ベータですが、運命の番だと迫られています

モト

文字の大きさ
15 / 25

15.小さい痕

しおりを挟む
 
 次の日の休みを返上して、会社の車で急いで某スタジオに向かった。


「すみません。三栗さん、うちのSEIがご迷惑をおかけします」
「いいえ。とんでもない」

 控室の前には彼のマネージャーがハンカチで鼻を押さえて俺の到着を待っていた。
 SEIが突発的なヒートを起こしたそうだ。

「彼は中に?」

 控室の中に入ると、SEIはスーツを頭からすっぽり被って蹲っている。
 抑制剤を飲んでいると聞いているが、かなり辛そうだ。
 マネージャーと俺とでSEIを車に乗せた後、マネージャーはそこで離れてもらう。

 俺は運転席に回り、SEIのマンションまで車を走らせた。

 
「もう少しですよ」

 ルームミラーからSEIの様子を窺う。
 オメガのヒートは見慣れているけれど、SEIの状態は酷い。
 全身汗びっしょりで、呼吸は荒く、辛うじて質問に頷く程度。


 マンションの部屋に送るまでが仕事の依頼だったけれど、倒れて何かあっては心配だ。

 SEIに部屋の外から「水を買ってきます」とひと声かけて、三時間ほど外に出た後、また様子をみに伺いにきた。
 完全なお節介で、給料も何も出ないし、嫌がる人もいるだろう。
 けど、勝手に数日分の水とゼリーを買ってきた。


『何かあったら、連絡ください』
 このまま、メモだけ置いて帰ろうと思ったときだ。


 ガチャッと扉が開いた。
 そこから出てきたSEIが、気まずそうに顔を赤らめている。

「あれ、もう部屋から出ても?」
「うん……。発情期じゃなくて突発的なヒートだったから短かったんだと思う。薬も効いてきたみたいだし」


 SEIの発情期は周期的だ。
 今まで薬を飲んでコントロールしてきたため、現場でヒートを起こしたことはなかった。


「こんなの……初めてで。現場に迷惑かけちゃった」

「……マネージャーさんが、うまくフォローに回ってくださっているはずです。大丈夫ですよ」

 
 俺はSEIを椅子に座らせて、水を手渡すと、彼は一気にそれを飲み干した。

 彼の顔はまだ真っ赤だ。
 無理に部屋に出てきたのは、不安を誰かに聞いて貰うためだったのだろうと、彼の話を静かに聞いた。


 スタジオ内は人が多く、何が(誰が?)原因でヒートを起こしたのか分からない。
 原因が分かるまで、強い薬を処方して対応していくほかはないのだそうだ。
 話して幾分落ち着いたのか、お腹が減ったとゼリーを食べ始めた。


「ねぇ、まだ時間あるかな? 三栗さんともう少し話したいんだけど」

「えぇ勿論です。元々休日でしたしね」


 何か不安なことでもあるだろう、と思ったが……


「気になっていたんだけど、三栗さんのアルファの恋人ってどんな人?」

 SEIの興味は俺だった。
 
「え、っと……俺、の話ですか」
「うん。ものすごいマーキングされてるから、気になっちゃって。三栗さんから強い威嚇フェロモンが漂っているよ」 

 マーキング……
 世には聞くアルファの動物的行動匂い付けだけど、まさか俺もされていたとは。

 
「イメージ的に言うと“俺のだ”“近づくな!”みたいな感じ?」

「えぇえ……」
 
 そんなフェロモンを纏う行為……
 したな、浴室で。あと、毎日濃厚なキスをされているし……

「怖い事されていない?」
「……」

 フェロモン付けられていることが怖いだよね。
 けど、怖い事されているかと聞かれて、「されています!」って言える程じゃない。

「……いえ、基本的には優しいです。それに恋人って言っても、続くかどうか分からないですし」

 フェロモンでバレているなら、隠しても無駄だなと正直に話した。

「嫌いなの?」
「いえ、そういうわけでは」
「そっかぁ、じゃ、その人は三栗さんに振り向いて欲しくて必死なんだろうな。フェロモンは相手にこっちを見て欲しいと願うと必然的に強くなるし」
「……」
「必死で可愛いね。そのアルファさん」


 その言葉に胸が小さくチクンと痛んだ。


 



 帰り際、
 玄関まで見送ってくれるSEIが、「あぁそういえば」と思い出したように、言葉を続ける。


「この前、三栗さんの首にチョーカー付けた時に思ったけど、髪の毛で隠れているけど、うなじに小さい痣あるよね?」

「え?」
「ほんとに小さい痣だけど」



 そう言って、SEIは小さな輪っかを指で作った。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

カミサンオメガは番運がなさすぎる

ミミナガ
BL
 医療の進歩により番関係を解消できるようになってから番解消回数により「噛み1(カミイチ)」「噛み2(カミニ)」と言われるようになった。  「噛み3(カミサン)」の経歴を持つオメガの満(みつる)は人生に疲れていた。  ある日、ふらりと迷い込んだ古びた神社で不思議な体験をすることとなった。 ※オメガバースの基本設定の説明は特に入れていません。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...