ベータですが、運命の番だと迫られています

モト

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15.小さい痕

 
 次の日の休みを返上して、会社の車で急いで某スタジオに向かった。


「すみません。三栗さん、うちのSEIがご迷惑をおかけします」
「いいえ。とんでもない」

 控室の前には彼のマネージャーがハンカチで鼻を押さえて俺の到着を待っていた。
 SEIが突発的なヒートを起こしたそうだ。

「彼は中に?」

 控室の中に入ると、SEIはスーツを頭からすっぽり被って蹲っている。
 抑制剤を飲んでいると聞いているが、かなり辛そうだ。
 マネージャーと俺とでSEIを車に乗せた後、マネージャーはそこで離れてもらう。

 俺は運転席に回り、SEIのマンションまで車を走らせた。

 
「もう少しですよ」

 ルームミラーからSEIの様子を窺う。
 オメガのヒートは見慣れているけれど、SEIの状態は酷い。
 全身汗びっしょりで、呼吸は荒く、辛うじて質問に頷く程度。


 マンションの部屋に送るまでが仕事の依頼だったけれど、倒れて何かあっては心配だ。

 SEIに部屋の外から「水を買ってきます」とひと声かけて、三時間ほど外に出た後、また様子をみに伺いにきた。
 完全なお節介で、給料も何も出ないし、嫌がる人もいるだろう。
 けど、勝手に数日分の水とゼリーを買ってきた。


『何かあったら、連絡ください』
 このまま、メモだけ置いて帰ろうと思ったときだ。


 ガチャッと扉が開いた。
 そこから出てきたSEIが、気まずそうに顔を赤らめている。

「あれ、もう部屋から出ても?」
「うん……。発情期じゃなくて突発的なヒートだったから短かったんだと思う。薬も効いてきたみたいだし」


 SEIの発情期は周期的だ。
 今まで薬を飲んでコントロールしてきたため、現場でヒートを起こしたことはなかった。


「こんなの……初めてで。現場に迷惑かけちゃった」

「……マネージャーさんが、うまくフォローに回ってくださっているはずです。大丈夫ですよ」

 
 俺はSEIを椅子に座らせて、水を手渡すと、彼は一気にそれを飲み干した。

 彼の顔はまだ真っ赤だ。
 無理に部屋に出てきたのは、不安を誰かに聞いて貰うためだったのだろうと、彼の話を静かに聞いた。


 スタジオ内は人が多く、何が(誰が?)原因でヒートを起こしたのか分からない。
 原因が分かるまで、強い薬を処方して対応していくほかはないのだそうだ。
 話して幾分落ち着いたのか、お腹が減ったとゼリーを食べ始めた。


「ねぇ、まだ時間あるかな? 三栗さんともう少し話したいんだけど」

「えぇ勿論です。元々休日でしたしね」


 何か不安なことでもあるだろう、と思ったが……


「気になっていたんだけど、三栗さんのアルファの恋人ってどんな人?」

 SEIの興味は俺だった。
 
「え、っと……俺、の話ですか」
「うん。ものすごいマーキングされてるから、気になっちゃって。三栗さんから強い威嚇フェロモンが漂っているよ」 

 マーキング……
 世には聞くアルファの動物的行動匂い付けだけど、まさか俺もされていたとは。

 
「イメージ的に言うと“俺のだ”“近づくな!”みたいな感じ?」

「えぇえ……」
 
 そんなフェロモンを纏う行為……
 したな、浴室で。あと、毎日濃厚なキスをされているし……

「怖い事されていない?」
「……」

 フェロモン付けられていることが怖いだよね。
 けど、怖い事されているかと聞かれて、「されています!」って言える程じゃない。

「……いえ、基本的には優しいです。それに恋人って言っても、続くかどうか分からないですし」

 フェロモンでバレているなら、隠しても無駄だなと正直に話した。

「嫌いなの?」
「いえ、そういうわけでは」
「そっかぁ、じゃ、その人は三栗さんに振り向いて欲しくて必死なんだろうな。フェロモンは相手にこっちを見て欲しいと願うと必然的に強くなるし」
「……」
「必死で可愛いね。そのアルファさん」


 その言葉に胸が小さくチクンと痛んだ。


 



 帰り際、
 玄関まで見送ってくれるSEIが、「あぁそういえば」と思い出したように、言葉を続ける。


「この前、三栗さんの首にチョーカー付けた時に思ったけど、髪の毛で隠れているけど、うなじに小さい痣あるよね?」

「え?」
「ほんとに小さい痣だけど」



 そう言って、SEIは小さな輪っかを指で作った。

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