天国への階段

高嗣水清太

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もう決めたことだ

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「…………」

 ルスタヴェリは、己の部屋にある窓辺で月を見上げていた。
(そろそろ、か)
 約束の期限まであと少し。覚悟を決めなければ、と思う。

『お前の命が尽きるとき、また現れる』

 これは、オリヴィエに言った言葉ではない。

『それまでに私のものになると誓え。そうしたら、私はお前の願いを聞き入れよう』

 これは、己自身へかけた呪いの言葉だ。
(私の答えは決まっている)

 オリヴィエを失うのは辛い。彼が自分から離れていくのは苦しい。
 ルスタヴェリは自分がこれほどまで一人の人間に執着するとは思ってもみなかった。けれどどうしようもないのだ。自分でもなぜこんなにオリヴィエに惹かれるのか、逃したくないと願うのかはわからない。
 こんな感情は間違いだと言われたほうがまだ納得できる。彼をヴァンパイアにして己のものにするということが、きっと正しいことではないのも理解している。
(……)
 それでも、ルスタヴェリは諦められなかった。

 ルスタヴェリは、己の欲望のままに動くことに決めたのだ。己の望みの為だけに、己の望みを叶える為に。
(これで、最後だ)

 ルスタヴェリの望みは、オリヴィエだ。オリヴィエさえ生きていてくれるのなら、傍にいてくれるのなら、人間に対する恨みも憎しみも忘れることができる。

 だから、オリヴィエが望むのなら封印されるくらい何てことはない。ルスタヴェリは不死なのだ。封印は永遠ではない。だがルスタヴェリは永遠を生きることができる。そして、オリヴィエを永遠とすることができる。たとえ何百、何千年経った後でも、封印が解けたときにオリヴィエが生きてさえいてくれるのならば……
 その時こそは、共に生きられるかもしれない。

「……」

 それは、ルスタヴェリにとって微かな希望だった。
 けれど、もし、オリヴィエが己を選ばなかったら――。

 その可能性を考えただけで、心は悲鳴を上げた。
 ルスタヴェリは心臓を握り潰されたかのような痛みを感じ、思わず歯を食いしばる。
(……この世界は、こんなにも苦しかったのか)

 ルスタヴェリは今まで自分の心を知らなかった。今までのルスタヴェリは、ただ人間を殺すことを楽しんでいるだけのヴァンパイアだった。
 はるか昔受けた、人外だという迫害から人間を憎み、世界を憎み、すべてを恨んでいた。
 だが、今ならわかる。
(これが、愛しいという気持ちか)

 胸が痛くて張り裂けそうだ……。
 ルスタヴェリは、オリヴィエが欲しくて堪らなかった。
 己と対等に渡り合える唯一の相手。己と同じ景色を見れる唯一の相手。
 彼を、手に入れたいと望んでしまった。
 ルスタヴェリは、自分をまっすぐ見てくれるオリヴィエを知り、初めて独りは嫌だと思った。
(……だが、もう決めたことだ)

 どんな結果になろうとも、ルスタヴェリは自分の選択を後悔しないだろう。
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