白狼は森で恋を知る

かてきん

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第1章 白狼は恋を知る

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すー…すー…

(どうしたらいいんだ。)

ガイアスは困っていた。
あれからソファに座りミアの背を撫でていたガイアスだったが、今は眠るミアを抱きしめる形でじっとしていた。
今日1日の疲れと安心したのもあってか、ミアがそのまま眠ってしまったのだ。

(このまま寝かせてやりたいが、俺も帰らなければならないし…。)

式の主役であるミアは、当然今晩のパーティに顔を出す予定だろう。
ガイアスも剣舞が終わって一応は仕事が終わったことになっているが、仕事の報告で事務所に行かなければならない。
しかし、すよすよと安心しきった顔で眠っているミアを見ていると、起こすことに罪悪感が生まれる。

(あと10分だけ寝かせて起こしてみるか。)

とりあえず、と眠るミアの頭にキスを落とし、ガイアスは温かいミアの体温を感じて幸せをかみしめていた。



ドンドンッ

誰かが部屋をノックしている。ミアを起こして返事をしてもらうため肩を揺すろうとした瞬間。

「…………え。」

部屋に、狼の男が返事を待たずに入ってきた。
男は一瞬ポカンとした顔をしたが、すぐにキリッとした顔に戻るとこちらに歩いてきた。
王家の家紋の入った上着を着ているため、この男がこの王宮の者であることは分かる。

ガイアスは、思わず「しぃ」と声を出さないようその男にジェスチャーをした。

眉をひそめた男だったが、ミアが寝ていることに気づくと目の前の人間を観察するようにジロジロと見た。

「あなたは…?」

小さな声で問いかけてくる男に、ガイアスも同じ大きさで答える。

「サバル国のガイアス・ジャックウィルと申します。彼とは仲良くさせていただいていて…あの、これは話をしていたのですが、寝てしまったようで。」

じぃーっと見てくる男に、自己紹介と今の状況を軽く説明する。
男は頷くと、自分が何者であるか告げた。

「私はミア様の従者のイリヤと申します。ガイアス様のことは、ミア様から伺っております。」

「従者の方でしたか。」

ノックをし返事を待たずに入ってきたので、てっきり王族なのかと思っていた。

「はぁ~、状況はだいたい分かりました。ミア様がここに無理やりあなたを連れてきて、話してたら疲れて眠ってしまわれたんでしょう。…まったく、しょうがないですね。」

(なぜ分かるんだ…。)

従者の推理力に驚くガイアスだったが、とりあえずミアを起こすべきか尋ねる。

「いえ、ミア様が本日頑張ったのは確かですから、そのまま寝かせておきましょう。パーティは午後7時からとなっておりますので、近くなったら私が起こして連れて行きます。」

そして、ガイアスのことはイリヤが自衛隊の事務室前まで送るというので、有難く頷いた。

ミアをふかふかのベッドに降ろすと、「ガイアス…っ」と寝ぼけて自分を呼んできた。

先ほど想いが通じ合ったばかりの愛しいミアの行動に顔が緩みそうになるが、その顔を横からじぃーっと見つめる視線に、なんとか冷静さを保った。

「あの、何か?」
「いえ。」

それだけ言うと、ガイアスの肩に手を置いたイリヤは一緒にサバルまで転移した。



転移したのは事務室前の廊下。

「先ほどは失礼しました。私と彼は…」

「敬語は不要です。あなたはミア様の大切な方ですから。ミア様があなたをお慕いしていることは、前から気づいておりました。」

「従者殿、承知した。今回の件だが…」

「その様子じゃ、まだいろいろと問題があるようですね。ミア様には私がお二人の仲を知っていることは言いません。」

ガイアスが言いたいことを、すべて先に言われてしまう。

「ああ、そうしてもらえると助かる。」

「正式にご挨拶できるようになったら、また王宮へお越し下さい。」

「早めにそうできたら、と思っている。」

従者は、ふむ、と何か言いたげなポーズをしてからガイアスに話す。

「ガイアス様、カルバン様にもし今後お会いになることがあるならば、お気をつけて。」

「…?どういう意味だ?」

「殴られるくらいは覚悟しておいた方が良い、という意味です。」

「……承知した。」

では、と言葉を残し、イリヤは消えた。

(不思議な従者だな…。)

事務室の前に立ち「よし、」と仕事モードに切り替えようとするが、忘れていた心配事を思い出す。


(明日は質問攻めにされるんだろうな。)

自衛隊だらけの控え室の真ん中で堂々とキスをしたミアとガイアス。

明日の仕事場が騒がしくなるのは避けられないと、ガイアスは諦めながら事務室へ入っていった。





・・・・・

目を覚ましたミアは、自分が自室のベッドで寝ていることに気づいた。
見知った天蓋が広がり、部屋は少し暗くなっている。

「ん…がいあ…す?」
「ガイアス様なら帰られましたよ。」

「…イリヤ?!なんでここに?!」

「私はあなたの従者ですよ。お世話のために部屋にいてはおかしいですか?」

(最後、ガイアスにまたがって慰められて…どうなったんだっけ。まさかイリヤに見られた…?!)

探りを入れようと、「あのさ…」と声を掛けるとイリヤが説明を始めた。

「ミア様が剣舞の後、ガイアス様のいる控室に行かれたでしょう。それから剣についてゆっくり話したいとのことで部屋に連れてこられたものの、ミア様が疲れてベッドで眠ってしまった、と聞いております。」

「…そっか。ガイアスはどうやって帰ったんだ?」

ひとまずあの現場は見られていないのだと安心する。

「私が自衛隊の事務室前までお送りしました。」
「ありがとな。」

「いえ、彼はなかなかに好青年でした。」
「え!珍しいな、イリヤが人を褒めるなんて。」

「失礼ですね。まぁ、たしかにいつもうるさいミア様の相手をしているから、ああいう無駄なことを喋らない方と話すと安心します。」

「おいっ!イリヤこそ失礼だろ!」

言いたい放題な従者にミアが言い返す。

「はいはい、そろそろパーティの準備をしてください。」

「げ、もうそんな時間?」
「急がないと、またカルバン様に怒られますよ。」

「…服を用意しといてくれ。」

ミアは掛け布団をのけると、ベッドから降り浴槽へ向かう。

「かしこまりました。」



「ふぅ~…。」

起きる時間に合わせて準備していたのか、気持ちの良い温度の湯につかりながらミアは今日の出来事を思い出していた。

ガイアスの『好きだ』の言葉が頭の中で反芻する。


(夢じゃないんだよな…。)


ガイアスの剣舞や正装した凛々しい姿、この部屋での甘い顔を思い出し一人でニヤニヤとしていたら、風呂の戸が無遠慮に開けられた。

「ミア様、早く上がってください!パーティに間に合いませんよ!」

「おい、邪魔すんなよ!」

「…何の邪魔をしたって言うんですか。」

理不尽な、と怪訝そうな目でジロリと自分を見てくる従者。

(また夜にでもゆっくり思い出すか…。)

ミアは諦めて浴槽を後にした。
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