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第五章:未来への兆し
未来への兆し 1
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「いい加減にしなさいよ。しつこすぎるわ貴女」
職員室から活字愛好俱楽部の部室へ移動している途中で、九条さんが星咲さんを壁へと押し付けている光景が私の視界に飛び込んだ。
言い争うというよりは、九条さんの方が一方的に感情を露わにして話しているような印象を受けると同時に、会話の内容が創作に関するものだとすぐに把握できた。
小説家になる夢を諦め別の道を進もうとする九条さんに、星咲さんが異を唱えている。
自分で描いた夢を追うことも、現実を受け止め手堅く生きる道を選ぶことも、どちらにも価値があると個人的には思うから、言い合う二人の意見は双方共に尊重できるものだろう。
故に、どちらかの考えにのみ寄り添うという選択肢はないが、それでも私は――あくまでも教師という立場ではなく一人の人間として選ぶのなら、九条さんの肩を持ちたいと思ってしまうのが心情だった。
夢を追うことは素晴らしい。特に若い世代であれば、その価値は更に高まる。
だけど、なまじ半端に夢を持ち追い求めるてしまうことで、人生を取り取り返しがつかないところまで壊してしまうことがあることを、私は知っている。
だからこそ、どこかのタイミングで夢を諦め俗に言われる普通の人生へ舵を切り返る覚悟や選択を、私は否定したくない。
その選択を決断することで、幸せになれる人生だってあるのだから。
――貴一。
脳裏に浮かんだ懐かしい顔を、ぎゅっと目を瞑り押し戻して、再び会話を続ける二人の様子を確認する。
「――九条先輩! 負けないでくださいね!」
少し意識を逸らした間に、壁に押し付けられる体勢になっていた星咲さんは解放され、歩き去ろうとする九条さんの背へ真剣な表情で呼びかける光景へと変わっていた。
星咲さんの声に、こちらへ向かおうと歩いてきていた九条さんが一瞬、痛みにでも耐えるよな苦しい顔になりながら立ち止まりそうになる気配をみせたが、結局そのまま足を止めることはせずに歩き過ぎ昇降口へと歩き去っていった。
その姿が見えなくなってからも、星咲さんは暫しその場に立ち尽くしていたが、やがて踵を返すと部室のある方向へと歩きだしたのを見て、私も身を潜めていた壁から離れ後を追うようにして歩きだす。
そうして、数メートルほど進んだタイミングで
「星咲さん」
こちらに気づくことなく歩いていた星咲さんの背中へ、呼び止めるように声をかけた。
少し驚いたように振り向いた星咲さんんは、声をかけたのが私とわかるとにこりと笑いながら足を止めた。
「大丈夫? 何だか大変そうだったけれど」
今目撃してしまったことを素直に話すべきか悩みつつ歩み寄り、見て見ぬふりも立場上良くはないと判断し、見ていたことを私は素直に白状する意味でそう言葉をかける。
「いい加減にしなさいよ。しつこすぎるわ貴女」
職員室から活字愛好俱楽部の部室へ移動している途中で、九条さんが星咲さんを壁へと押し付けている光景が私の視界に飛び込んだ。
言い争うというよりは、九条さんの方が一方的に感情を露わにして話しているような印象を受けると同時に、会話の内容が創作に関するものだとすぐに把握できた。
小説家になる夢を諦め別の道を進もうとする九条さんに、星咲さんが異を唱えている。
自分で描いた夢を追うことも、現実を受け止め手堅く生きる道を選ぶことも、どちらにも価値があると個人的には思うから、言い合う二人の意見は双方共に尊重できるものだろう。
故に、どちらかの考えにのみ寄り添うという選択肢はないが、それでも私は――あくまでも教師という立場ではなく一人の人間として選ぶのなら、九条さんの肩を持ちたいと思ってしまうのが心情だった。
夢を追うことは素晴らしい。特に若い世代であれば、その価値は更に高まる。
だけど、なまじ半端に夢を持ち追い求めるてしまうことで、人生を取り取り返しがつかないところまで壊してしまうことがあることを、私は知っている。
だからこそ、どこかのタイミングで夢を諦め俗に言われる普通の人生へ舵を切り返る覚悟や選択を、私は否定したくない。
その選択を決断することで、幸せになれる人生だってあるのだから。
――貴一。
脳裏に浮かんだ懐かしい顔を、ぎゅっと目を瞑り押し戻して、再び会話を続ける二人の様子を確認する。
「――九条先輩! 負けないでくださいね!」
少し意識を逸らした間に、壁に押し付けられる体勢になっていた星咲さんは解放され、歩き去ろうとする九条さんの背へ真剣な表情で呼びかける光景へと変わっていた。
星咲さんの声に、こちらへ向かおうと歩いてきていた九条さんが一瞬、痛みにでも耐えるよな苦しい顔になりながら立ち止まりそうになる気配をみせたが、結局そのまま足を止めることはせずに歩き過ぎ昇降口へと歩き去っていった。
その姿が見えなくなってからも、星咲さんは暫しその場に立ち尽くしていたが、やがて踵を返すと部室のある方向へと歩きだしたのを見て、私も身を潜めていた壁から離れ後を追うようにして歩きだす。
そうして、数メートルほど進んだタイミングで
「星咲さん」
こちらに気づくことなく歩いていた星咲さんの背中へ、呼び止めるように声をかけた。
少し驚いたように振り向いた星咲さんんは、声をかけたのが私とわかるとにこりと笑いながら足を止めた。
「大丈夫? 何だか大変そうだったけれど」
今目撃してしまったことを素直に話すべきか悩みつつ歩み寄り、見て見ぬふりも立場上良くはないと判断し、見ていたことを私は素直に白状する意味でそう言葉をかける。
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