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彼女2

ふっきれた

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陽介が冷たい目で睨み下ろしてくる姿を想像する。

――やだ。素敵。

「どうしよう。すごく格好いい」
彼の冷たい視線が胸に突き刺さって、きゅんきゅんくる。
「え、今、何の話してたっけ?」
耕哉が眉間にしわを寄せる。
何の話って……陽介が格好いいという話……ではなく、当たったら砕けるという話だった。
お付き合いしてくれると言ったのに、もう話しかけることも拒否されたら……。
今、考えただけで泣けてくる。
「ばっ……!泣くなよ!?」
焦った耕哉が小声で叫んでくるが、こいつが悪い。余計なことを考えさせるから。
「だったら、メッセージで飯にでも誘ってみれば?今度はお前の家で料理を振る舞ってやれよ。今週、母さんに電話しまくって料理練習してたんだって?」
さっきまで泣きそうだった咲綾は、一気に顔に熱が集まる。
「どうして知ってるの!?」
耕哉はあまり親に連絡を取らないはずなのに!
双子で会社も同じだが、さすがに実家を出て一緒に暮らすまでは仲は良くない。耕哉は息子にありがちな『無沙汰は無事の便り』を地でいく。
咲綾が母と連絡するたび、耕哉のことを聞かれるので、ほぼ連絡はないものだと思っていた。
詳しく聞いてみると、どうやら母の方が『あの子、彼氏できたの!?』と電話をしてきたようなのだ。
ちょっと料理がんばってみようと思っただけ、とかはぐらかさなければよかった。
耕哉に確認の電話が行くとは思わなかった。
「男は胃袋を掴むと良いらしい」
果たして、咲綾の料理で彼の胃袋はつかめるのか。
あの日の朝、ささっと味噌汁が出てきた手際を考えると、どうにも彼の方が料理スキルは上な気がする。
「……凝った料理はできない」
出来上がった後じゃないと味見ができない煮物系も、失敗が怖い。母に言わせれば、出来上がった後にみりんなどで味の調整をすればいいというが、んなもん、ある程度美味しいからちょこっとやれば、もっとおいしくなる程度だ。
しょっぱいのは何が何でも変わらない!
「馬鹿。可愛い女の子が作ってくれるってのが重要だろ」
なるほど。
ただしイケメンに限るというのは、カワイイコに限るってのもあてはまるのか。
……。
「私、あてはまんないじゃん!」
「いや、まあ、何とか大丈夫だろ?」
何とか……何とかって!

「…………本当に大丈夫?」
「……余程まずくなければ」

よし、ハンバーグだ。
オーブンで焼いて、フライパンで焦げ目だけつければ失敗はない。あとは、市販のソースをかければいい。ソースがおいしければ、肉は何でもおいしい。
無理矢理な理論で咲綾は決意する。
「頑張る!」

水曜日。
やはり目も合わせてくれない。
だけど、咲綾は昨日実験したハンバーグが、殊の外おいしかったことに勝利を確信した。
けっこういける!
まずは、メッセージだ。メッセージをしなければならない。
先週末、きちんと連絡先交換はしている。ぬかりはない。
ただ、連絡をした事がないだけだ。
月曜日の朝、『おはよう』だけでも送っていたら何か違ったのかもしれない。
最初のメッセージがお家へのお誘い。
今晩しよっ!って誘っているように見えないか?というか、そのお誘いがない余計なメッセージはしないわと宣言しているように思われないだろうか。
考えすぎだと言われても、不安に思えば、メッセージできなくなる。
メッセージの文章を書いては消して書いては消して……。
もう、何がどう思われるのか分からなくなってきた。
休み時間の間中、考えたが、結局、連絡できないまま。
帰ってからもうなりながら考えて、考えて……。




ふっきれた。



とりあえず、エッチのお誘いだと思われてもいいや。そもそもしたいし。
それで彼がのってきてくれるなら、願ったり叶ったりだ。
当初、入力していた通りに咲綾はメッセージを作った。

『今週の金曜日、空いてますか?今度は私の家に、夕飯を食べに来てくれませんか?』

勘繰るなら勘ぐればいい!
そして襲ってくれていい!是非そうして欲しい!というか、襲ってくれなかったら、悲しくて泣いてしまう。
一度だけでもいいと思っていた。
でも、もう一回があるなら欲しい。
何度でもって、言われたから。この体を欲してくれるなら、熨斗つけて差し出したい。
頭の中がピンクに染まりかけた時、スマホがメッセージの着信を知らせる。

『楽しみにしてる』

楽しみに!
え、もしかして……もしかして、もうちょっとイケる?

『お泊りもしてくれますか?』

勢いで送ってしまってから気が付いた。
お泊りなくても夕飯だけでも来て欲しいって書き足さなきゃいけなかった!
欲望のままに動いてしまって慌てる。
彼が今のメッセージを読む前にと、どうにか文章を組み立てているというのに、すぐに返信が来てしまう。

『喜んで』

「~~~~~~~~っ!」
陽介は咲綾を萌え殺す気だと思う。
楽しみに。喜んで。
言い訳を並べ立てようとしていたメッセージは消した。

『私も、楽しみです』

それだけ送って、咲綾は計画を立てる。
市販品を駆使して、胃袋を掴む!

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