72 / 76
エピローグ
エピローグ 5
しおりを挟む
「そうかな? 星咲さんなら、案外すぐにオーケーしてくれそうだけど。全然良いよ! じゃあ早速付き合おっか! とかあっさり言いそう」
「お前な、そんな軽い女みたいに言うなよ」
ふざけて妃夏の口真似をする守草を窘めながら歩いていると、すぐに目的の場所へと辿り着いた。
今日発売したばかりの新作ゲームソフトと、比較的最近出たばかりのソフトが一緒に並べられたコーナー。
「ん……と。あ、あった! これだよな?」
その中に、目当ての商品が並んでいるのを発見し、俺は即座に腕を伸ばしてそれを手に取る。
『無色透明な殺意~海中神殿の殺人遊戯~』
手にしたソフトのタイトルに、感慨深い気持ちで目を通す。
海中に神殿を模して造られたテーマパークで発生する殺人事件を、主人公視点で解決へと導くアドベンチャーゲーム。
このゲームのシナリオを担当しているのが、俺たちと一緒に活字愛好倶楽部での時間を共有していた、九条先輩その人だった。
「うわぁ、本当にゲームになってる。すごいね! さすが九条先輩だね!」
「ああ。まさか、ゲーム業界でまで頭角を現すなんて、想像もしてなかったもんな。何だかんだで、やっぱり九条先輩が一番才能あったってことじゃないか?」
俺の手にしたソフトを横から眺め感嘆の声を漏らす妃夏へ、お世辞抜きで思ったことを口に出す。
「うん、間違いないよ。作家デビューも果たして、ゲームのシナリオも創り始めちゃったもんね。多才って、こういう人を言うんだろうなぁ」
「……だろうな。やっぱり、あのとき九条先輩を引き留めて正解だったな」
「ん?」
不意に俺が告げた言葉に、何のことと言いたげな表情で妃夏は見つめてくる。
「高校時代、創作から足を洗おうとしてた九条先輩を思い留まらせたのは自分だろ? あのときのことがなかったら、先輩の創る物語は一文字も生まれることはなかったんだ」
「あー……、別にあたしは大したことしてないって。自分が思ったことを素直に伝えただけで、あとは全部九条先輩の頑張りが結果に繋がっただけじゃん」
大学を卒業後、見事にプロデビューを果たした九条先輩は、その勢いのまま四冊の長編を発表した。
そして、その才能は小説だけには留まらず、こうしてゲームソフトのシナリオを手掛けるまでに至った。
これだけの実績を紡ぎ出せたのは、確かに妃夏の言う通り九条先輩個人の努力と才能が成せたものであろう。
だけど、その才能を救い上げたのは、まぎれもなく妃夏の想いだろう。
「謙遜するなよ。お前は、九条先輩の救世主だよ。妃夏がいなかったら、このソフトだって今ここに無かったんだぜ?」
「いやいや、だから大袈裟だって。何で急にそういう反応に困るようなこと言うかなぁ?」
照れるよりも本気で困った顔で俺の肩を叩き、妃夏も並べられていたソフトを一つ手に取ると
「でも、そうだね。あたしの言葉が、ちょっとでも先輩の役に立ててたのなら、嬉しいかな」
慈しむような目でソフトを眺め、感慨深そうに呟く。
「お前な、そんな軽い女みたいに言うなよ」
ふざけて妃夏の口真似をする守草を窘めながら歩いていると、すぐに目的の場所へと辿り着いた。
今日発売したばかりの新作ゲームソフトと、比較的最近出たばかりのソフトが一緒に並べられたコーナー。
「ん……と。あ、あった! これだよな?」
その中に、目当ての商品が並んでいるのを発見し、俺は即座に腕を伸ばしてそれを手に取る。
『無色透明な殺意~海中神殿の殺人遊戯~』
手にしたソフトのタイトルに、感慨深い気持ちで目を通す。
海中に神殿を模して造られたテーマパークで発生する殺人事件を、主人公視点で解決へと導くアドベンチャーゲーム。
このゲームのシナリオを担当しているのが、俺たちと一緒に活字愛好倶楽部での時間を共有していた、九条先輩その人だった。
「うわぁ、本当にゲームになってる。すごいね! さすが九条先輩だね!」
「ああ。まさか、ゲーム業界でまで頭角を現すなんて、想像もしてなかったもんな。何だかんだで、やっぱり九条先輩が一番才能あったってことじゃないか?」
俺の手にしたソフトを横から眺め感嘆の声を漏らす妃夏へ、お世辞抜きで思ったことを口に出す。
「うん、間違いないよ。作家デビューも果たして、ゲームのシナリオも創り始めちゃったもんね。多才って、こういう人を言うんだろうなぁ」
「……だろうな。やっぱり、あのとき九条先輩を引き留めて正解だったな」
「ん?」
不意に俺が告げた言葉に、何のことと言いたげな表情で妃夏は見つめてくる。
「高校時代、創作から足を洗おうとしてた九条先輩を思い留まらせたのは自分だろ? あのときのことがなかったら、先輩の創る物語は一文字も生まれることはなかったんだ」
「あー……、別にあたしは大したことしてないって。自分が思ったことを素直に伝えただけで、あとは全部九条先輩の頑張りが結果に繋がっただけじゃん」
大学を卒業後、見事にプロデビューを果たした九条先輩は、その勢いのまま四冊の長編を発表した。
そして、その才能は小説だけには留まらず、こうしてゲームソフトのシナリオを手掛けるまでに至った。
これだけの実績を紡ぎ出せたのは、確かに妃夏の言う通り九条先輩個人の努力と才能が成せたものであろう。
だけど、その才能を救い上げたのは、まぎれもなく妃夏の想いだろう。
「謙遜するなよ。お前は、九条先輩の救世主だよ。妃夏がいなかったら、このソフトだって今ここに無かったんだぜ?」
「いやいや、だから大袈裟だって。何で急にそういう反応に困るようなこと言うかなぁ?」
照れるよりも本気で困った顔で俺の肩を叩き、妃夏も並べられていたソフトを一つ手に取ると
「でも、そうだね。あたしの言葉が、ちょっとでも先輩の役に立ててたのなら、嬉しいかな」
慈しむような目でソフトを眺め、感慨深そうに呟く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
負けヒロインに花束を!
遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。
葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。
その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる