俺も腹減っていたしな、と言って、俺は一人で屋台の主に声をかけた。
 この先いろいろな屋台に興味を持って、ぼろを出されても面倒だから、最初に買ってやって満足させるのが一番いい……はずだ。

「ほら、熱いから気を付けろよ」
「ん……ありがとう、レイル――あつっ!」
「ったく、言ったそばから……」
「こういうの食べるの、初めてだから……」
「そうかい」

 フーフーと息を吹きかけて肉を冷ます様は、とても人類の敵として恐れられている魔族には見えない。
 生まれ持った能力に差はあれど、人間と魔族の本質はそんなに変わらないのかもしれないな。
 そんな事を思いながら、俺も口に肉を放り込みつつ適当な店を探すために歩き始めた。


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