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死の気配
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「どういう意味だ?」
「私が死んだら、おそらくルスタヴェリは狂う」
以前から、ルスタヴェリの対応がハンターに対するソレとしてはおかしいと思っていた。
オリヴィエはヴァンパイアハンターなのに。敵同士であるというのに。
ルスタヴェリの、オリヴィエを見る目に熱が籠るようになったのは、いつからだったろうか。
――あれは、友人に対するものではない。
自惚れでもなんでもなく、おそらく自分が死んだらルスタヴェリは人間を、世界を滅ぼす。ルスタヴェリの唯一は自分だ、と。未練が無くなった世界は、千年以上一人で生きてきたルスタヴェリにとっては塵芥に等しいだろうと、オリヴィエはそう考えていた。
「ハッ、何を言うかと思ったら……あの方がお気に入りの人間が死んだくらいで狂うなど……」
『血の伯爵』は鼻で笑ったが、オリヴィエの顔を見て言葉を止めた。彼がルスタヴェリを侮辱して言っているわけではないことに気付いたからだ。
それほどまでにオリヴィエの目は真剣なものになっていた。
しかし、だからといってそう簡単に信じられるような話ではない。
確かにオリヴィエに出会ってからルスタヴェリの様子が変わったという話は『血の伯爵』も聞いたことがある。
だが、あくまで噂程度のものでしかないし、実際に目にしているわけでもないのだ。
それに仮にそれが真実だったとしても、ルスタヴェリは千年以上生きている不死身の怪物である。たとえ狂ってもすぐに元に戻るはずだ。
『血の伯爵』はそう考えた。
「悪いが信じ難いな」
「じゃあ、どうすれば信じてくれる?」
オリヴィエが食い下がる。
ここで引き下がっていては何も解決にならない。
「そうだな……。お前の本当の目的を教えてくれれば少しは考えてもいい」
「私の目的?」
予想外の要求に、オリヴィエは首を傾げる。
「そうだ。お前は何のために動いている?」
「人間がヴァンパイアに怯えない平和な日々の為だよ」
オリヴィエは即答した。それ以外に目的など、ある筈がないと。
「本当にそれだけか?」
「それ以外に何がある。私はヴァンパイアハンターだ」
「嘘だな。お前からは何か別の気配を感じる」
「……!」
オリヴィエの表情がわずかに強張る。
それを見逃さず、『血の伯爵』は続けた。
「それで? さっきの質問に対する答えを聞いていないぞ」
「…………」
沈黙が流れる。
しばらくの間、お互いの目を見つめ合ったまま時間が流れたが、やがて観念するようにオリヴィエが口を開いた。
「レニエが来た」
「……!?」
その名を聞いた瞬間、『血の伯爵』が目を大きく見開く。
「まさか、あの死神レニエが来たのか?」
「ああ」
思い出すのは不気味なあの笑みだ。漆黒の髪に金色の瞳を持つ男は、いつも突然現れてはオリヴィエを見てにっこり笑う。
「それで、奴は今どこにいるんだ?」
「わからない。奴はいつもフラリと来て、自分の都合のいい時に去っていく」
オリヴィエが死に近づく度にやってきて、傍に居座るあの男。死の匂いがするのだと言ってオリヴィエに付き纏い、そのオリヴィエから死の気配が去ると、どこかへと消えていく。
死神レニエの存在はルスタヴェリも知らない。知っているのは当事者であるオリヴィエと、以前とある取引の報酬としてオリヴィエから死神の情報を提供された『血の伯爵』だけだ。
「でも、このタイミングで来たってことはきっと……」
――近々、私は死ぬ。
そう言おうとしたときだ。
オリヴィエの言葉を遮るように、『血の伯爵』は彼の首を掴んだ。そしてそのまま持ち上げる。
「ぐっ……!」
突然の行動に驚く暇もなく、オリヴィエはそのまま地面に叩きつけられた。弱った身体に、尚且つ背中に強い衝撃を受け、息が詰まる。
『血の伯爵』は馬乗りになりながら彼の顔を覗き込んだ。
「ふざけたこと言ってんじゃねえよ」
怒りを含んだ声で言う。
だが、それは当然のことだった。
「私が死んだら、おそらくルスタヴェリは狂う」
以前から、ルスタヴェリの対応がハンターに対するソレとしてはおかしいと思っていた。
オリヴィエはヴァンパイアハンターなのに。敵同士であるというのに。
ルスタヴェリの、オリヴィエを見る目に熱が籠るようになったのは、いつからだったろうか。
――あれは、友人に対するものではない。
自惚れでもなんでもなく、おそらく自分が死んだらルスタヴェリは人間を、世界を滅ぼす。ルスタヴェリの唯一は自分だ、と。未練が無くなった世界は、千年以上一人で生きてきたルスタヴェリにとっては塵芥に等しいだろうと、オリヴィエはそう考えていた。
「ハッ、何を言うかと思ったら……あの方がお気に入りの人間が死んだくらいで狂うなど……」
『血の伯爵』は鼻で笑ったが、オリヴィエの顔を見て言葉を止めた。彼がルスタヴェリを侮辱して言っているわけではないことに気付いたからだ。
それほどまでにオリヴィエの目は真剣なものになっていた。
しかし、だからといってそう簡単に信じられるような話ではない。
確かにオリヴィエに出会ってからルスタヴェリの様子が変わったという話は『血の伯爵』も聞いたことがある。
だが、あくまで噂程度のものでしかないし、実際に目にしているわけでもないのだ。
それに仮にそれが真実だったとしても、ルスタヴェリは千年以上生きている不死身の怪物である。たとえ狂ってもすぐに元に戻るはずだ。
『血の伯爵』はそう考えた。
「悪いが信じ難いな」
「じゃあ、どうすれば信じてくれる?」
オリヴィエが食い下がる。
ここで引き下がっていては何も解決にならない。
「そうだな……。お前の本当の目的を教えてくれれば少しは考えてもいい」
「私の目的?」
予想外の要求に、オリヴィエは首を傾げる。
「そうだ。お前は何のために動いている?」
「人間がヴァンパイアに怯えない平和な日々の為だよ」
オリヴィエは即答した。それ以外に目的など、ある筈がないと。
「本当にそれだけか?」
「それ以外に何がある。私はヴァンパイアハンターだ」
「嘘だな。お前からは何か別の気配を感じる」
「……!」
オリヴィエの表情がわずかに強張る。
それを見逃さず、『血の伯爵』は続けた。
「それで? さっきの質問に対する答えを聞いていないぞ」
「…………」
沈黙が流れる。
しばらくの間、お互いの目を見つめ合ったまま時間が流れたが、やがて観念するようにオリヴィエが口を開いた。
「レニエが来た」
「……!?」
その名を聞いた瞬間、『血の伯爵』が目を大きく見開く。
「まさか、あの死神レニエが来たのか?」
「ああ」
思い出すのは不気味なあの笑みだ。漆黒の髪に金色の瞳を持つ男は、いつも突然現れてはオリヴィエを見てにっこり笑う。
「それで、奴は今どこにいるんだ?」
「わからない。奴はいつもフラリと来て、自分の都合のいい時に去っていく」
オリヴィエが死に近づく度にやってきて、傍に居座るあの男。死の匂いがするのだと言ってオリヴィエに付き纏い、そのオリヴィエから死の気配が去ると、どこかへと消えていく。
死神レニエの存在はルスタヴェリも知らない。知っているのは当事者であるオリヴィエと、以前とある取引の報酬としてオリヴィエから死神の情報を提供された『血の伯爵』だけだ。
「でも、このタイミングで来たってことはきっと……」
――近々、私は死ぬ。
そう言おうとしたときだ。
オリヴィエの言葉を遮るように、『血の伯爵』は彼の首を掴んだ。そしてそのまま持ち上げる。
「ぐっ……!」
突然の行動に驚く暇もなく、オリヴィエはそのまま地面に叩きつけられた。弱った身体に、尚且つ背中に強い衝撃を受け、息が詰まる。
『血の伯爵』は馬乗りになりながら彼の顔を覗き込んだ。
「ふざけたこと言ってんじゃねえよ」
怒りを含んだ声で言う。
だが、それは当然のことだった。
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