ハズレスキル【すり抜け】を極めたら世界最強のチート能力に覚醒しました〜今更帰って来いと言われても、あの時俺を役立たずとして捨てましたよね?〜

玖遠紅音

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序章

8話 メイドさんが師匠になってくれるらしい

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「お空の旅しゅーりょー! 何度やっても気持ちいいですねー!」

「はぁ、はぁ、そ、そうですね……」

「あちゃー、休憩しているところで余計に疲れさせちゃいましたかね?」

 ある意味魔法勉強での疲れは吹き飛んだよ。ある意味でな。
 改めて、このエルフちゃんはヤバい。絶対に敵対しちゃダメだ。
 今この瞬間のうちに、脳みそに深く刻み込んでおこう。
 なんというか、短期間のうちにフーリさんに対する認識が変動しすぎな気もするけれど、こんなもん見せられたら仕方ないよな。うん。

 ところでさっき見た空は、オレンジ色だったな。
 フーリさんは、この屋敷の上空に飛んだって言っていたけれど、それが本当なら今は日が沈む時間。夕方のはずだ。
 時計が近くにないので正確な時間は分からないけれど、それくらい時間が経っていてもおかしくはない。

 そんなことを考えていたら、フーリさんに抱えられたままだった俺は椅子へと降ろされ、フーリさんはどこからともなく懐中時計を取り出して時刻を確認した。
 メイド服+懐中時計でスマートに時間を確認する様は、それだけでもちょっとカッコイイ。これコスプレイヤーじゃなくてガチなんだぜ?

「さてさて、ごはんの時間までもう少しありますけど、ヴェルぼっちゃんはこの後どうされますか?」

「え、あ、えっと……少し休んだらもうちょっと魔法の勉強をしようかなって思ってます」

「ふむふむ、勤勉でいいですねえ! この調子でいけばきっと将来は明るいですよ!」

「そ、そうですかね……?」

「そんな将来有望なヴェルぼっちゃんを、おねーさんが特別に手伝ってあげましょう!」

「――へっ?」

 フーリさんは漫画だったらニシシ……という擬音が横についてそうなしたり顔で、腕を組んでそう言い放ってきた。
 フーリさんってあの魔法入門書みたいなのの著者だって確かさっき言っていたよな?
 剣術が一番得意だけど、魔法も大きな学校で教鞭をとれるほどとも言っていた気がする。

「えっと、それってフーリさんが魔法を教えてくれるっていうことですか?」

「そういうことです! ついでに剣術の方も教えますよ!」

 おお……正直言って、それは結構魅力的な提案だな。
 いくらこの図書館で自由に学ぶことが出来るとはいえ、詳しい人に教わる方が断然効率がいい。
 俺とフーリさんの師弟関係の相性がいいのかは分からないけれど、他に頼れる人もいないしな。
  
「まあとりあえず一晩ゆっくり考えてみてください。また明日、ぼっちゃんがお勉強しているところにこっそりお邪魔しますから!」

「できれば普通に来てください……」

「ふふっ、考えておきます! さて、もうちょっと時間ありますし、せっかくだから坊ちゃんが今躓いていたところをやって見せてくれませんか?」

「あ、はい。えーっと……」

「はい! どうぞ!」

「あ、ありがとうございます……」

 あの本どこに置いたっけなと探し出す前にフーリさんがあっさり手渡してくれた。
 出来るメイドさんだなって思うのと同時に、気が利きすぎるのは逆に怖いと言っていた人の気持ちも分かるなとも思った。
 さて、例の魔法陣のページだが、繰り返しやりすぎて何ページにあるのか覚えてしまったのですぐに用意できた。

「むむ……」

 イメージは、ライトニングケーブルだ。
 ライトニングケーブルとは、簡単に言えばスマホ等の充電やパソコンとかと接続するときに使うケーブルの事。
 俺の右手を電源プラグ側。魔法陣をスマホ側と認識して、俺の右手から電気(魔力)を届けるイメージだ。

「ふむふむ、これは……なるほど」

 フーリさんにじっと見られていることも、深く集中してしまえば気にならない。
 俺の中に眠る(はずの)魔力を、まっすぐ魔法陣まで届けるだけの作業。
 魔力さえ届ければ、魔法陣側が勝手に術式を発動して光ってくれる。
 俺の腕が、その二つを接続するケーブルになるだけでいい。

 それだけだ。たったそれだけの事なのに……

「むむむむぅ……」

 自然と声が漏れる。力んでいるし、体の中から何かが出ていくのは感じ取れる。
 それなのに、一向に魔法陣は反応しない。
 何度も経験したことだが、何がダメか見当もつかないのでやっぱりイライラして、おそらく必要以上であろう量の魔力を強引に叩きつけ始めた。

「はいストップですっ! いったんやめてください!」

「…………」

「むむ、仕方ないですね。はい、強制終了ですよー!」

「うわっ!?」

 集中しすぎて周りの声など全く聞こえていなかったので、急に体を持ちあげられたことに驚いて声を上げてしまった。
 同時に凄まじい脱力感に襲われるが、フーリさんが強引に中断してくれたのですぐに倒れるほどではなかった。

「ふー、これは凄まじいですねえ……」

「……ぁ、フーリさん」

「その集中力もそうですが、魔力量が特に凄まじいですねえ」

「そ、そうなんですか……?」

「こんなこと、朝から繰り返していたんですか?」

「そうですが……」

 どうやら俺の魔力量はフーリさんから見てかなり多いらしい。
 ちょっと休憩すれば回復するとはいえ、こんな魔法陣光らせるためだけの作業ですぐにぶっ倒れてしまうくらいだから相当少ないと思っていたんだがな。
 あと何を確認しているのか知らないけど、あちこち撫でまわすのやめてください。くすぐったいし、ちょっと恥ずかしいです。

「いいですか。普通の人間は総魔力量の5分の1ほどの魔力を一気に使うと、体が耐えられなくなって休息をとるように脳から命令が下ります。ぼっちゃんがこれをやるたびに毎回倒れそうになるのもそれが理由です」

「な、なるほど……」

「それでですね。ぼっちゃんがさっき使った魔力量は、だいたい宮廷魔法使いの平均レベルと同じくらいですね。その年齢でこれは明らかに異常ですよこれは」

 おおマジか! つまり今の俺の魔力量は宮廷魔法使いの5倍ってことだろ?
 宮廷魔法使いがなんなのかとか、どれくらい強いのかとかは全く知らんが、おそらく魔法で飯を食っているプロのことを指しているんだろうし、俺ってやっぱり相当凄い才能を秘めているのでは……?

「ですが、魔法を発動するまでのセンスが全くないというか、どうしたらそこまで魔力を無駄遣いできるのか気になるレベルで酷いですね」

「えぇ……」

「なんと言ったらいいんですかねえ。凄まじい量の魔力を放出しているのに、魔法陣には一切届いていないんですよね。例えるならば、穴あきのコップに水を注ぎ続けているような感じです」

 マジかよ……それじゃあいくら膨大な魔力があったとしても全く意味がねえじゃねえか。
 魔力を持っていても魔法が使えないんじゃ宝の持ち腐れでしかな――ん、待てよ? 穴あきのコップに水を注いでいるって、それってつまり……

「すり抜けて、いる?」

「そう! その表現の方が正しいかもしれません! せっかく放出した魔力が魔法陣を何故かすり抜けてそのまままっすぐ進んじゃっているんですよね!」

 はい、犯人が判明しました。
 俺のスキル【すり抜け】。てめえのせいじゃねえか!!
 なんでスキルが俺の魔法使いへの道を妨害するんだよぉ!!

「あれ、ぼっちゃんひょっとして心当たりがある感じですか?」

「ふえっ? あ、いや、なんでだろうなーって気になっちゃって、はは……」

「そうですかぁ……不思議ですねえ」

 目を瞑って腕を組みながら悩むようなそぶりを見せるフーリさん――だけど、時々ちらちらとこっちを見ている気がする。
 俺の能力が壁抜けなのは伝えてあるから、もしかしてそこから連想されてバレちゃってるパティーンですかいこれは!?
 すり抜けてる? とか余計なこと言わなきゃよかった。

(……しかし、このデメリット、何とかしなきゃマジで)

 最初はすり抜けつえーとしか思ってなかったけど、こんな風に俺にとって必要なものすらすり抜けて反応しなくなるんじゃ話は大きく変わってくる。
 これからもこのようなことが続くと大変困るので、何とかしなきゃと改めて思った。

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