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6話 反撃の時間

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 王城の一室。
 
 ヴェネットに言われるがままについていくと、そこにはヴェルス殿下とセティア殿下、そしてセルキーが待っていた。
 ちなみに道中で聞いた話によると、一度彼女は正面から私への面会を求めたそうなのだが、まともに会話できる状態じゃないとお母様が追い返したらしい。
 それでもどうしても私のところへ来たかった彼女は裏道を探していて、その時にたまたま私が飛び降りようとしている場面に遭遇したのだとか。

 その後は緊急事態だからとごり押しで屋敷に入り込んで私の部屋まで来たと言っていた。

「ヴェルス殿。今回は極めて重要なお話があるとのことでこの場を設けましたが、そちらのミリア嬢は何故あなた方とともに行動を?」

「貴重な時間を取らせてしまい申し訳ない。セティア殿下、この場を設けてくれて深く感謝する」

 まずはこの場におけるトップの二人が挨拶を交わし、ヴェネットがその後に続く。
 セルキーは私の存在が不愉快なのか露骨に居心地の悪さを表に出していたが、セティア殿下には逆らえないのか、表立って文句を言ったり逃げ出そうとしたりはしない。
 ……いや、違う?

 どちらかと言えば私の右側に座るヴェネットの存在が気になっている様子だ。

「まずこちらのミリア嬢だが、この度謂れのない罪により裁きを受けていると耳にした」

「……それはどういう意味でとらえればよろしいか。我が父、国王陛下が決定された裁きを偽りと口にするのであれば問題になりますよ」

「勿論。何の根拠もなくこのようなことは口にしません。ではまず、こちらを」

 差し出したのは複数枚の紙。
 それを受け取ったセティア殿下は即座に記された文字に目を走らせると、

「これは……」

 その内容に酷く驚き、何度も何度も読み返している。
 そしてそれが間違いでないことを理解すると、くしゃっと髪を握りつぶし、思いっきり机に叩きつけた。

「セルキィィィィ! やはり私に嘘をついていたようだなああ!!」

「ヒィッ!?」

 顔を真っ赤にさせ、セルキーの胸倉を思いっきり掴む。
 セティア殿下の方が普通に体格的に上なので、セルキーは碌な抵抗も出来ないでいた。

「あに、うえ……くるし……」

「黙れ!」

「……これは僕の方でやらせた聞き取り調査の報告書だ。サインもしくは印を押させたからそこに嘘の証言はない。皆口々に言っていたよ。ミリア嬢の浮気現場など目撃したことはないとね」

「むしろあなたとマリィとやらが共に行動していたという目撃情報はたっぷり上がっていますわね! あなたが口封じに殺した・・・少年の父――甘味処の店主も、涙ながらに二人で店に来たことがあると証言してくださいましたわ」

 ヴェルス殿下とヴェネットは、次々とセルキーの矛盾点を指摘していく。
 どうやらあの後すぐに彼らは動き出したらしい。
 特にヴェルス殿下は「このままでは彼女の名誉に大きな傷がつく可能性がある」として、あらゆる手を尽くして情報を集めてくれたようだ。
 その時はまだ、私に関するうわさが広まっていなかったので皆正直に答えてくれたのだろうとヴェルス殿下は言う。

 私は目まぐるしい状況の変化についていけずただ混乱していただけだったけど、セルキーの胸倉をつかむセティア殿下の力がどんどん強くなっていくのは理解できた。
 セティア殿下は次期王に相応しい人格者と名高く、例え身内であっても不義理を働いたものは絶対に許さない。
 今回もセルキーに不審な点があるとある程度見抜いており、「もし私に嘘をついているようなことが発覚すれば、その時は今白状するよりも重い罰を与える」と脅したうえで裁きの場に望んだそうだ。

 陛下は王家としての体面を守りつつ不要なリソースを割かないためにも、怪しいながら私を犠牲にする形を選んだ。
 そのためセティア殿下は表立って動くことが出来なかったそうだが……

「貴様……私との約束を違えたことを深く後悔させてやるからせいぜい覚悟しておくんだな! ふんっ!」

「ぐげっ!?」

 セティア殿下はそのままセルキーを床に叩きつけると、すぐさま私の下へ来て深々と頭を下げた。

「この度は我が弟の行いによってその心身と名誉に深く傷をつけることとなってしまったこと、この第一王子セティアが王家を代表して深く謝罪申し上げる。本当に申し訳ない……」

 王族が貴族に頭を下げるなど、本来あってはならないこと。
 でもこの場でそれに突っ込みを入れる者は一人もいなかった。
 
「……それで、これからどうする?」

「無論、これらの資料を父上へお渡しし、再度正しき裁きを下していただく。その後はミリア嬢の名誉回復に努め、この馬鹿には重い処罰を与えることになるだろう」

「ひっ……」

「ぜひそうして欲しい。だけど僕から一つ提案がある。聞いてくれるかい?」

 そう言ってにこやかに笑うヴェルス殿下は、ちょっとだけ怖かった。
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