23 / 76
第三章:不鮮明な苦悩
不鮮明な苦悩 3
しおりを挟む
話に乗っかってきたことを快く思ったか、妃夏も嬉しそうに笑いながら言葉を返してくる。
「容疑者は、男子から人気のクラスメイト、部活の後輩、幼馴染、近所のお姉さんから義理の妹……あ、後は学校の先生もありかな。一応ミステリーでもあるから、ワトソン的なポジションキャラもいた方が良いよね。主人公の悪友か、義理の妹がワトソン役に合うのかなぁ? もし義妹が犯人だったら、意外性ある感じもするし」
「……書いてみたら良いんじゃないか?」
話を聞いているうちに読んでみたいという好奇心が湧いてきて、俺は執筆を勧めてみるが妃夏は迷うように首を傾け
「すぐには無理かなぁ。漠然としたストーリーが浮かんだだけだし、細かい部分のプロットなんて考えてもいないよ。そもそも、犯人の動機も不明。あたしが教えてほしいくらいだし」
そうとぼけるように言葉を返してきた。
「そこは頑張って考えてくれよ。俺は妃夏の最高傑作が読んでみたい。てか、そこまで話されたら嫌でも中身が気になるだろうが」
「あたしはいつでも、そのときの自分に書ける最高傑作を書き上げてるつもりです。つまり、才樹は今まで何作もあたしの最高傑作を読むことができてたってことだよ。それでもまだそんなことを言ってくるなんて、才樹はどこまで欲しがりなのよ」
「うるせぇ、欲しがってるわけじゃねぇよ」
さらりと自分の書い作品を最高傑作と言えてしまう妃夏のメンタルに、少しばかり羨ましさを覚えつつ、ぶっきらぼうな返答を口にする。
常に全力を尽くしてはいるけれど、それでも自分の書いた物語を最高傑作だと人に言うのは、俺は絶対に気恥ずかしさから憚られてしまうだろう。
「でも真面目な話、面白そうなのは確かだよ。次作として前向きに検討してもありじゃねぇの。でも妃夏、お前自分の作品が最終選考までいってるこの時期に、次作書く余裕あるのもすごいな」
「え? 何で?」
「だって、普通は選考の結果が気になって、他の創作活動に身が入らなかったりするもんじゃないのか? 俺だったら気がそわそわして落ち着かないけど。そういうの、ないのか?」
問うと、妃夏は「うーん」と考え込むように晴れた空を見上げ、すぐに
「特にないね」
という簡潔な答えを返してきた。
「最終結果はすごく気になってるけど、それと次作を書くことは別件でしょ。一緒に紐づけて考えちゃうことは、違うかなって思う」
「……なるほど。立派だな」
「ん? どういうこと?」
素直に褒めたつもりだが、妃夏には嫌味かからかいと受け取られたようで、ムッとした眼差しで見つめられてしまった。
「考え方というか、精神が大人だなって思っただけだよ。それより、もう少し歩くペースあげようぜ。喋るのに夢中で少し遅れてるぞ。遅刻ギリギリになっちまう」
「え? そう? 別に大丈夫じゃないかな」
「いや遅刻は駄目だろ」
九条先輩の悩みについても、創作に関する意見の出し合いも、両方大切ではあるが、今の俺たちが成すべきことは時間内に学校へ辿り着くことだ。
話の続きは、教室へ着いてからいくらでもできる。
スマホで時刻を確認しつつ危機のないぼやきをこぼす妃夏に発破をかけ、俺は歩くスピードを速めた。
「容疑者は、男子から人気のクラスメイト、部活の後輩、幼馴染、近所のお姉さんから義理の妹……あ、後は学校の先生もありかな。一応ミステリーでもあるから、ワトソン的なポジションキャラもいた方が良いよね。主人公の悪友か、義理の妹がワトソン役に合うのかなぁ? もし義妹が犯人だったら、意外性ある感じもするし」
「……書いてみたら良いんじゃないか?」
話を聞いているうちに読んでみたいという好奇心が湧いてきて、俺は執筆を勧めてみるが妃夏は迷うように首を傾け
「すぐには無理かなぁ。漠然としたストーリーが浮かんだだけだし、細かい部分のプロットなんて考えてもいないよ。そもそも、犯人の動機も不明。あたしが教えてほしいくらいだし」
そうとぼけるように言葉を返してきた。
「そこは頑張って考えてくれよ。俺は妃夏の最高傑作が読んでみたい。てか、そこまで話されたら嫌でも中身が気になるだろうが」
「あたしはいつでも、そのときの自分に書ける最高傑作を書き上げてるつもりです。つまり、才樹は今まで何作もあたしの最高傑作を読むことができてたってことだよ。それでもまだそんなことを言ってくるなんて、才樹はどこまで欲しがりなのよ」
「うるせぇ、欲しがってるわけじゃねぇよ」
さらりと自分の書い作品を最高傑作と言えてしまう妃夏のメンタルに、少しばかり羨ましさを覚えつつ、ぶっきらぼうな返答を口にする。
常に全力を尽くしてはいるけれど、それでも自分の書いた物語を最高傑作だと人に言うのは、俺は絶対に気恥ずかしさから憚られてしまうだろう。
「でも真面目な話、面白そうなのは確かだよ。次作として前向きに検討してもありじゃねぇの。でも妃夏、お前自分の作品が最終選考までいってるこの時期に、次作書く余裕あるのもすごいな」
「え? 何で?」
「だって、普通は選考の結果が気になって、他の創作活動に身が入らなかったりするもんじゃないのか? 俺だったら気がそわそわして落ち着かないけど。そういうの、ないのか?」
問うと、妃夏は「うーん」と考え込むように晴れた空を見上げ、すぐに
「特にないね」
という簡潔な答えを返してきた。
「最終結果はすごく気になってるけど、それと次作を書くことは別件でしょ。一緒に紐づけて考えちゃうことは、違うかなって思う」
「……なるほど。立派だな」
「ん? どういうこと?」
素直に褒めたつもりだが、妃夏には嫌味かからかいと受け取られたようで、ムッとした眼差しで見つめられてしまった。
「考え方というか、精神が大人だなって思っただけだよ。それより、もう少し歩くペースあげようぜ。喋るのに夢中で少し遅れてるぞ。遅刻ギリギリになっちまう」
「え? そう? 別に大丈夫じゃないかな」
「いや遅刻は駄目だろ」
九条先輩の悩みについても、創作に関する意見の出し合いも、両方大切ではあるが、今の俺たちが成すべきことは時間内に学校へ辿り着くことだ。
話の続きは、教室へ着いてからいくらでもできる。
スマホで時刻を確認しつつ危機のないぼやきをこぼす妃夏に発破をかけ、俺は歩くスピードを速めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
負けヒロインに花束を!
遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。
葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。
その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる