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第四章:決壊する絆
決壊する絆 20
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「あたしは、これまでに何度か先輩の書いた小説を読ませてもらって、つまらないと感じたことはありません。どれも面白かった。ちゃんと、面白かったんです。参考になる部分もあったし、あたし自身の新しい気づきに繋がる勉強にもなりました。だから、あくまであたし個人の体感ですけど、先輩とあたしにそれほどの差はありませんよ。むしろあたしよりも優れてる技術があると思いますし、もちろんあたしの方が得意なこともあると思います。でもそんなのは、当たり前ですよね? 人物描写がうまい人もいるし、ホラージャンルは全然書けなくても恋愛小説はプロ並みに傑作を書ける人もいたり。先輩は、そういう自分の得意な武器を見誤っているか気づけていないだけじゃないかなって、傍から見ていて感じました。もっと今より視野を広く持って活動を続ければ、いつか絶対に良い結果に手が届くんじゃないかなって、あたしはそう思うんです。作家デビューするには、運やタイミングもあるって言いますし」
「もったいぶったような言い方ね。結局何が言いたいわけ? 馬鹿にでもしてる?」
「先輩はまだまだ、勝負ができるって言いたいだけですよ。あ、あたしとじゃないですよ? 自分自身とです。だから、創作をやめるなんて考えは、もっともっと後でも良いんじゃないかなって伝えたくて」
「……」
どこまでも淡々として嫌味も感じ取れない星咲さんの言葉に、私はその真意を読み取れずまごつくように開きかけた口を閉じる。
「誰かに言われたからじゃなくて、自分の中でもう表現できるものが何もなくなったときにこそ、創作をやめる決断をするのが理想じゃないでしょうか。何か、すごく偉そうなこと言っちゃってますけど、これが嘘偽りないあたしの意見です」
苦しそうな声のまま、ふふっと照れ臭そうに笑う星咲さんに私は小さな舌打ちを鳴らして、そっと胸倉を掴んでいた手を離した。
解放された星咲さんは少し安堵した様子で肩を上下させ、軽く胸元を擦る。
「帰るわ。たぶん、もう卒業まで関わることもないと思うから」
何かしら言い返したいという気持ちはあったものの、返すべき言葉を生成することができずに、そんな逃げ口上を吐き出すのが精一杯だった私は、虚勢がばれるのを避けようと星咲さんのリアクションを待つことなく背中を向けて速足で歩き始める。
「――九条先輩!」
そんな私の背を追いかけるように、星咲さんの声が廊下に響いた。
「負けないでくださいね! あたしは、先輩を応援してますから。先輩のデビュー作を読める日を、何年だって待ってます! あたしは、先輩が紡ぎ出す物語のファンですから!」
「……っ!」
一瞬。本当に一瞬だけ、足を止めて振り向きそうになってしまい、慌てて自制心を働かせ踏みとどまる。
ここまで酷い仕打ちをされてなお、どうしてそんなことを躊躇いもなく言えるのか。
――私なんかに期待しても、仕方がないでしょうに。
どこまで、馬鹿でお人好し気取りな後輩なのだろう。
ぐちゃぐちゃとしてうまく言葉に表現できない苦しい気持ちを抱えながら、私は最後まで星咲さんを振り返ることなく逃げるようにして校舎を後にした。
「もったいぶったような言い方ね。結局何が言いたいわけ? 馬鹿にでもしてる?」
「先輩はまだまだ、勝負ができるって言いたいだけですよ。あ、あたしとじゃないですよ? 自分自身とです。だから、創作をやめるなんて考えは、もっともっと後でも良いんじゃないかなって伝えたくて」
「……」
どこまでも淡々として嫌味も感じ取れない星咲さんの言葉に、私はその真意を読み取れずまごつくように開きかけた口を閉じる。
「誰かに言われたからじゃなくて、自分の中でもう表現できるものが何もなくなったときにこそ、創作をやめる決断をするのが理想じゃないでしょうか。何か、すごく偉そうなこと言っちゃってますけど、これが嘘偽りないあたしの意見です」
苦しそうな声のまま、ふふっと照れ臭そうに笑う星咲さんに私は小さな舌打ちを鳴らして、そっと胸倉を掴んでいた手を離した。
解放された星咲さんは少し安堵した様子で肩を上下させ、軽く胸元を擦る。
「帰るわ。たぶん、もう卒業まで関わることもないと思うから」
何かしら言い返したいという気持ちはあったものの、返すべき言葉を生成することができずに、そんな逃げ口上を吐き出すのが精一杯だった私は、虚勢がばれるのを避けようと星咲さんのリアクションを待つことなく背中を向けて速足で歩き始める。
「――九条先輩!」
そんな私の背を追いかけるように、星咲さんの声が廊下に響いた。
「負けないでくださいね! あたしは、先輩を応援してますから。先輩のデビュー作を読める日を、何年だって待ってます! あたしは、先輩が紡ぎ出す物語のファンですから!」
「……っ!」
一瞬。本当に一瞬だけ、足を止めて振り向きそうになってしまい、慌てて自制心を働かせ踏みとどまる。
ここまで酷い仕打ちをされてなお、どうしてそんなことを躊躇いもなく言えるのか。
――私なんかに期待しても、仕方がないでしょうに。
どこまで、馬鹿でお人好し気取りな後輩なのだろう。
ぐちゃぐちゃとしてうまく言葉に表現できない苦しい気持ちを抱えながら、私は最後まで星咲さんを振り返ることなく逃げるようにして校舎を後にした。
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