18 / 29
18
しおりを挟む
「突然無理! 無理む、」
り。と言っている最中に階段なんぞで後退りしてしまって、そこから足を踏み外した。
階段は全部で十五段。あと十二段あって、打ちどころによっては大怪我をする。
あ──。
宙を舞った視界の中に、セスが俺に真っすぐに手を伸ばしている。
こういう時、どうしてか、一瞬だけ時間が止まったように全ての動きが鈍く感じる。
セスの必死な表情。
あ、なんだろう。
昔、こんな風に彼の必死な表情を見たことがあったっけ……。
「──リュリュ!」
「っ、セス……」
反射神経も優れているセスは飛び込むような勢いで大股でかけつけ、俺の腕を掴んだ。同時に崩れた姿勢は浮遊魔法で支えられて、身体が軽く浮く。
両足がトンと地面に着いて、安堵の息を吐いた。
セスは俺の腕をぎゅっと掴んだ。
「え⁉ 痛い──」
彼に掴まれた腕が痛く顔を顰めた。彼が力の最弱化が出来ていない。
その時、自分たちの足元からピシピシ……と階段にヒビが入る。縦割れのヒビは、壁にも亀裂の線が出来る。
何が起きたのか分からないからセスを見ると、褐色の肌は血の気が引いていた。セスの額にはびっしりと掻いた汗。
それほど心配してくれたのだろう。
「ごめん、気を付けるよ」
彼は下を向いたまま呆然として、声をかけても反応はない。
下から彼の顔を覗き込むと、その目は大きく見開かれる。たった今、俺の腕を掴んでいたことに気づいたかのように、勢いよく彼は手を離した。
「なんだよ。大丈夫か?」
ポケットからハンカチを取り出し彼の汗を拭おうとして、手を叩き落とされる。小気味いい音がその場に響いた。
「──え」
「……なんともない、俺に構うな」
すると、彼はひび割れた箇所の修繕をすると言って、俺に背を向ける。
違和感を覚えたけれど、階段のひび割れを直すために魔法を使うなら、俺がこの場にいることは邪魔になるだろう。
モノを直すことは壊すことより遥かに難しい。でも、セスならばひとりでも完璧に修繕できるだろう。
「悪かったな。じゃあ、行くよ」
もう一度謝罪して、教室に戻るため階段を下り始める。もう一度、振り返り見上げたらセスは俺に背を向けたままだった。
◇
「セスの奴、本当に来るのかな」
放課後、そわそわと落ち着かない気持ちで帰宅した。
セスは何かと忙しい身。遅くなるとも言われていたので、読書でもして待ってやるかと心を大きくして待つことにした。
いつもは読書に没頭できるのに、セスのことばかりが頭に浮かんでページを読む手が止まる。
エッチなことをするのだろうか。
俺の両親は結界の修繕やら他の案件で多忙で今日は帰ってこない。セスはうち専属庭師の息子であり、さらに国家魔法使いとも連日連絡を取り合っているから、家庭の事情も筒抜けのはず。
俺を見ると百パーセントコブラが戦闘態勢に入る男、それがセスだ。
きっと彼は部屋に入るなり、高速の早さで抱きしめられキスされ服を脱がされ……いや、少し紳士的な面もあるから、目一杯口説かれるかもしれない。それで次第に我慢出来なくなってさ……。
「……風呂に入ろう」
本棚に本を戻し浴室に向かった。
断じて期待しているわけではない、人としてのエチケットだ。自分の行動の気恥ずかしさを誤魔化すためにそれらを心で唱えながら、身体を磨いた。
洗浄魔法を彼がすることは知っている。でも、ごしっ、ごしっと身体を洗う動作が念入りになる。心が浮きたって変な感覚だ。
多分──じゃなくて好きなんだ。
俺はセスのことがちゃんと好きだ。
何一つ叶わなくて諦め癖が付いて、去るもの追わず。そんな自分を装っていたけれど、本当はセスとこうして仲良しに戻りたかった。
浴室から出て、やや濡れた髪の毛をタオルで拭きながら廊下を歩いていると、西の空から大きな雷鳴が轟く。
空に渦巻く黒い雲からポツポツと雨が降ってくる。次第にその雨は強まり、結局セスは屋敷には来なかった。
り。と言っている最中に階段なんぞで後退りしてしまって、そこから足を踏み外した。
階段は全部で十五段。あと十二段あって、打ちどころによっては大怪我をする。
あ──。
宙を舞った視界の中に、セスが俺に真っすぐに手を伸ばしている。
こういう時、どうしてか、一瞬だけ時間が止まったように全ての動きが鈍く感じる。
セスの必死な表情。
あ、なんだろう。
昔、こんな風に彼の必死な表情を見たことがあったっけ……。
「──リュリュ!」
「っ、セス……」
反射神経も優れているセスは飛び込むような勢いで大股でかけつけ、俺の腕を掴んだ。同時に崩れた姿勢は浮遊魔法で支えられて、身体が軽く浮く。
両足がトンと地面に着いて、安堵の息を吐いた。
セスは俺の腕をぎゅっと掴んだ。
「え⁉ 痛い──」
彼に掴まれた腕が痛く顔を顰めた。彼が力の最弱化が出来ていない。
その時、自分たちの足元からピシピシ……と階段にヒビが入る。縦割れのヒビは、壁にも亀裂の線が出来る。
何が起きたのか分からないからセスを見ると、褐色の肌は血の気が引いていた。セスの額にはびっしりと掻いた汗。
それほど心配してくれたのだろう。
「ごめん、気を付けるよ」
彼は下を向いたまま呆然として、声をかけても反応はない。
下から彼の顔を覗き込むと、その目は大きく見開かれる。たった今、俺の腕を掴んでいたことに気づいたかのように、勢いよく彼は手を離した。
「なんだよ。大丈夫か?」
ポケットからハンカチを取り出し彼の汗を拭おうとして、手を叩き落とされる。小気味いい音がその場に響いた。
「──え」
「……なんともない、俺に構うな」
すると、彼はひび割れた箇所の修繕をすると言って、俺に背を向ける。
違和感を覚えたけれど、階段のひび割れを直すために魔法を使うなら、俺がこの場にいることは邪魔になるだろう。
モノを直すことは壊すことより遥かに難しい。でも、セスならばひとりでも完璧に修繕できるだろう。
「悪かったな。じゃあ、行くよ」
もう一度謝罪して、教室に戻るため階段を下り始める。もう一度、振り返り見上げたらセスは俺に背を向けたままだった。
◇
「セスの奴、本当に来るのかな」
放課後、そわそわと落ち着かない気持ちで帰宅した。
セスは何かと忙しい身。遅くなるとも言われていたので、読書でもして待ってやるかと心を大きくして待つことにした。
いつもは読書に没頭できるのに、セスのことばかりが頭に浮かんでページを読む手が止まる。
エッチなことをするのだろうか。
俺の両親は結界の修繕やら他の案件で多忙で今日は帰ってこない。セスはうち専属庭師の息子であり、さらに国家魔法使いとも連日連絡を取り合っているから、家庭の事情も筒抜けのはず。
俺を見ると百パーセントコブラが戦闘態勢に入る男、それがセスだ。
きっと彼は部屋に入るなり、高速の早さで抱きしめられキスされ服を脱がされ……いや、少し紳士的な面もあるから、目一杯口説かれるかもしれない。それで次第に我慢出来なくなってさ……。
「……風呂に入ろう」
本棚に本を戻し浴室に向かった。
断じて期待しているわけではない、人としてのエチケットだ。自分の行動の気恥ずかしさを誤魔化すためにそれらを心で唱えながら、身体を磨いた。
洗浄魔法を彼がすることは知っている。でも、ごしっ、ごしっと身体を洗う動作が念入りになる。心が浮きたって変な感覚だ。
多分──じゃなくて好きなんだ。
俺はセスのことがちゃんと好きだ。
何一つ叶わなくて諦め癖が付いて、去るもの追わず。そんな自分を装っていたけれど、本当はセスとこうして仲良しに戻りたかった。
浴室から出て、やや濡れた髪の毛をタオルで拭きながら廊下を歩いていると、西の空から大きな雷鳴が轟く。
空に渦巻く黒い雲からポツポツと雨が降ってくる。次第にその雨は強まり、結局セスは屋敷には来なかった。
180
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました
藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。
(あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。
ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。
しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。
気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は──
異世界転生ラブラブコメディです。
ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。
ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!
迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる