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他愛ない寄り道
他愛ない寄り道
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眼鏡をかけた店の従業員が、戸惑うように桜と床に散らばった本を見比べていた。
「す、すみませんお客様。大丈夫でしたか?」
言いながら、その従業員の男は桜が落とした本を手早くかき集める。
「あ、うん。あたしは大丈夫ですけど。ごめんなさい、近くにいたのに気がつかなかったから」
「いえ、よそ見をして歩いていたこちらの責任ですので。本当に申し訳ございません」
手伝おうとする桜を手で制して、男はまとめた本を袋へ入れ直す。
「あ……、袋が破れてしまっていますね。すみません、今すぐお取り変え致しますので」
大学生くらいだろうか。中肉中背で特別目立つような特徴もない男は、困った様子でレジへと歩こうとする。
「あ、別に大丈夫です。鞄あるし、袋とかどうせ捨てるだけだから」
そんな彼を、今度は桜が手を挙げて制止した。
「いえ、でも……」
「本当に平気です。ご迷惑かけてすみませんでした」
尚も躊躇う男の手から、桜は本の詰まった袋を受け取る。
「……いえ。そんなことは……」
最後まで恐縮する従業員に一礼を残し、桜は俺に身体を向ける。
「じゃあ、行きましょ?」
「あ、ああ」
歩きだす桜を眺める男に一瞥をくれて、俺も後に続く。
「人間って面倒臭いときあるね。あれくらいのことで謝り過ぎだよ」
歩く速度を調整し横に並ぶと、桜は前を向いたままそんなことを言った。
「そりゃ、あっちからすれば大切なお客様だからな。たぶんあの人バイトだろうし、下手な対応して叱られないよう、余計に必死なんじゃないか?」
ポケットに手を入れながら、俺は適当に思いついた言葉を返しておく。
バイトだからこそ逆に不真面目な場合もあるかと思いもしたが、見た目からしてそんなタイプではなさそうだった。
参考書のコーナーは店内の一番端。そこまで早足で歩き、通路を覗く。
小学生から大学生まで、様々な需要に合わせた問題集等が並べられている棚のちょうど真ん中辺り。そこに有紀は立っていた。
俺たちに気づくと、手にしていた本を棚に戻しこちらへと近づいてくる。
「雄くんたちは、もう買い物終わり?」
「ああ、有紀は?」
「うん。買いたい本は見つけたから、お金払ってくる」
言いながら、有紀は手にした参考書を掲げてみせた。
英語と数学。どちらも俺の専門外教科だ。
「二冊?」
苦渋を浮かべる俺の横で、桜は絵画でも眺めるような仕種で、有紀が持つ参考書に顔を近づけた。
「そうだよ。結構わかりやすい解説とか載ってたから、これが良いかなって思って」
「ふ~ん」
弾んだ声で有紀が答えると、桜は何故か勝ち誇ったように口の端をつり上げる。
「甘いわね。あたしは八冊買ったわよ」
ずいっと、桜は手に持つ袋を有紀の眼前にかざす。
「んなことで競うなよ」
くだらないやり取りをする俺と桜を交互に見ながら、有紀があははと笑う。
「入り口で待ってるから、早く会計済ましてこいよ」
用が済んだのなら、長居をしていても仕方がない。
「うん」
有紀が小走りでレジへ行くのを確認し、俺は桜と一緒に店の入り口へ移動する。とはいえ、わざわざクーラーの恩恵がない外にでる必要まではないので、あくまでも入り口だ。
「す、すみませんお客様。大丈夫でしたか?」
言いながら、その従業員の男は桜が落とした本を手早くかき集める。
「あ、うん。あたしは大丈夫ですけど。ごめんなさい、近くにいたのに気がつかなかったから」
「いえ、よそ見をして歩いていたこちらの責任ですので。本当に申し訳ございません」
手伝おうとする桜を手で制して、男はまとめた本を袋へ入れ直す。
「あ……、袋が破れてしまっていますね。すみません、今すぐお取り変え致しますので」
大学生くらいだろうか。中肉中背で特別目立つような特徴もない男は、困った様子でレジへと歩こうとする。
「あ、別に大丈夫です。鞄あるし、袋とかどうせ捨てるだけだから」
そんな彼を、今度は桜が手を挙げて制止した。
「いえ、でも……」
「本当に平気です。ご迷惑かけてすみませんでした」
尚も躊躇う男の手から、桜は本の詰まった袋を受け取る。
「……いえ。そんなことは……」
最後まで恐縮する従業員に一礼を残し、桜は俺に身体を向ける。
「じゃあ、行きましょ?」
「あ、ああ」
歩きだす桜を眺める男に一瞥をくれて、俺も後に続く。
「人間って面倒臭いときあるね。あれくらいのことで謝り過ぎだよ」
歩く速度を調整し横に並ぶと、桜は前を向いたままそんなことを言った。
「そりゃ、あっちからすれば大切なお客様だからな。たぶんあの人バイトだろうし、下手な対応して叱られないよう、余計に必死なんじゃないか?」
ポケットに手を入れながら、俺は適当に思いついた言葉を返しておく。
バイトだからこそ逆に不真面目な場合もあるかと思いもしたが、見た目からしてそんなタイプではなさそうだった。
参考書のコーナーは店内の一番端。そこまで早足で歩き、通路を覗く。
小学生から大学生まで、様々な需要に合わせた問題集等が並べられている棚のちょうど真ん中辺り。そこに有紀は立っていた。
俺たちに気づくと、手にしていた本を棚に戻しこちらへと近づいてくる。
「雄くんたちは、もう買い物終わり?」
「ああ、有紀は?」
「うん。買いたい本は見つけたから、お金払ってくる」
言いながら、有紀は手にした参考書を掲げてみせた。
英語と数学。どちらも俺の専門外教科だ。
「二冊?」
苦渋を浮かべる俺の横で、桜は絵画でも眺めるような仕種で、有紀が持つ参考書に顔を近づけた。
「そうだよ。結構わかりやすい解説とか載ってたから、これが良いかなって思って」
「ふ~ん」
弾んだ声で有紀が答えると、桜は何故か勝ち誇ったように口の端をつり上げる。
「甘いわね。あたしは八冊買ったわよ」
ずいっと、桜は手に持つ袋を有紀の眼前にかざす。
「んなことで競うなよ」
くだらないやり取りをする俺と桜を交互に見ながら、有紀があははと笑う。
「入り口で待ってるから、早く会計済ましてこいよ」
用が済んだのなら、長居をしていても仕方がない。
「うん」
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