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第五章:未来への兆し
未来への兆し 2
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「あ、見られちゃってました?」
星咲さんは特に気にする風でもなく恥ずかしそうにはにかむと、「全然大丈夫ですよ」と小さく頷いてみせ、
「むしろ、大変なのは九条先輩の方だと思います。受験とかお父さんとの軋轢とか、自分の心の中にある葛藤が、かなりグチャグチャしちゃってるのかも」
何もない廊下の天井を心配するような顔で見上げながら、星咲さんはそう言葉を続けた。
「……その上で、九条さんは小説家以外の道を進もうと決断しかけていたみたいだけれど、星咲さんはそれを認めたくはないのね?」
「はい。認めたくないと言うか、まだそんな風に諦めるのは早すぎるなって思っただけなんですよ。九条先輩が、創作っていう枠の中で自分にできることを全てやりきって、それで結果はどうであれもう思い残すことはない、全てやりきったぞって思えて筆を折るなら、あたしは何も言えませんし先輩の決断を尊重します」
だけど――。
天井に向けられていた星咲さんの瞳が、スルリと私へとスライドする。
「不本意な理由で夢を捨てるというなら、あたしは納得できないなって思いまして。だって、自分が九条先輩の立場なら、絶対に諦めませんから。両親が執筆を止めろと言っても、どんなに成績が悪くて進学が厳しい状況に陥ろうとも、それで夢を捨てるなんてあり得ません。それに、あたしは九条先輩なら絶対にプロとしてデビューできるくらいの実力があるって確信してますし」
「……」
迷いやお世辞の感じられない断言するその口調に、私は圧倒された心地で星咲さんを見つめ返す。
夢を叶えるという大きな目標に対して、一途なくらいに意志が強い。
それがストレートに伝わってくるのを認めつつ、だけどそれ故に私は星咲さんへ対して憂いの気持ちも湧き上がった。
「星咲さんは、万が一小説家になるっていう夢が叶わなかった場合のことを、想像したりはしないのかしら?」
「可能性として、そういう未来も充分にあり得るなって思ったりはしますよ。でも、そんなこと夢を追う人にとっては当たり前のことですから。誰しもが願った通りに人生うまくいくなら、苦労なんてしません。倒れちゃうくらいの努力をひたすら継続しても、夢に届かない人生は数えきれないくらいあることは、あたしだってわかってますし」
「……それでも、小説家になりたいって気持ちは揺るがない? 夢を叶えたいという想いが強ければ強いほど、挫折したときの反動は大きくなる。これまで努力してきたことが水の泡になって、全てが無になる虚無感に圧し潰されるかもってことを考えて、怖くはならない?」
「なりません。全てが駄目だったとしても、そこまでしてきた努力は無駄だなんて思えませんし。小説家になれないのは、確かに残念ですけどね。でも、あたしが小説好きなことは変わらないでしょうし、小説家になれなかった後は読む側としてたくさんの本を読む人生を歩めば良いんじゃない? って思ってます。あたしが無理だったとしても、九条先輩とか才樹がデビューするかもしれませんし、そしたら二人が書いた新作を読むのも楽しみになるじゃないですか」
星咲さんは特に気にする風でもなく恥ずかしそうにはにかむと、「全然大丈夫ですよ」と小さく頷いてみせ、
「むしろ、大変なのは九条先輩の方だと思います。受験とかお父さんとの軋轢とか、自分の心の中にある葛藤が、かなりグチャグチャしちゃってるのかも」
何もない廊下の天井を心配するような顔で見上げながら、星咲さんはそう言葉を続けた。
「……その上で、九条さんは小説家以外の道を進もうと決断しかけていたみたいだけれど、星咲さんはそれを認めたくはないのね?」
「はい。認めたくないと言うか、まだそんな風に諦めるのは早すぎるなって思っただけなんですよ。九条先輩が、創作っていう枠の中で自分にできることを全てやりきって、それで結果はどうであれもう思い残すことはない、全てやりきったぞって思えて筆を折るなら、あたしは何も言えませんし先輩の決断を尊重します」
だけど――。
天井に向けられていた星咲さんの瞳が、スルリと私へとスライドする。
「不本意な理由で夢を捨てるというなら、あたしは納得できないなって思いまして。だって、自分が九条先輩の立場なら、絶対に諦めませんから。両親が執筆を止めろと言っても、どんなに成績が悪くて進学が厳しい状況に陥ろうとも、それで夢を捨てるなんてあり得ません。それに、あたしは九条先輩なら絶対にプロとしてデビューできるくらいの実力があるって確信してますし」
「……」
迷いやお世辞の感じられない断言するその口調に、私は圧倒された心地で星咲さんを見つめ返す。
夢を叶えるという大きな目標に対して、一途なくらいに意志が強い。
それがストレートに伝わってくるのを認めつつ、だけどそれ故に私は星咲さんへ対して憂いの気持ちも湧き上がった。
「星咲さんは、万が一小説家になるっていう夢が叶わなかった場合のことを、想像したりはしないのかしら?」
「可能性として、そういう未来も充分にあり得るなって思ったりはしますよ。でも、そんなこと夢を追う人にとっては当たり前のことですから。誰しもが願った通りに人生うまくいくなら、苦労なんてしません。倒れちゃうくらいの努力をひたすら継続しても、夢に届かない人生は数えきれないくらいあることは、あたしだってわかってますし」
「……それでも、小説家になりたいって気持ちは揺るがない? 夢を叶えたいという想いが強ければ強いほど、挫折したときの反動は大きくなる。これまで努力してきたことが水の泡になって、全てが無になる虚無感に圧し潰されるかもってことを考えて、怖くはならない?」
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