獣人王の想い焦がれるツガイ

モト

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サハン体調

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「サハン隊長──、聞き取りの準備が整いました」
 ケイネス王の命で様捜索隊は、ルムダンの王都に仮設基地を設けた。
 部隊長として俺もこの地でツガイ様探しをしている。ルムダンの王に圧力をかけ、国中の人間すべてを集め調べている。
 毎日、テントには数百人の人間がやってくる。
 こちらが獣人だとバレれば、相手を怯えさせるため、薄い垂れ幕をひき、聞き取りを行っている。
 だが、覚えた匂いとは全く違う者ばかりだ。
「次の者──」
 それらしい小柄で赤髪の者には、簡単な質問を用意するが、全く該当しない。
「隊長、次は娼館の男です。なんでもこの男は店に多額の借金をしたらしく、店のオーナーが客を取らしたいから早く返せと」
「男娼か」
 当初、ツガイ様は、山に精通していること、粗末な衣を身に纏っていたことから、山のふもとの里を捜索対象としていた。
 この部隊が編成される前、側近のアトレ・ハワード様が数名を率いて、ツガイ様探しに出ていた。
 この辺りの山々一帯は、すべて捜索したと報告を受けていたため、山そのものの捜索は後回しになっていたのだ。だが先日、そこでツガイ様の匂いが濃く残る小屋を発見した。アトレ様はこの小屋を見逃していたのだろうか。
 小屋はもぬけの殻だった。貧しい暮らしぶりがうかがえ、もしなんらかの事情で金が必要になったのなら、近くの街で身売りを選ぶ可能性も考えられる。
 ──もし、ツガイ様が身売りなどをされていたら、王は嫉妬で気が狂うのではないか?
 王はルムダンから戻って以来、明らかに様子が変わったと囁かれている。
 政務にはこれ以上に精を出しているが、それ以外の時間は書斎に籠もり、ルムダンに関する資料を読み漁っているという。
 あまりに没頭する姿に、王がルムダンを攻め入るのではと勘ぐる者もいる。だが、あれは──そのうち王自らがルムダンに赴き、ツガイ様を探されるおつもりだろう。
「……その者を部屋へ呼べ」
 部下に指示を出し、現れた人物を薄布越しに見つめる。
 真っすぐで艶やかな黒髪、すらりと伸びた肢体、赤い紅を引いたつり目は、気が強そうだ。女性の衣装を身に付けているが、女にはない蠱惑的な魅力があり、そのあまりの美しさに見入ってしまう。
 ──この者は、あまりに王から聞かされていた人物とは違い過ぎる。
 赤毛で人がよさそうな垂れた眉に素直そうな表情……明らかに別人だ。
「いつまで、立っていたらいいの? もう帰っていい?」
 男が鬱陶しそうに答えた次の瞬間、微かに覚えた香りがした。
 それは……ツガイ様の匂い?
 この男と知り合い? 匂いが分かるほどの……? まさかツガイ様はこの男と同じ店で働いているのか? 
 恐ろしい考えが浮かび、冷や汗が頬を伝う。
「お前は、赤色の髪の毛で緑色の目をした小柄な男を知っているか?」
 男は少し黙ったあと、首を横に振る。
「もう一度聞く。赤色の髪の毛で緑色の目をした山暮らしの男を知らないか? 人がよく、困っているものがいれば助けてしまうような心根の優しい者だ」
「……知らない」
 知らないと言ったが、眉が微かに動いた。
 だが、今まで誰一人として、ツガイ様の残り香がする者はいなかった。男はなんらかの事情を知っていると見ていいだろう。
「お前の名は?」
「スーリャ」
「では、スーリャ。お前を別室に案内する。そこで詳しく聞くことにしよう」
「はぁ⁉ 知らねぇって言っているだろう! 俺は店に早く帰れと言われているんだ!」
 案内係が奥の部屋に誘導しようとすると、スーリャは大声をだし、テントから出ようとする。
「待て」
 彼が完全に出る前に、俺は薄布から姿を見せた。
 その瞬間、スーリャは目を見開く。
 この国の人間は、獣人を物語の存在くらいにしか思っておらず、俺を見た者は怯えて腰を抜かす者も少なくなかった。
「赤毛の彼のことを知っているな? 嘘をつけば、この場で噛みつくぞ」
 俺のこの顔で牙を出し脅せば、大抵の者は──
 だが、次の瞬間、黒い瞳はギラリと怒りに満ち、すぐ横にあった椅子を持ち上げた。そしてこちらに向かって力強く振り下ろす。
「こんの──てめぇかぁ、ド畜生め!」
「っ、おい⁉」
「避けるな!」
 突然人が変わったように怒鳴りながら椅子を振り回す。なんてじゃじゃ馬だ。
「くっそ獣人め! 赤毛を探しているだって⁉ お前が、腐れ外道だな⁉ もぎとって切り刻んでやる!」
 ──何をもぎとって、切り刻むつもりか⁉
「落ち着け!」
 椅子を掴むと、次は靴が飛んでくる。もう一足は彼の手にあり、今にもそれでぶん殴ってきそうな勢いだ。完全に頭に血が上っている。制止の言葉が耳に入らないのなら、仕方ない。
「──あっ!」
 細いスーリャの手首を掴んだ。
「っ、くそっ、離せっ!」
「落ち着け。話がしたいだけだ」
「さっき、嘘をつけば噛みつくと言ったのは、どこのどいつだ! お前みたいな卑劣で傲慢で最低野郎は見たことがない!」
 酷い罵声を浴びせられ、思わず、グルゥッと喉が鳴る。
「そう脅せば問いに答えるかと思った。少なくとも戦場ではこういう脅しは効く」
「脅……そうやって、コバのことも脅したんだな! 許せねぇ……」
「……」
 怒りで目に涙を溜めて睨むスーリャに、俺は手を離した。
 途端に、張り手が飛んでくるが、手で受け止める。
「すまない」
「……」
「聞いて欲しい。こちらも焦っている。山奥に住む赤色の髪の男を探し出すのにもう半年以上費やしている。早く見つけて保護しなければならないのだ」
「は? 保護……? その言い方、アンタじゃないのか?」
 先ほどから、スーリャは俺のことを誰かと勘違いしているようだ。
「俺ではないとは? やはり君は俺たちが探している人物を知っているんだな。分かるぞ、君には彼の匂いが微かにする」
 スーリャの胸元から見えるボロ布──ツガイ様の匂いがするのはそこからだ。
「……コバのことを探しているのは誰だ」
「その御方は、コバ様というお名前か」
「……は? 様?」
 捜査隊として、ルムダン人を何人も見てきた。
 特に王族は腰抜けだった。牙を見せると嘆いて「奴隷が欲しいなら持っていけ」と自国の民を売ろうとさえする。小国とは言え、一国の王があれでは国が傾くだろう。
 骨のない者ばかり見てきたが、このスーリャという男は、絶対に叶わない相手だというのに、“コバ様”の為に、力を振るった。強い芯がある男だ。
 本能的に分かる。彼はコバ様を裏切らない。
「分かるぞ。君は友のためならば勇敢になれる者だ。そういう者は信用できる」
 俺は、深々と頭を下げた。
「な、にを……」
「君の力を貸してほしい──コバ様は、スビラ王の王妃となられる御方だ」
 

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