遠い空のデネブ

雪鳴月彦

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エピローグ

エピローグ 5

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「そうかな? 星咲さんなら、案外すぐにオーケーしてくれそうだけど。全然良いよ! じゃあ早速さっそく付き合おっか! とかあっさり言いそう」

「お前な、そんな軽い女みたいに言うなよ」

 ふざけて妃夏の口真似をする守草をたしなめながら歩いていると、すぐに目的の場所へと辿り着いた。

 今日発売したばかりの新作ゲームソフトと、比較的最近出たばかりのソフトが一緒に並べられたコーナー。

「ん……と。あ、あった! これだよな?」

 その中に、目当ての商品が並んでいるのを発見し、俺は即座に腕を伸ばしてそれを手に取る。

『無色透明な殺意~海中神殿の殺人遊戯~』

 手にしたソフトのタイトルに、感慨深い気持ちで目を通す。

 海中に神殿を模して造られたテーマパークで発生する殺人事件を、主人公視点で解決へと導くアドベンチャーゲーム。

 このゲームのシナリオを担当しているのが、俺たちと一緒に活字愛好倶楽部での時間を共有していた、九条先輩その人だった。

「うわぁ、本当にゲームになってる。すごいね! さすが九条先輩だね!」

「ああ。まさか、ゲーム業界でまで頭角を現すなんて、想像もしてなかったもんな。何だかんだで、やっぱり九条先輩が一番才能あったってことじゃないか?」

 俺の手にしたソフトを横から眺め感嘆の声を漏らす妃夏へ、お世辞抜きで思ったことを口に出す。

「うん、間違いないよ。作家デビューも果たして、ゲームのシナリオも創り始めちゃったもんね。多才って、こういう人を言うんだろうなぁ」

「……だろうな。やっぱり、あのとき九条先輩を引き留めて正解だったな」

「ん?」

 不意に俺が告げた言葉に、何のことと言いたげな表情で妃夏は見つめてくる。

「高校時代、創作から足を洗おうとしてた九条先輩を思い留まらせたのは自分だろ? あのときのことがなかったら、先輩の創る物語は一文字も生まれることはなかったんだ」

「あー……、別にあたしは大したことしてないって。自分が思ったことを素直に伝えただけで、あとは全部九条先輩の頑張りが結果に繋がっただけじゃん」

 大学を卒業後、見事にプロデビューを果たした九条先輩は、その勢いのまま四冊の長編を発表した。

 そして、その才能は小説だけには留まらず、こうしてゲームソフトのシナリオを手掛けるまでに至った。

 これだけの実績を紡ぎ出せたのは、確かに妃夏の言う通り九条先輩個人の努力と才能が成せたものであろう。

 だけど、その才能を救い上げたのは、まぎれもなく妃夏の想いだろう。

「謙遜するなよ。お前は、九条先輩の救世主だよ。妃夏がいなかったら、このソフトだって今ここに無かったんだぜ?」

「いやいや、だから大袈裟だって。何で急にそういう反応に困るようなこと言うかなぁ?」

 照れるよりも本気で困った顔で俺の肩を叩き、妃夏も並べられていたソフトを一つ手に取ると

「でも、そうだね。あたしの言葉が、ちょっとでも先輩の役に立ててたのなら、嬉しいかな」

 慈しむような目でソフトを眺め、感慨深そうに呟く。
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