求愛ピエロ

モト

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お前なんか絶対好きにならない。




「———は? まだそんな事言ってんの? いい加減にしろよ」
「何て言えば、分かるんだよっ! 他に好きな奴がいると言えば近寄らなくなるのか!?」

鷹橋といると腹が立って自己嫌悪に陥る。俺の意志がまるでなくなってしまう。もう全力で放っておいて欲しい。
だが、その瞬間に鷹橋の表情がすぅっと変わった。目つきが座っている。

「……はぁ? 委員長に好きな奴? どこのどいつ?」
いつも傲慢な態度こそ取るが、怒った顔を見るのは初めてだ。そのアルファの圧に怯んでしまう。
コイツ、静かにキレてる……!?


「夏川、……いるのか?」
コンコンと屋上のドアがノックされる。この声は担任の朝日川だ。
「さっき、クラスメイトに夏川が屋上に向かったと聞いたんだ。なんで鍵かけてるんだ?」

その声に救われる。急いで鍵を外した。ドアを開けると、やっぱり朝日川がいる。

「……修二さん!」
「……」

修二は朝日川の下の名前だ。
普段、学校内でいる時は、朝日川の名前を呼ばない。だが、担任以前に、この人は俺の叔父さんだ。子供の時から、よく遊んでくれた修二さんならば、俺の今の状況を汲んではくれないだろうか。
俺は、修二さんの腕に抱き着いた。

修二さんは、俺と鷹橋を交互に見て、眉をひそめる。

「鷹橋、何している? アルファの圧がオメガにはどれだけ苦痛か分からないのか?」

「なんも分かってない先生は黙ってなよ。委員長、なんで担任の腕掴んでんだよ。離れろよ」

「さっき言った人が修二さんだから!」
「夏川……?」

修二さんは父の年の離れた弟。そして、アルファだ。学校内で二人しかいないアルファ。
鷹橋は眼光を鋭くして俺を睨む。

「先生と淫行してんの? 委員長が? 処女だったじゃん。冗談キツ」
無表情で近寄ってくる鷹橋に恐怖を感じる。何されるか分からず危ないので修二さんの腕を掴んで後ろへと下がった。
鷹橋はその様子にも腹がたったようで舌打ちする。

「じゃ、そいつの名誉粉々にしてやるよ。学校だけじゃなく、社会自体に出れないくらいにな」
「!!」

まずい。逃げ道を作ろうと嘘の言い訳をしたせいで、修二さんに迷惑をかけてしまう。
普通のアルファならばそんな事までは出来ないと思うが、鷹橋の場合は別だ。奴のバックも凄いが、鷹橋の頭の良さは並外れている。
考えない嘘をつくんじゃなかった。
自分のせいで他人が迷惑を被る。一番しちゃいけない事だ。


訂正しようとした時、はぁ、っと修二さんが俺の前に立ち、俺を後ろへ下げる。

「どういう状況かよく分からないが、鷹橋。これ以上、夏川を脅すな。頭を冷やせ」
「煩い。委員長に聞いている」
「それが、人に聞く態度か。怯えさせて恥ずかしくないのか」
「……」

鷹橋が黙った。俺は、修二さんの後ろに隠れていたから、鷹橋がどんなに怖い表情をしているのか見えなかった。
雰囲気が静かになる感じにホッと息が付けた。
その時、休憩時間が終わるチャイムが鳴る。修二さんは俺に授業に戻っていなさいと声をかけた。

「ご、ごめんなさい。俺、変な事言っちゃって!」
とんでもない火種を修二さんに被せてしまった。だけど、修二さんは、少し振り向いて、「今度からは気をつけろよー」とまるで、宿題を忘れた程度の注意の仕方をした。




午後からの授業に鷹橋は出席しなかった。
勉強が出来るアイツには授業をサボるくらいどうって事ないだろう。
身勝手なアイツに振り回されているのは、こっちなのだ。
俺の嘘はバレてしまったかもしれないけれど、嘘をつかざるを得ないくらい嫌っている事には気付いたはずだ。

授業が終わり、職員室に行っていた。昼間迷惑をかけた事を修二さんに謝っていたのだ。
修二さんから、鷹橋はその後何も反抗しなかったと聞かされる。
何かあったら相談するよう声をかけられた。

「はい……、本当に迷惑かけてごめんなさい」

すると、修二さんがシーっと人差し指を立て、俺のポケットにチョコレートを入れた。

「俺は、先生の前に弥生の叔父なんだから、保護者として頼りなさい」
「……先生」
「いいよ。いつでも頼っておいで。どんとこい」

その笑った顔が落ち着いた。
父の年の離れた弟である修二さんは、昔からとても優しい。家にもよく遊びに来ていて、小さい時からよく遊んでもらった。優しくて頼りになるお兄さん。

恋をするなら、傲慢な鷹橋より、修二さんのように優しいアルファがいいのに……。



職員室から帰った俺は教室に荷物を取りに戻った。だが、教室の俺の椅子に座る人物を見て、背筋が凍った。

「……鷹橋」
「よぉ、委員長」
「帰ったんじゃなかったのか?」

気持ちではそのまま教室に入らずに帰りたい。だけど、荷物が。教科書も財布も鞄の中に入ったままだ。

「何、ボケっと立ってんの? 入れば?」
入ろうと思っても入れないのだ。……お前が昼休憩の時のようにアルファオーラを垂れ流しているから。
それに、怒っているアルファを目の前にして、身体が動かない。

ガタン、っと鷹橋が椅子から立ち上がった時、本能的に身体が後ろに動いた。
そのまま教室に入らず、全力でその場から逃げた。とにかく逃げなければ、怖い。
俺は、運動が苦手だ。
走りはいつもビリかその次。一位なんてとった事がなかった。一位を取る人間はいつも鷹橋のような人間だ。

後から追いかけてくる音がする。目一杯走ってみる。非常口に出て非常階段を降りようとした所、腕を掴まれた。

「うあっはぁっ!」
あっという間だ。あっという間に捕まえられてしまった。
後を振り向かなくとも、鷹橋は息の一つも乱れていない。これが、鷹橋と俺の違いなんだ。圧倒的な差……。

「離せよっ!! なんで、こっち追いかけてく……」
掴まれた腕を離そうと振り向いた、その時、鷹橋の顔が俺の想像している顔と違って、語尾が消えた。

「いや」
「———……いやって、……お前……」

昼休憩の時は、俺は修二さんの後ろに隠れていたから、鷹橋の顔はてっきり怖い表情をしていると思った。

「いやだ。離したくない」

とても萎れた淋しそうな顔をしていた。そして、俺の身体を寄せ力強く抱きしめてきた。その行為はいつも通りなのに、その似合わない顔に驚いて動けない。

そして、香る鷹橋の匂い————……。

抱き締められるだけで、身体が急速に熱っぽくなるのを感じた。ゾクゾクと背筋に快楽が走りクラクラ脳みそが揺れる。

まずい………。
「委員長?」

鷹橋が、俺の異変に気づいたように身体を離した。
「はぁーー……あ……」

これって、発情期……だ。離れろと言いたかったのに呂律が回らない。

俺が覚えていられたのは、そこまでだ。















「———う、あぁ、んんんあぁ……、んんひぃ、ああぁん」
声が我慢出来ず、ずっと喘いでいる。
豪華なマンションの一室は、俺の喘ぎ声と濡れた音だけが響いている。

キレイなベッドシーツが今はもう様々な液体に濡れグチャグチャになっている。

「う、うぅ———あ、ああ、うぅうっ!!」

鷹橋の性器にもう何時間も揺さぶられ、突かれてその形に慣れてしまっている。
お腹が熱い。快感がずっと引かなくて恐怖を感じるのに、その快感を貪欲に受け止める。擦って欲しくて堪らない。

口が勝手に擦って欲しいと強請っている気がする。もっと淫らな事も言っている。
それをどこか遠くで別人のように感じる。
鷹橋は、俺が求める通りに突いて、擦って、快楽を与えてくれる。
ずっと、俺の性器から透明の液体が糸を引いている。意識が朧気なのに気持ちよさだけが持続してどこもかしこもジンジン甘い痺れが走る。

普段の鷹橋ならば「一回目、二回目、三回目~、あー、委員長~、すげぇなぁ」「もっと、気持ちよくなろうな。委員長のここ、閉じるの忘れるくらい。はは」と下品な言葉で煽ってくるのに、今の鷹橋は別人みたいに何も言わない。

無言で、ただ、俺を求めてくる。表情も乏しく、何を考えているのか分からない。

「はぁはぁはぁ……」

意識がなくなった後も、鷹橋が俺の中に挿いっている。キュウキュウと俺自身が彼を内部で締め上げてイっている感覚で目が覚める。
「あ……は、ぁあっ……」

鷹橋の匂いが普段よりも濃い。きっと、俺の発情期によりラットに入ってしまったのだ。
脳が、蕩けて、身体も溶けてなくなってしまいそうだ……。

「ひぅ、あ……はぁはぁ……」
すると、俺の首に鷹橋の吐息が当たる。
その時だけ、意識が戻り、首輪を確認して手で抑える。
「————……っ」
「……いやだ」

快楽が続きすぎて、俺の目から絶えず涙が溢れているが、また溢れるのが分かる。
グズグズと啜り泣きを始めた俺に、鷹橋が性器を抜き、手で涙を拭かれる。

鷹橋に抱きしめられた。
「弥生……。弥生。俺を好きになって」
「…………」
「お願いだから」
それは、今まで聞いた事のない弱い声だった。



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