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第一章:俺たちの日常
俺たちの日常 2
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「んー、何だろうな。あんまり深く考えたこともないけど、ひとまず無難に生活していけたらなって気持ちはあるかなぁ。最低でもどっか大学入って、少しでも割の良い会社に就職して、みたいな。――あ、でも一つだけ目標があるとすれば、大阪に住んでみたいってのはある」
「大阪? 何でまた? 思い入れでもあるのかよ」
思いついたようにパッと俺へ目線を戻し告げてくる響平に、首を傾げながら続きを促す。
「ないよ。ただ、子供の頃からテレビで大阪の雰囲気観てて、住んだら楽しそうな所だし行ってみたいなって憧れがあるんだ。食い物も美味いとか言うじゃん。もちろん、他の場所も美味いもんは沢山あると思うけどさ」
「ふぅん、なるほどね。……確かに、そういうのも一つの夢か」
「夢ってほど大袈裟でもねぇよ。そんなん言ったら、海外に移住したいとかって人はどうなるんだよ。そっちの方がよっぽど壮大で夢って感じじゃん。国内で引っ越しとか、平凡な望みだよ」
「そうでもないだろ。沖縄住みたいとか北海道で暮らしたいとか、そういう願望を抱いてても、色々あって叶えられない人はたぶん、俺たちが思っている以上に世の中には大勢いるはずだし」
「まぁ、それはな。でも、そんな夢って言うほど大それた志しを持ってるつもりもないんだけどなぁ」
率直な考えを述べただけの俺の言葉を、おだてているとでも勘違いしたのか、響平はどこか気恥ずかしそうにそわそわとした動作をみせる。
住み慣れた場所をあえて離れて、見知らぬ土地で生活の基盤を作りたい。
充分、立派じゃないか。
そんな感想を友人へ抱きつつ、更に会話を続けようと口を開きかけた俺を遮るように、突然別の声が飛び込むようにして割り込んできた。
「――才樹! 発表きたよ! あ、安達くんちょっとごめんね」
そう言って俺の机に両手を載せてきたのは、この学校内で一番の腐れ縁である幼馴染の妃夏で、あからさまに興奮した面持ちで俺の顔を覗き込んでくる。
「発表?」
いきなり何の話かと訝しむ俺に大きく頷いて、妃夏は自分のスマホを取り出し目の前に掲げてみせた。
「あたしたちが応募した、小説賞の中間発表。今サイトのページ確認したら、更新されてた」
「――っ! マジか!」
今年の春先に応募した、ミステリー小説。その最終候補作が決定した。
たった今、響平に言われたばかりでタイムリーだなと頭の隅で思いながら、俺は慌てるような手つきでポケットからスマホを出すとすぐにブックマークしておいたサイトのページへ接続する。
「…………」
表示されたページには、確かに中間発表という今までになかった文字が更新されていた。
サイトを表示させた時点で、まだ結果は見えていない。このまま下へとスクロールさせる必要がある。
状況を即座に理解した響平が、興味津々といった表情で俺とスマホを交互に見つめてくる。
「妃夏は、もう結果知ってるのか?」
「ううん。あたしも今、たまたまサイト開いて気づいたとこ。どうせなら、一緒に見ようと思って我慢した」
「そうか」
妃夏も自身のスマホを緊張した面持ちで凝視しながら応じてくるのを聞いて、俺は小さく頷く。
まだ最終結果の報告でもないのに、手汗が滲んでくるのが自覚できた。
――ここで落ちれば、全て終わり。最終結果も何もない。
「大阪? 何でまた? 思い入れでもあるのかよ」
思いついたようにパッと俺へ目線を戻し告げてくる響平に、首を傾げながら続きを促す。
「ないよ。ただ、子供の頃からテレビで大阪の雰囲気観てて、住んだら楽しそうな所だし行ってみたいなって憧れがあるんだ。食い物も美味いとか言うじゃん。もちろん、他の場所も美味いもんは沢山あると思うけどさ」
「ふぅん、なるほどね。……確かに、そういうのも一つの夢か」
「夢ってほど大袈裟でもねぇよ。そんなん言ったら、海外に移住したいとかって人はどうなるんだよ。そっちの方がよっぽど壮大で夢って感じじゃん。国内で引っ越しとか、平凡な望みだよ」
「そうでもないだろ。沖縄住みたいとか北海道で暮らしたいとか、そういう願望を抱いてても、色々あって叶えられない人はたぶん、俺たちが思っている以上に世の中には大勢いるはずだし」
「まぁ、それはな。でも、そんな夢って言うほど大それた志しを持ってるつもりもないんだけどなぁ」
率直な考えを述べただけの俺の言葉を、おだてているとでも勘違いしたのか、響平はどこか気恥ずかしそうにそわそわとした動作をみせる。
住み慣れた場所をあえて離れて、見知らぬ土地で生活の基盤を作りたい。
充分、立派じゃないか。
そんな感想を友人へ抱きつつ、更に会話を続けようと口を開きかけた俺を遮るように、突然別の声が飛び込むようにして割り込んできた。
「――才樹! 発表きたよ! あ、安達くんちょっとごめんね」
そう言って俺の机に両手を載せてきたのは、この学校内で一番の腐れ縁である幼馴染の妃夏で、あからさまに興奮した面持ちで俺の顔を覗き込んでくる。
「発表?」
いきなり何の話かと訝しむ俺に大きく頷いて、妃夏は自分のスマホを取り出し目の前に掲げてみせた。
「あたしたちが応募した、小説賞の中間発表。今サイトのページ確認したら、更新されてた」
「――っ! マジか!」
今年の春先に応募した、ミステリー小説。その最終候補作が決定した。
たった今、響平に言われたばかりでタイムリーだなと頭の隅で思いながら、俺は慌てるような手つきでポケットからスマホを出すとすぐにブックマークしておいたサイトのページへ接続する。
「…………」
表示されたページには、確かに中間発表という今までになかった文字が更新されていた。
サイトを表示させた時点で、まだ結果は見えていない。このまま下へとスクロールさせる必要がある。
状況を即座に理解した響平が、興味津々といった表情で俺とスマホを交互に見つめてくる。
「妃夏は、もう結果知ってるのか?」
「ううん。あたしも今、たまたまサイト開いて気づいたとこ。どうせなら、一緒に見ようと思って我慢した」
「そうか」
妃夏も自身のスマホを緊張した面持ちで凝視しながら応じてくるのを聞いて、俺は小さく頷く。
まだ最終結果の報告でもないのに、手汗が滲んでくるのが自覚できた。
――ここで落ちれば、全て終わり。最終結果も何もない。
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