天国への階段

高嗣水清太

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美しさとは

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「酷い姿だ」

 そう言ってこちらを見る凪いだ瞳は、涼し気な色をしていた。何の感情も窺えない、血の色にも似たルビーのような瞳はどこまでも無機質だ。

「何とも醜悪な姿だな、オリヴィエ・ロゼヴェルト」
「……そうだろうね」

 包帯にまみれた身体をベッドに横たえたまま、オリヴィエは突然の訪問者を見上げた。

 オリヴィエは半年前、突然余命宣告を受けた。いや、余命と言うのも難しいかもしれない。オリヴィエの身体を蝕む病は腐敗として既に全身にまで回っていて、健康な部分など無いに等しく、生きているのが不思議なほどの状態だ、とは医者の見立てだ。

 ――原因のわからない、不治の病。オリヴィエの身体を蝕むものの正体はそれだったらしい。
 内蔵にまで至る腐敗は刻一刻と迫る死の気配で冷たく、オリヴィエの項を撫でては嬲る日々だったが、ルスタヴェリ公という好敵手の存在がオリヴィエを生かし続けていた。

 ルスタヴェリ公爵はヴァンパイアだ。それも、千年以上前に生まれた原初のヴァンパイアである。ルスタヴェリは同族のヴァンパイアを生み出すことができる、唯一の存在だった。ルスタヴェリに血を分け与えられた人間はヴァンパイアとなる為、今現存するヴァンパイア達はすべてルスタヴェリの子供、と言っても過言ではない。そしてその子供らは実質ルスタヴェリの操り人形であり、ルスタヴェリこそがこの世の支配者であった。

 対してオリヴィエはヴァンパイアハンターとはいえ、ただの人間だ。本来なら好敵手と呼べるような関係ではなかった。ヴァンパイアと人間の力の差は激しく、老いるスピードも違う。ルスタヴェリは永遠の命を持っているのだ。
 しかし、天敵として追い追われ、幾度となく繰り返された勝敗のつかない闘いは、二人の間に奇妙な信頼関係を生んでいた。それは友情と呼ぶには歪んだものだったけれど、確かな絆と言えるものだった。

 出会った頃を思い出して、つい懐かしくなったオリヴィエは笑ってしまう。
 出会った当初は十代だったオリヴィエはもう四十になろうというのに、ルスタヴェリはまったく変わらない。それどころか、出会った頃よりも更に美しくなったように思う。
 ――それが何故か、オリヴィエには悔しくて堪らなかったが。


「……お前は本当に美しい男だな」

 思考の海に落ちていたオリヴィエは、耳に入ってきた言葉に瞠目する。声はルスタヴェリのものだったが、単語が理解できなかった。
 誰のことを言っているのかと考えて、それが自分のことを指しているのだと理解したときは眉を寄せていた。お前が言うな、と思ったのだ。

 目の前に佇む男の白い肌は、病にかかったオリヴィエと違って陶器のようなのに。白髪の増えたオリヴィエと違い、ルスタヴェリのゆるくウェーブのかかった金髪は絹糸のようだ。均整のとれた肉体にバリトンの声は、もう芸術作品に近い。

「それは何の冗談だ」

 病で全身包帯だらけの自分に言う言葉ではない、とオリヴィエは突っぱねる。
 オリヴィエの言葉を聞いたルスタヴェリは、少しだけ口角を上げて見せた。

「私にとって美しさとは、強さだ。お前ほどに美しい男を、私は見たことがない」
「……お褒め頂き光栄だよ。けれど、私からすれば君の方がよっぽど綺麗に見えるんだけどね?」
「信じてないな。本当に、美しいと思っているぞ。……私のものにならないか?」
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