53 / 76
第五章:未来への兆し
未来への兆し 4
しおりを挟む
困った顔で慌てて言い繕うとする星咲さんへ優しく笑いかけ、私は気にしていないと安心させるように頷いた。
「ただね、私は夢を本気で追いかけることと、その夢を掴めずに挫折してしまうこと、その両方を経験した弟を間近で見てきたから、夢を追いかける若い子たちを見るとどうしても弟と被っちゃうって言うか……心配になっちゃうのよ。夢を追うっていうことは、見方を変えれば人生を見失ったり最悪の場合壊してしまうリスクもある。だからこそ、無暗に苦しむ思いをするのなら、あまり大きな夢を持たずに人並みに生きる選択肢を決断する勇気も持っていてほしいって」
こんなことは、お節介なのかもしれないけれどね。
最後にそう言い添えて、私はつまらない話を聞かせてしまったという気持ちで肩を竦める。
思い描く理想が大きければ大きいほど、そして追い求めた時間が長ければ長いほど、挫折したときの絶望感は大きくなる。
それを受け入れる強さや覚悟が備わっていないままでは、弱い人間は潰れてしまう。
そういう現実を、私は活字愛好倶楽部のみんなには理解してほしい。
そういう気持ちが強いから、ここ最近の九条さんは傍から見ていて他人事とは思えず心配になっていたのだ。
「……自分で夢を追うことを決めた人の責任、なのかもしれませんね」
「え?」
暫しばつの悪い沈黙が流れた廊下に、星咲さんが思案顔でポツリと呟きをこぼした。
「強引に親の跡継ぎをさせられたとかそういうのは別として、自分で人生を選んだのなら、その選択肢の責任を背負うのは自分です。だから、先生が心配していることを解消するには、夢を叶えるまでにその責任を背負う準備も一緒に進めていかなくちゃいけないのかもなぁって、今何となく思いつきました」
「そうね。それはたぶん、私も正しいと思う。ただそれが、頭で考えるほど簡単じゃないっていうのが問題なのでしょうけど。でも、星咲さんは大丈夫よ。挫折を乗り越える強さを、ちゃんと持っているみたいだから」
「えー、そうですかねぇ……」
「しっかり者って言い方の方がしっくりくるかしら。さ、部室に行くんでしょう?」
首を捻りながら唸る星咲さんを促し、並んで歩きだす。
――本当に、芯の強い子なのね。
こうして二人きりで真面目な話をしたのは初めてだったけれど、ここまで筋を通した考えを持っている生徒だというのは新たな発見だった。
貴一が生きているうちに、彼女の話を聞かせてあげることができれば、或いは運命が変わっていたのだろうか。
たらればでしかないけれど、ついそんなことを考えてしまう。
夢に縛られ挫折の後に旅立ってしまった弟の、時が止まってしまったままの顔を脳裏に浮かべながら、私は他愛のない会話をし始めた星咲さんへ相槌を打ちつつ、その無邪気な横顔を静かに見つめた。
「ただね、私は夢を本気で追いかけることと、その夢を掴めずに挫折してしまうこと、その両方を経験した弟を間近で見てきたから、夢を追いかける若い子たちを見るとどうしても弟と被っちゃうって言うか……心配になっちゃうのよ。夢を追うっていうことは、見方を変えれば人生を見失ったり最悪の場合壊してしまうリスクもある。だからこそ、無暗に苦しむ思いをするのなら、あまり大きな夢を持たずに人並みに生きる選択肢を決断する勇気も持っていてほしいって」
こんなことは、お節介なのかもしれないけれどね。
最後にそう言い添えて、私はつまらない話を聞かせてしまったという気持ちで肩を竦める。
思い描く理想が大きければ大きいほど、そして追い求めた時間が長ければ長いほど、挫折したときの絶望感は大きくなる。
それを受け入れる強さや覚悟が備わっていないままでは、弱い人間は潰れてしまう。
そういう現実を、私は活字愛好倶楽部のみんなには理解してほしい。
そういう気持ちが強いから、ここ最近の九条さんは傍から見ていて他人事とは思えず心配になっていたのだ。
「……自分で夢を追うことを決めた人の責任、なのかもしれませんね」
「え?」
暫しばつの悪い沈黙が流れた廊下に、星咲さんが思案顔でポツリと呟きをこぼした。
「強引に親の跡継ぎをさせられたとかそういうのは別として、自分で人生を選んだのなら、その選択肢の責任を背負うのは自分です。だから、先生が心配していることを解消するには、夢を叶えるまでにその責任を背負う準備も一緒に進めていかなくちゃいけないのかもなぁって、今何となく思いつきました」
「そうね。それはたぶん、私も正しいと思う。ただそれが、頭で考えるほど簡単じゃないっていうのが問題なのでしょうけど。でも、星咲さんは大丈夫よ。挫折を乗り越える強さを、ちゃんと持っているみたいだから」
「えー、そうですかねぇ……」
「しっかり者って言い方の方がしっくりくるかしら。さ、部室に行くんでしょう?」
首を捻りながら唸る星咲さんを促し、並んで歩きだす。
――本当に、芯の強い子なのね。
こうして二人きりで真面目な話をしたのは初めてだったけれど、ここまで筋を通した考えを持っている生徒だというのは新たな発見だった。
貴一が生きているうちに、彼女の話を聞かせてあげることができれば、或いは運命が変わっていたのだろうか。
たらればでしかないけれど、ついそんなことを考えてしまう。
夢に縛られ挫折の後に旅立ってしまった弟の、時が止まってしまったままの顔を脳裏に浮かべながら、私は他愛のない会話をし始めた星咲さんへ相槌を打ちつつ、その無邪気な横顔を静かに見つめた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
負けヒロインに花束を!
遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。
葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。
その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる