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ただの友人さ
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「―――おい、起きろ」
身体を揺すられて、オリヴィエはゆっくりと瞼を開いた。
「……ん、」
視界に飛び込んできたのは、金髪の端正な男の姿で――、
「……何だ、君かい」
オリヴィエは二日と置かず現れたルスタヴェリに小さく息を吐いた。
「君は暇なのか?」
ふわあ、と欠伸をして、上半身を起こす。
「もうすぐ死ぬ人間の元に、こんなに足繁く通って……」
オリヴィエの言葉を聞きながら、ルスタヴェリが顔をしかめる。
「だから何度も言っているだろう?私のものに……」
「ならない」
「何故だ。このままでは死んでしまうのだぞ?」
「そうだね」
「私なら、お前を救えるんだ。お前をヴァンパイアにすることができる。お前の病を治せる」
「……うん、」
オリヴィエは目を細めて、微笑んだ。
「でもそうなったら、それは私ではない」
「……」
「私が私でなくなるくらいなら、死んだ方がましだよ。いい加減諦めたらどうだい?」
呆れたように言うオリヴィエに向かって、ルスタヴェリがため息をつく。
「……本当に強情な奴だな」
「そうでもないよ。君がしつこいだけだ」
オリヴィエは再び横になると、ベッドの中に潜り込んだ。
「じゃあ私は寝るから、そろそろ帰ってくれないか?」
「……」
ルスタヴェリはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開く。
「――帰る前に一つだけ聞きたい。外の男は知り合いか?」
その言葉を聞いた途端、オリヴィエの顔色が変わった。ベッドから飛び起き、慌てて窓の外を見る。
そこにはオリヴィエの記憶に新しい、見覚えのある男が立っていた。
漆黒の髪に、金色の瞳。そして黒い外套に身を包んでいる男。
男はこちらを見ると、にっこりと笑みを浮かべた。
「…………」
無言のまま視線を交わすオリヴィエを見て、ルスタヴェリが眉間にしわを寄せた。
「誰なんだ、あいつは」
「……別に、ただの友人さ」
オリヴィエは気まずそうに答えると、視線を逸らす。
「それなら良いのだが……」
ルスタヴェリはまだ納得できない様子だったが、それ以上追及することはなく、渋々ではあったが部屋を出て行った。
扉が完全に閉まったことを確認すると、オリヴィエは大きく息を吐き出す。
(……やれやれ)
まさかこのタイミングで彼がやって来るとは思わなかった。
あの男はいつも突然現れて、自分の都合の良い時に去って行く。
「まったく、困ったものだ」
しかし今回は、あまり長居して欲しくない。
今の状態で彼に会えば、きっと余計なところまで見せてしまうし、要らないことまで話してしまうだろう。
「……」
オリヴィエはもう一度大きく深呼吸して意を決すると、ベッドから出て立ち上がった。ゆっくりと部屋の中を見渡す。
必要最低限のものしかない殺風景な部屋。
しかしここも今日でお別れだ。明日になったら荷物をまとめて、この街を出るつもりである。
自分はもう二度とこの場所には戻らないだろう。
ここには大切なものがたくさんあるけれど、全て置いていくことに決めたのだ。
オリヴィエは単身、窓から身を乗り出した。そしてそのまま屋根の上へと移動すると、慎重に下の様子を窺う。
そこには闇だけが広がっていて、既に男の姿はなかった。
オリヴィエは安堵のため息をつき、踵を返す。
街を出る前に、彼にはやることがあった。
身体を揺すられて、オリヴィエはゆっくりと瞼を開いた。
「……ん、」
視界に飛び込んできたのは、金髪の端正な男の姿で――、
「……何だ、君かい」
オリヴィエは二日と置かず現れたルスタヴェリに小さく息を吐いた。
「君は暇なのか?」
ふわあ、と欠伸をして、上半身を起こす。
「もうすぐ死ぬ人間の元に、こんなに足繁く通って……」
オリヴィエの言葉を聞きながら、ルスタヴェリが顔をしかめる。
「だから何度も言っているだろう?私のものに……」
「ならない」
「何故だ。このままでは死んでしまうのだぞ?」
「そうだね」
「私なら、お前を救えるんだ。お前をヴァンパイアにすることができる。お前の病を治せる」
「……うん、」
オリヴィエは目を細めて、微笑んだ。
「でもそうなったら、それは私ではない」
「……」
「私が私でなくなるくらいなら、死んだ方がましだよ。いい加減諦めたらどうだい?」
呆れたように言うオリヴィエに向かって、ルスタヴェリがため息をつく。
「……本当に強情な奴だな」
「そうでもないよ。君がしつこいだけだ」
オリヴィエは再び横になると、ベッドの中に潜り込んだ。
「じゃあ私は寝るから、そろそろ帰ってくれないか?」
「……」
ルスタヴェリはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開く。
「――帰る前に一つだけ聞きたい。外の男は知り合いか?」
その言葉を聞いた途端、オリヴィエの顔色が変わった。ベッドから飛び起き、慌てて窓の外を見る。
そこにはオリヴィエの記憶に新しい、見覚えのある男が立っていた。
漆黒の髪に、金色の瞳。そして黒い外套に身を包んでいる男。
男はこちらを見ると、にっこりと笑みを浮かべた。
「…………」
無言のまま視線を交わすオリヴィエを見て、ルスタヴェリが眉間にしわを寄せた。
「誰なんだ、あいつは」
「……別に、ただの友人さ」
オリヴィエは気まずそうに答えると、視線を逸らす。
「それなら良いのだが……」
ルスタヴェリはまだ納得できない様子だったが、それ以上追及することはなく、渋々ではあったが部屋を出て行った。
扉が完全に閉まったことを確認すると、オリヴィエは大きく息を吐き出す。
(……やれやれ)
まさかこのタイミングで彼がやって来るとは思わなかった。
あの男はいつも突然現れて、自分の都合の良い時に去って行く。
「まったく、困ったものだ」
しかし今回は、あまり長居して欲しくない。
今の状態で彼に会えば、きっと余計なところまで見せてしまうし、要らないことまで話してしまうだろう。
「……」
オリヴィエはもう一度大きく深呼吸して意を決すると、ベッドから出て立ち上がった。ゆっくりと部屋の中を見渡す。
必要最低限のものしかない殺風景な部屋。
しかしここも今日でお別れだ。明日になったら荷物をまとめて、この街を出るつもりである。
自分はもう二度とこの場所には戻らないだろう。
ここには大切なものがたくさんあるけれど、全て置いていくことに決めたのだ。
オリヴィエは単身、窓から身を乗り出した。そしてそのまま屋根の上へと移動すると、慎重に下の様子を窺う。
そこには闇だけが広がっていて、既に男の姿はなかった。
オリヴィエは安堵のため息をつき、踵を返す。
街を出る前に、彼にはやることがあった。
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