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第二章:懊悩の足枷
懊悩の足枷 1
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おめでとう。
その一言を、本心から口にすることができなかった。
どうして、自分ではないのかという思いと劣等感、そして嫉妬。
後輩である星咲妃夏の、最終選考進出の知らせを受けたときに生じた感情が、それだった。
私の方が、文才がある。書き続けてきた時間も、長いはず。
それなのに、まだ中間発表とは言えどうして私ではなく彼女が先に結果を出してしまえるのか。
「何がいけなかったの? 対策はちゃんとできてたはずなのに……」
誰にも教えていなかったが、星咲が参加していた小説賞には自分も作品を応募していた。それも、二作品。
どちらも自信があったから、最低でも一作は結果を残せるかもしれないという期待が強かった。
それが、蓋を開けてみればどちらも落選。中間発表にすら残れなかった。
初めて賞に応募してから、五年が経った。
中学一年のときに、力試しで参加した短編小説の賞で佳作を取ったことが、自分の中で明確に小説家を目指そうと志す起爆剤みたいなものになったけれど、それ以降は鳴かず飛ばずで今日まできた。
自分に才能がないとは思わない。
今はまだ、成長の途中。そんな風に現状を従えながら創作を続けてきたけれど――今日の出来事は、さすがに無視できるものではなかった。
“あたし、最終選考に残りました!”
心底嬉しそうな顔で、そう告げてきた星咲の顔が鮮明に脳裏へ蘇る。
どうにか平静を装うことはできたけれど、内心では動揺してしまっていたのが本音であり、キーボードを叩いていた指は言うことを聞かなくなってしまったかのように、何度ももつれて誤字を誘った。
焦りが、私の中に生まれた。
漠然と、まだチャンスがあるはずと高を括る気持ちを抱いていたけれど、すぐ側で自分よりも先に結果を出そうとする存在を目の当たりにした瞬間、このままではいけないという危機感がジワジワと染み出し、頭の中がパニックにもなりかけた。
――私には、何が足りないのだろう。
努力はしてきた。活字愛好倶楽部のメンバーを下に見るような気持ちは微塵もないけれど、みんなの中では一番書くという行為に時間を捧げてきた自負もある。
それでも私は、後輩にリードをされてしまった。
「…………」
悔しい、ではない。自分が今味わっているこの感情は、不甲斐ないという自己嫌悪。
これだけ自分なりに頑張り続けて、未だに成功の兆しも掴めていない。
そんな立場のくせに、余裕ぶって周りに抜かされ、こうして一人馬鹿みたいに打ちのめされている。
「もっと頑張らなくちゃ……」
書きかけの小説が虚しく映し出されるパソコン画面をぼんやりと見つめながら、私は呟きをこぼす。
行動を止めて、叶う夢はない。
自身を叱咤するように短く息を吐きだして、私は鉛のように重く感じる指を動かし、執筆を再開した。
おめでとう。
その一言を、本心から口にすることができなかった。
どうして、自分ではないのかという思いと劣等感、そして嫉妬。
後輩である星咲妃夏の、最終選考進出の知らせを受けたときに生じた感情が、それだった。
私の方が、文才がある。書き続けてきた時間も、長いはず。
それなのに、まだ中間発表とは言えどうして私ではなく彼女が先に結果を出してしまえるのか。
「何がいけなかったの? 対策はちゃんとできてたはずなのに……」
誰にも教えていなかったが、星咲が参加していた小説賞には自分も作品を応募していた。それも、二作品。
どちらも自信があったから、最低でも一作は結果を残せるかもしれないという期待が強かった。
それが、蓋を開けてみればどちらも落選。中間発表にすら残れなかった。
初めて賞に応募してから、五年が経った。
中学一年のときに、力試しで参加した短編小説の賞で佳作を取ったことが、自分の中で明確に小説家を目指そうと志す起爆剤みたいなものになったけれど、それ以降は鳴かず飛ばずで今日まできた。
自分に才能がないとは思わない。
今はまだ、成長の途中。そんな風に現状を従えながら創作を続けてきたけれど――今日の出来事は、さすがに無視できるものではなかった。
“あたし、最終選考に残りました!”
心底嬉しそうな顔で、そう告げてきた星咲の顔が鮮明に脳裏へ蘇る。
どうにか平静を装うことはできたけれど、内心では動揺してしまっていたのが本音であり、キーボードを叩いていた指は言うことを聞かなくなってしまったかのように、何度ももつれて誤字を誘った。
焦りが、私の中に生まれた。
漠然と、まだチャンスがあるはずと高を括る気持ちを抱いていたけれど、すぐ側で自分よりも先に結果を出そうとする存在を目の当たりにした瞬間、このままではいけないという危機感がジワジワと染み出し、頭の中がパニックにもなりかけた。
――私には、何が足りないのだろう。
努力はしてきた。活字愛好倶楽部のメンバーを下に見るような気持ちは微塵もないけれど、みんなの中では一番書くという行為に時間を捧げてきた自負もある。
それでも私は、後輩にリードをされてしまった。
「…………」
悔しい、ではない。自分が今味わっているこの感情は、不甲斐ないという自己嫌悪。
これだけ自分なりに頑張り続けて、未だに成功の兆しも掴めていない。
そんな立場のくせに、余裕ぶって周りに抜かされ、こうして一人馬鹿みたいに打ちのめされている。
「もっと頑張らなくちゃ……」
書きかけの小説が虚しく映し出されるパソコン画面をぼんやりと見つめながら、私は呟きをこぼす。
行動を止めて、叶う夢はない。
自身を叱咤するように短く息を吐きだして、私は鉛のように重く感じる指を動かし、執筆を再開した。
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