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諦めてくれ
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屋敷を出た後、オリヴィエはまっすぐに『血の伯爵』の屋敷へと向かった。
この地を去る前に、ルスタヴェリを何とかしないと安心はできない。
以前来た時と同じように、屋敷の前には見張りが立っている。
「お待ちしておりました」
彼らはオリヴィエの姿を見かけると、すぐに中へ入れてくれた。
案内された先は応接室のような場所だった。壁際に数人の使用人らしき人物が控えている。
「主人はすぐに参ります」
そう言って一礼すると、執事風の初老の男性は他の者達と一緒に部屋の外へ出て行ってしまった。
部屋にはオリヴィエ一人だけが取り残される形となる。
「……」
いつ来てもここは変わらない。何年経とうと変わらない、ルスタヴェリと一緒だと心を馳せながらオリヴィエはソファに座って待った。
やがて扉が開かれ、一人の男が入ってきて向かい側の席に着く。
年齢は三十代半ばくらいだろうか。長身痩躯でやや青白い肌をした男だ。髪の色は黒に近い灰色をしており、その顔立ちは整っているがどこか陰鬱な印象を受ける。服装は地味な紺色のスーツ姿だが、ネクタイだけはやたら派手な柄物をしていた。
「今日はどんな要件だ?」
長身痩躯の男――、『血の伯爵』が口を開く。
この屋敷では何度も聞いた言葉だ。いつもならさっそく闇取引きに入るところだが、今回は違う。
「ルスタヴェリを封印したい」
オリヴィエは単刀直入に答えた。
それを聞いた『血の伯爵』は僅かに眉を動かす。
「それは無理だ。諦めてくれ」
やはり、即答される。予想通りの展開だった。
「何故?」
オリヴィエは食い下がるように問いかける。
「お前も知っているだろう? あの方は私達ヴァンパイアすべての親だ」
「……」
「あの方は私たちのすべてであり、そして我々もまたあの方の一部なのだ。ルスタヴェリ様を封じることなど誰にもできない」
「……私が君と血の契約をしても?」
血の契約は、人間がヴァンパイアの下僕になることを指す。『血の伯爵』は血の契約により、数多くの人間を下僕にしていることで二つ名まで付いたヴァンパイアだった。
「それこそルスタヴェリ様の怒りを買うだけだ。私は遠慮したいね」
『血の伯爵』の言葉はどこまでも冷淡で、取り付く島もない。おそらく説得は不可能だろう。
それでもオリヴィエは諦めずに交渉を続けた。
「どうしても駄目なのか?」
「ああ、無理だな。そもそもどうしてそんなことをする?お前はあの方のお気に入りだろう」
でなければ自分もこんなふうにヴァンパイアハンターと取引はしない、と『血の公爵』は頬杖をつく。
当然だった。ヴァンパイアとヴァンパイアハンターは本来、敵同士であり憎しみ合う関係と一緒だ。『血の伯爵』がオリヴィエとこうして顔を合わせ、今まで他のヴァンパイアの活動情報から弱点まで、大小様々な取引に応じてくれていたのも、一重にオリヴィエがヴァンパイアの真祖ルスタヴェリのお気に入りだということが周知されているからに過ぎない。
「……そうだよ。だからこそ、彼には消えてもらわないといけないんだ」
オリヴィエは苦虫を噛み潰したような顔で言った。
この地を去る前に、ルスタヴェリを何とかしないと安心はできない。
以前来た時と同じように、屋敷の前には見張りが立っている。
「お待ちしておりました」
彼らはオリヴィエの姿を見かけると、すぐに中へ入れてくれた。
案内された先は応接室のような場所だった。壁際に数人の使用人らしき人物が控えている。
「主人はすぐに参ります」
そう言って一礼すると、執事風の初老の男性は他の者達と一緒に部屋の外へ出て行ってしまった。
部屋にはオリヴィエ一人だけが取り残される形となる。
「……」
いつ来てもここは変わらない。何年経とうと変わらない、ルスタヴェリと一緒だと心を馳せながらオリヴィエはソファに座って待った。
やがて扉が開かれ、一人の男が入ってきて向かい側の席に着く。
年齢は三十代半ばくらいだろうか。長身痩躯でやや青白い肌をした男だ。髪の色は黒に近い灰色をしており、その顔立ちは整っているがどこか陰鬱な印象を受ける。服装は地味な紺色のスーツ姿だが、ネクタイだけはやたら派手な柄物をしていた。
「今日はどんな要件だ?」
長身痩躯の男――、『血の伯爵』が口を開く。
この屋敷では何度も聞いた言葉だ。いつもならさっそく闇取引きに入るところだが、今回は違う。
「ルスタヴェリを封印したい」
オリヴィエは単刀直入に答えた。
それを聞いた『血の伯爵』は僅かに眉を動かす。
「それは無理だ。諦めてくれ」
やはり、即答される。予想通りの展開だった。
「何故?」
オリヴィエは食い下がるように問いかける。
「お前も知っているだろう? あの方は私達ヴァンパイアすべての親だ」
「……」
「あの方は私たちのすべてであり、そして我々もまたあの方の一部なのだ。ルスタヴェリ様を封じることなど誰にもできない」
「……私が君と血の契約をしても?」
血の契約は、人間がヴァンパイアの下僕になることを指す。『血の伯爵』は血の契約により、数多くの人間を下僕にしていることで二つ名まで付いたヴァンパイアだった。
「それこそルスタヴェリ様の怒りを買うだけだ。私は遠慮したいね」
『血の伯爵』の言葉はどこまでも冷淡で、取り付く島もない。おそらく説得は不可能だろう。
それでもオリヴィエは諦めずに交渉を続けた。
「どうしても駄目なのか?」
「ああ、無理だな。そもそもどうしてそんなことをする?お前はあの方のお気に入りだろう」
でなければ自分もこんなふうにヴァンパイアハンターと取引はしない、と『血の公爵』は頬杖をつく。
当然だった。ヴァンパイアとヴァンパイアハンターは本来、敵同士であり憎しみ合う関係と一緒だ。『血の伯爵』がオリヴィエとこうして顔を合わせ、今まで他のヴァンパイアの活動情報から弱点まで、大小様々な取引に応じてくれていたのも、一重にオリヴィエがヴァンパイアの真祖ルスタヴェリのお気に入りだということが周知されているからに過ぎない。
「……そうだよ。だからこそ、彼には消えてもらわないといけないんだ」
オリヴィエは苦虫を噛み潰したような顔で言った。
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