催眠術をかけたら幼馴染の愛が激重すぎる⁉

モト

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「突然無理! 無理む、」
 り。と言っている最中に階段なんぞで後退りしてしまって、そこから足を踏み外した。
 階段は全部で十五段。あと十二段あって、打ちどころによっては大怪我をする。

 あ──。

 宙を舞った視界の中に、セスが俺に真っすぐに手を伸ばしている。
 こういう時、どうしてか、一瞬だけ時間が止まったように全ての動きが鈍く感じる。

 セスの必死な表情。

 あ、なんだろう。
 昔、こんな風に彼の必死な表情を見たことがあったっけ……。

「──リュリュ!」
「っ、セス……」


 反射神経も優れているセスは飛び込むような勢いで大股でかけつけ、俺の腕を掴んだ。同時に崩れた姿勢は浮遊魔法で支えられて、身体が軽く浮く。

 両足がトンと地面に着いて、安堵の息を吐いた。

 セスは俺の腕をぎゅっと掴んだ。

「え⁉ 痛い──」

 彼に掴まれた腕が痛く顔を顰めた。彼が力の最弱化が出来ていない。

 その時、自分たちの足元からピシピシ……と階段にヒビが入る。縦割れのヒビは、壁にも亀裂の線が出来る。

 何が起きたのか分からないからセスを見ると、褐色の肌は血の気が引いていた。セスの額にはびっしりと掻いた汗。

 それほど心配してくれたのだろう。

「ごめん、気を付けるよ」


 彼は下を向いたまま呆然として、声をかけても反応はない。

 下から彼の顔を覗き込むと、その目は大きく見開かれる。かのように、勢いよく彼は手を離した。


「なんだよ。大丈夫か?」

 ポケットからハンカチを取り出し彼の汗を拭おうとして、手を叩き落とされる。小気味いい音がその場に響いた。

「──え」

「……なんともない、俺に構うな」

 すると、彼はひび割れた箇所の修繕をすると言って、俺に背を向ける。
 違和感を覚えたけれど、階段のひび割れを直すために魔法を使うなら、俺がこの場にいることは邪魔になるだろう。
 モノを直すことは壊すことより遥かに難しい。でも、セスならばひとりでも完璧に修繕できるだろう。

「悪かったな。じゃあ、行くよ」

 もう一度謝罪して、教室に戻るため階段を下り始める。もう一度、振り返り見上げたらセスは俺に背を向けたままだった。



 ◇

「セスの奴、本当に来るのかな」

 放課後、そわそわと落ち着かない気持ちで帰宅した。
 セスは何かと忙しい身。遅くなるとも言われていたので、読書でもして待ってやるかと心を大きくして待つことにした。
 いつもは読書に没頭できるのに、セスのことばかりが頭に浮かんでページを読む手が止まる。
 エッチなことをするのだろうか。
 俺の両親は結界の修繕やら他の案件で多忙で今日は帰ってこない。セスはうち専属庭師の息子であり、さらに国家魔法使いとも連日連絡を取り合っているから、家庭の事情も筒抜けのはず。
 俺を見ると百パーセントコブラが戦闘態勢に入る男、それがセスだ。
 きっと彼は部屋に入るなり、高速の早さで抱きしめられキスされ服を脱がされ……いや、少し紳士的な面もあるから、目一杯口説かれるかもしれない。それで次第に我慢出来なくなってさ……。

「……風呂に入ろう」

 本棚に本を戻し浴室に向かった。
 断じて期待しているわけではない、人としてのエチケットだ。自分の行動の気恥ずかしさを誤魔化すためにそれらを心で唱えながら、身体を磨いた。
 洗浄魔法を彼がすることは知っている。でも、ごしっ、ごしっと身体を洗う動作が念入りになる。心が浮きたって変な感覚だ。

 多分──じゃなくて好きなんだ。

 俺はセスのことがちゃんと好きだ。
 何一つ叶わなくて諦め癖が付いて、去るもの追わず。そんな自分を装っていたけれど、本当はセスとこうして仲良しに戻りたかった。

 浴室から出て、やや濡れた髪の毛をタオルで拭きながら廊下を歩いていると、西の空から大きな雷鳴が轟く。

 空に渦巻く黒い雲からポツポツと雨が降ってくる。次第にその雨は強まり、結局セスは屋敷には来なかった。

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