1 / 13
美しさとは
しおりを挟む
「酷い姿だ」
そう言ってこちらを見る凪いだ瞳は、涼し気な色をしていた。何の感情も窺えない、血の色にも似たルビーのような瞳はどこまでも無機質だ。
「何とも醜悪な姿だな、オリヴィエ・ロゼヴェルト」
「……そうだろうね」
包帯にまみれた身体をベッドに横たえたまま、オリヴィエは突然の訪問者を見上げた。
オリヴィエは半年前、突然余命宣告を受けた。いや、余命と言うのも難しいかもしれない。オリヴィエの身体を蝕む病は腐敗として既に全身にまで回っていて、健康な部分など無いに等しく、生きているのが不思議なほどの状態だ、とは医者の見立てだ。
――原因のわからない、不治の病。オリヴィエの身体を蝕むものの正体はそれだったらしい。
内蔵にまで至る腐敗は刻一刻と迫る死の気配で冷たく、オリヴィエの項を撫でては嬲る日々だったが、ルスタヴェリ公という好敵手の存在がオリヴィエを生かし続けていた。
ルスタヴェリ公爵はヴァンパイアだ。それも、千年以上前に生まれた原初のヴァンパイアである。ルスタヴェリは同族のヴァンパイアを生み出すことができる、唯一の存在だった。ルスタヴェリに血を分け与えられた人間はヴァンパイアとなる為、今現存するヴァンパイア達はすべてルスタヴェリの子供、と言っても過言ではない。そしてその子供らは実質ルスタヴェリの操り人形であり、ルスタヴェリこそがこの世の支配者であった。
対してオリヴィエはヴァンパイアハンターとはいえ、ただの人間だ。本来なら好敵手と呼べるような関係ではなかった。ヴァンパイアと人間の力の差は激しく、老いるスピードも違う。ルスタヴェリは永遠の命を持っているのだ。
しかし、天敵として追い追われ、幾度となく繰り返された勝敗のつかない闘いは、二人の間に奇妙な信頼関係を生んでいた。それは友情と呼ぶには歪んだものだったけれど、確かな絆と言えるものだった。
出会った頃を思い出して、つい懐かしくなったオリヴィエは笑ってしまう。
出会った当初は十代だったオリヴィエはもう四十になろうというのに、ルスタヴェリはまったく変わらない。それどころか、出会った頃よりも更に美しくなったように思う。
――それが何故か、オリヴィエには悔しくて堪らなかったが。
「……お前は本当に美しい男だな」
思考の海に落ちていたオリヴィエは、耳に入ってきた言葉に瞠目する。声はルスタヴェリのものだったが、単語が理解できなかった。
誰のことを言っているのかと考えて、それが自分のことを指しているのだと理解したときは眉を寄せていた。お前が言うな、と思ったのだ。
目の前に佇む男の白い肌は、病にかかったオリヴィエと違って陶器のようなのに。白髪の増えたオリヴィエと違い、ルスタヴェリのゆるくウェーブのかかった金髪は絹糸のようだ。均整のとれた肉体にバリトンの声は、もう芸術作品に近い。
「それは何の冗談だ」
病で全身包帯だらけの自分に言う言葉ではない、とオリヴィエは突っぱねる。
オリヴィエの言葉を聞いたルスタヴェリは、少しだけ口角を上げて見せた。
「私にとって美しさとは、強さだ。お前ほどに美しい男を、私は見たことがない」
「……お褒め頂き光栄だよ。けれど、私からすれば君の方がよっぽど綺麗に見えるんだけどね?」
「信じてないな。本当に、美しいと思っているぞ。……私のものにならないか?」
そう言ってこちらを見る凪いだ瞳は、涼し気な色をしていた。何の感情も窺えない、血の色にも似たルビーのような瞳はどこまでも無機質だ。
「何とも醜悪な姿だな、オリヴィエ・ロゼヴェルト」
「……そうだろうね」
包帯にまみれた身体をベッドに横たえたまま、オリヴィエは突然の訪問者を見上げた。
オリヴィエは半年前、突然余命宣告を受けた。いや、余命と言うのも難しいかもしれない。オリヴィエの身体を蝕む病は腐敗として既に全身にまで回っていて、健康な部分など無いに等しく、生きているのが不思議なほどの状態だ、とは医者の見立てだ。
――原因のわからない、不治の病。オリヴィエの身体を蝕むものの正体はそれだったらしい。
内蔵にまで至る腐敗は刻一刻と迫る死の気配で冷たく、オリヴィエの項を撫でては嬲る日々だったが、ルスタヴェリ公という好敵手の存在がオリヴィエを生かし続けていた。
ルスタヴェリ公爵はヴァンパイアだ。それも、千年以上前に生まれた原初のヴァンパイアである。ルスタヴェリは同族のヴァンパイアを生み出すことができる、唯一の存在だった。ルスタヴェリに血を分け与えられた人間はヴァンパイアとなる為、今現存するヴァンパイア達はすべてルスタヴェリの子供、と言っても過言ではない。そしてその子供らは実質ルスタヴェリの操り人形であり、ルスタヴェリこそがこの世の支配者であった。
対してオリヴィエはヴァンパイアハンターとはいえ、ただの人間だ。本来なら好敵手と呼べるような関係ではなかった。ヴァンパイアと人間の力の差は激しく、老いるスピードも違う。ルスタヴェリは永遠の命を持っているのだ。
しかし、天敵として追い追われ、幾度となく繰り返された勝敗のつかない闘いは、二人の間に奇妙な信頼関係を生んでいた。それは友情と呼ぶには歪んだものだったけれど、確かな絆と言えるものだった。
出会った頃を思い出して、つい懐かしくなったオリヴィエは笑ってしまう。
出会った当初は十代だったオリヴィエはもう四十になろうというのに、ルスタヴェリはまったく変わらない。それどころか、出会った頃よりも更に美しくなったように思う。
――それが何故か、オリヴィエには悔しくて堪らなかったが。
「……お前は本当に美しい男だな」
思考の海に落ちていたオリヴィエは、耳に入ってきた言葉に瞠目する。声はルスタヴェリのものだったが、単語が理解できなかった。
誰のことを言っているのかと考えて、それが自分のことを指しているのだと理解したときは眉を寄せていた。お前が言うな、と思ったのだ。
目の前に佇む男の白い肌は、病にかかったオリヴィエと違って陶器のようなのに。白髪の増えたオリヴィエと違い、ルスタヴェリのゆるくウェーブのかかった金髪は絹糸のようだ。均整のとれた肉体にバリトンの声は、もう芸術作品に近い。
「それは何の冗談だ」
病で全身包帯だらけの自分に言う言葉ではない、とオリヴィエは突っぱねる。
オリヴィエの言葉を聞いたルスタヴェリは、少しだけ口角を上げて見せた。
「私にとって美しさとは、強さだ。お前ほどに美しい男を、私は見たことがない」
「……お褒め頂き光栄だよ。けれど、私からすれば君の方がよっぽど綺麗に見えるんだけどね?」
「信じてないな。本当に、美しいと思っているぞ。……私のものにならないか?」
0
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
琥珀の檻
万里
BL
砂漠の王国の離宮「琥珀の間」で、王・ジャファルは、異母弟であるアザルを強引に抱き、自らの所有物であることを誇示していた。踊り子の息子として蔑まれ、日陰の存在として生きてきたアザルにとって、兄は憎悪と恐怖の対象でしかなかった。 しかし、その密事を見つめる影があった。ジャファルの息子であり、次期王位継承者のサリムである。サリムは叔父であるアザルに対し、憧憬を超えた歪な独占欲を抱いていた。 父から子へ。親子二人の狂おしい執着の視線に晒されたアザルは、砂漠の夜よりも深い愛憎の檻に囚われていく。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる