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第一章:俺たちの日常
俺たちの日常 3
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一度大きく深呼吸をして、スマホの画面をゆっくりと上へスクロールさせていく。
応募総数は千五百二十作品。その中から最終選考に残ったのは、僅かに九作品。
――やっぱり、甘くはなさそうだな。
生き残った九作品の中に、自分が書いた作品の名前がある確率っていくらなんだろうか。
そんなことを考えながら、震えそうになる指先で更に画面をスクロールしていくと、ついに最終選考に選ばれたタイトルと作者名が表示され始めた。
一作目……二作目……三作目……。
もったいぶるような動作で一作品ずつチェックしていき、いよいよ残りは二作品。
――今年も駄目か。
観念した気持ちで八作品目を確認し、大きく鼻から息をつく。
ラスト、九作品目。
奇跡が起きるのなら、こういう場面であってほしい。
そう祈りながら覗いた画面に映し出されたのは――。
『雪降る季節にきみが見た夢 伊紀菜兎巳』
「――は?」
視界に飛び込んできたペンネームを認識した瞬間、咄嗟に間の抜けた声を漏らしてしまった。
それと同時に、
「嘘……! え、嘘、やった! ある! あたしの名前あったぁー!」
側に立つ妃夏が、教室中に響く歓声を上げた。
その声に驚いた様子で、クラスにいる大半がこちらを振り返るのが視界の隅に映った。
だけど、そんなことよりも俺は、最後に載せられていた見覚えのありまくるそのペンネームから視線を逸らすことができなかった。
伊紀菜兎巳。
妃夏が使用している、作家としてのもう一つの名前。
――マジか。
頭の中が呆然としていくのを感じながら、俺はそこに記された名前を何度も読み直す。
「星咲さん、最終選考に残ったんだ? すげぇじゃん! 高校生作家になれるんじゃね?」
「えぇー? いやまだわかんないよ。受賞したわけじゃないし。たぶん、ここで終わりな気がする」
称賛する響平と、謙遜を口にしつつもまんざらではない妃夏の声を間近で聞きながら、俺はそっとスマホを持つ手を膝に落とし、気持ちを切り替えるように短く息を吐きだす。
「妃夏、すげぇな。俺は駄目だった。選評すら貰えないわ」
にやけ顔の幼馴染を見上げそう言葉をかけると、妃夏は一瞬申し訳なさそうに表情を困惑に変え、それから
「ん……できればあたしも、一緒に残れた方が嬉しかった」
と、しんみりした声音でそう返事をしてきた。
慰めや社交辞令的な台詞でないのは、長年の付き合いで察することができたから、俺は口元を歪めるようにして笑いつつ、わざとらしく肩を竦めて首を横へと振る。
「自信作だったけど、こればかりは仕方ない。つーか、妃夏の方が文才あるんだし、先に結果出しても不思議じゃないよ」
「え? いや、そんなことないでしょ。才樹の書く話だって、あたしは面白いと思ってるし」
「うんまぁ、それは俺も自覚してるけどさ」
別にふざけたり自虐的になっているわけでもなく、本心だから首肯しておく。
「いやぁ、でもそうかぁ……。去年に続いて、これで二連敗だな。やっぱり、夢を叶えるってのは楽じゃないんだな」
人生で初めて小説賞に応募したのは去年。高校一年の春だった。
それなりに書く練習はしてきたし、佳作くらいはいけるんじゃないかと舐めてかかった結果は、一次選考以下というものだった。
応募総数は千五百二十作品。その中から最終選考に残ったのは、僅かに九作品。
――やっぱり、甘くはなさそうだな。
生き残った九作品の中に、自分が書いた作品の名前がある確率っていくらなんだろうか。
そんなことを考えながら、震えそうになる指先で更に画面をスクロールしていくと、ついに最終選考に選ばれたタイトルと作者名が表示され始めた。
一作目……二作目……三作目……。
もったいぶるような動作で一作品ずつチェックしていき、いよいよ残りは二作品。
――今年も駄目か。
観念した気持ちで八作品目を確認し、大きく鼻から息をつく。
ラスト、九作品目。
奇跡が起きるのなら、こういう場面であってほしい。
そう祈りながら覗いた画面に映し出されたのは――。
『雪降る季節にきみが見た夢 伊紀菜兎巳』
「――は?」
視界に飛び込んできたペンネームを認識した瞬間、咄嗟に間の抜けた声を漏らしてしまった。
それと同時に、
「嘘……! え、嘘、やった! ある! あたしの名前あったぁー!」
側に立つ妃夏が、教室中に響く歓声を上げた。
その声に驚いた様子で、クラスにいる大半がこちらを振り返るのが視界の隅に映った。
だけど、そんなことよりも俺は、最後に載せられていた見覚えのありまくるそのペンネームから視線を逸らすことができなかった。
伊紀菜兎巳。
妃夏が使用している、作家としてのもう一つの名前。
――マジか。
頭の中が呆然としていくのを感じながら、俺はそこに記された名前を何度も読み直す。
「星咲さん、最終選考に残ったんだ? すげぇじゃん! 高校生作家になれるんじゃね?」
「えぇー? いやまだわかんないよ。受賞したわけじゃないし。たぶん、ここで終わりな気がする」
称賛する響平と、謙遜を口にしつつもまんざらではない妃夏の声を間近で聞きながら、俺はそっとスマホを持つ手を膝に落とし、気持ちを切り替えるように短く息を吐きだす。
「妃夏、すげぇな。俺は駄目だった。選評すら貰えないわ」
にやけ顔の幼馴染を見上げそう言葉をかけると、妃夏は一瞬申し訳なさそうに表情を困惑に変え、それから
「ん……できればあたしも、一緒に残れた方が嬉しかった」
と、しんみりした声音でそう返事をしてきた。
慰めや社交辞令的な台詞でないのは、長年の付き合いで察することができたから、俺は口元を歪めるようにして笑いつつ、わざとらしく肩を竦めて首を横へと振る。
「自信作だったけど、こればかりは仕方ない。つーか、妃夏の方が文才あるんだし、先に結果出しても不思議じゃないよ」
「え? いや、そんなことないでしょ。才樹の書く話だって、あたしは面白いと思ってるし」
「うんまぁ、それは俺も自覚してるけどさ」
別にふざけたり自虐的になっているわけでもなく、本心だから首肯しておく。
「いやぁ、でもそうかぁ……。去年に続いて、これで二連敗だな。やっぱり、夢を叶えるってのは楽じゃないんだな」
人生で初めて小説賞に応募したのは去年。高校一年の春だった。
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