S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko

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第1章

第1話 : 静かな世界と最初のノイズ

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『――やった! null さん、倒したよ!』

ヘッドセットの向こうから弾むような明るい声が聞こえる。
それは太陽みたいに笑う俺の相棒の声。

ゲーム画面の中では数分前まで猛威を振るっていた巨大なドラゴンが、光の粒子となって消えていくところだった。
ドロップした無数のアイテムがキラキラと輝いている。

『すごい、今のコンボ! めっちゃかっこよかった!』
『いや、君の回復《ヒール》のタイミングが完璧だったからだ。あれがなければ俺も危なかった』

俺はぶっきらぼうに答えながら、内心で安堵のため息をついていた。
オンラインゲーム『Earthgard Online』。
その世界で俺は null という名の最高レベルに近いウォーリアーだ。

「そんなことないよ! null さんがずっと私の前に立って守ってくれたからだよ」

ボイスチャット越しの彼女――Hikari は誇らしげにそう言った。
彼女のアバターである金髪のヒーラーが、俺の隣でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
その無邪気な姿に俺は思わず口元を緩めた。

『ほら、アイテム拾うぞ。レアな素材が出てるかもしれない』
「うん!」

俺たちは倒したドラゴンのドロップ品を拾い集める。

「わあ、すごいレアアイテム! null さん、これ使って!」
彼女が拾い上げたのはウォーリアー用の伝説級の腕輪だった。
『いや、それは君が持っておけ。売ればかなりの金になる』
「えー、でも私じゃもったいないよ…null さんが使った方が、絶対いいって!」
『いいから。次のレイドボスも、ちゃんと俺のこと守ってくれないと困る』

それは、これからも一緒にプレイしたいという、俺なりの不器用なメッセージだった。

「…うん! わかった!」

彼女は何かを察したように嬉しそうな声で答えた。

『ねえ、null さん…』
彼女が少しだけ甘えるような声で俺の名前を呼ぶ。
『じゃあ、この腕輪を売ったお金で新しい杖を買って…。明日も、また…一緒に、ダンジョン行ってくれる?』

その上目遣いが画面の向こうからでも透けて見えるようだ。
俺に断るという選択肢は存在しない。

『ああ。もちろん。いつでも、君のパーティに参加する』
「やった! 約束だからね!」

弾む声でそう言うと、彼女は「じゃあ、また明日ね!」と手を振るアバターを残してログアウトしていった。

静かになったゲームの世界で、俺は一人ため息をつく。
深夜のネット世界で俺たちは唯一無二の相棒だ。
互いに弱さを見せ、冗談を言い合い、背中を預けられる最高の友人。

――そう、ネットの中では。

この甘くて奇妙な二重生活が始まるきっかけは、ほんの数週間前のありふれた昼休みのことだった。

---

高校 2 年の 5 月。昼休みの開始を示すチャイムが鳴った途端に教室が賑やかな声に満ちる。
クラスメイトの多くが友人グループで集まって、騒がしく昼休みを過ごしている。

そんな中、俺、黒瀬和人(くろせかずと)は、窓際の席で1人寂しくノート PC を開いていた。
周囲には脇目も振らず一心に画面に並ぶ文字列を眺める。
俺にとってはプログラミングをしている時間が何よりも楽しい。

今は企業からの依頼で顧客データの分析を行うプログラムを開発しているところだった。
(もちろん、高校生の身分で企業から受注はできないので父親の名義を借りている。勝手に。)

こうやって俺がニヤニヤしながらキーボードを叩く姿もクラスメイトからしたら見慣れたものなのだろう。
新学期になったばかりの頃は、「パソコンで何をしてるの?」とか「なんでニヤニヤしてるの?」とか色々聞かれて困ったものだが、今となっては誰も俺に話しかけてくる者はいない。

ロジックとアルゴリズム、そして 0 と 1 のバイナリ。それだけが俺の親友だ。もちろん彼女もいない。
べ、べつに寂しくなんてない。

「光、昨日の雑誌見たよ! めっちゃ可愛かった!」
「え、本当? ありがとう!」

クラスの中心で、天野光(あまのひかり)が笑っている。

天野はまるでクラスを照らす太陽みたいな存在だ。いつも明るくて、誰にでも優しい。
男女問わず人気があって、彼女の周りにはいつも人が集まっている。

噂では読者モデルやインフルエンサー的な活動をしていてフォロワーもかなり多いらしい。
そして、成績も優秀ときている。まさに文武両道、才色兼備そんな言葉がふさわしい人物だ。

俺とは住む世界が違う。もちろん話したことはない。
まあ、俺は自主的に電子世界に生きているだけであって、まだ現実世界で本気を出していないだけだ。本気出せば友達 100 人なんてすぐにできる。・・・きっとできる。

「なあ、これ見た? 天野の悪口を書きまくってる裏アカだって」
「うわ、マジか。どれどれ」

隣の席の男子たちが、スマホを覗き込んでニヤニヤしている。俺は気にも留めず、自分の世界に戻ろうとした。だが、聞こえてきた名前に、思わず動きが止まる。

俺は指を滑らせ、ブラウザでそのアカウントを検索した。
すぐに見つかる。 アイコンは真っ黒。
フォロワーもほとんどいない、作られたばかりのアカウント。

そこに映っていたのは、天野が雑誌に載っていた写真。そして、その下に添えられた、棘のある言葉だった。

『いつも笑顔でいられるって、すごいよね(笑)』
『インフルエンサーって楽して金が欲しいだけだよね(笑)』

悪意。
その一言に集約される、冷たくて、粘りつくような感情のこもった言葉がつらつらと投稿されている。
俺は思わず眉をひそめた。

天野光は、完璧だ。
少なくとも、俺の目にはそう映っていた。

非の打ち所がない、寸分の狂いもない、美しいプログラムのような存在。
そこに、こんなノイズが混じっている。それが、ひどく不快だった。

「ひでえこと書くなあ」
「人気者は大変だな」
「まあ、こういうのってすぐ消えるだろ」
「だな。で、週末なんだけどさ……」

隣の席の男子たちは、もう興味を失ったように別の話題に移っている。
彼らにとって、この一件は消費されるコンテンツの一つに過ぎない。
数分後には忘れ去られる、ゴシップの切れ端。

だが、俺の頭には、さっきの画面が焼き付いて離れなかった。
指先が冷えていくのを感じる。それは怒りとは少し違う、もっと静かで冷たい感情だった。

完璧なプログラムに混入した、たった一行の悪意あるコード。
それはシステム全体を破壊するトリガーになり得る。

俺は、その危険性を知っていた。

俺はゆっくりと顔を上げ、教室の中心にいる天野に視線を送った。
彼女は友人たちと笑い合っている。いつもと同じ、完璧な笑顔で。

本当に?

俺の目には、その笑顔が、まるで必死に体裁を保とうとするエラーメッセージのように見えた。
口角の上がり方、目の細め方、その全てが普段のデータと寸分違わない。

だが、だからこそ不自然だ。
人間は機械じゃない。

俺は今まで彼女を勝手に完璧なシステム、美しいプログラムのような存在だと考えていた。
しかし、もしそのシステムが無数の脆弱性を隠しながら、必死に動き続けているとしたら?

その完璧さは、ガラス細工のような脆さの上に成り立っているとしたら?

ふと、彼女が誰にも気づかれないように、ほんの一瞬、窓の外へ視線を逃した。
その瞳には微かな翳りが宿っているように見えた。

見てはいけないものを見てしまった。
それは、彼女の完璧さの裏に隠された、生身の人間の弱さだったのかもしれない。

俺は再び PC の画面に向き直る。
ブラウザに表示された、真っ黒なアイコンのアカウント。

俺は新しいタブを開き、自作の解析ツールを起動させた。
投稿されている悪意のある文章をすべてコピーし、ツールに投入する。
単語の出現頻度、文体の癖、投稿時間。あらゆるデータを分析していく。

「……なるほどな」

数分後、いくつかの興味深いパターンが浮かび上がった。

投稿は必ず平日の、それも学校が終わった後の時間帯に集中している。
そして使われている言葉の選び方。

天野が最近雑誌で話していたことや、
クラスのごく一部の人間しか知らないような些細なエピソードをわざと歪めて引用している。

これは単なる愉快犯じゃない。
天野光を、個人的に、強く憎んでいる人間の仕業だ。

心臓が少しだけ速く脈打つのを感じた。
これはもうただのノイズやエラーではない。明確な攻撃だ。
そして、この攻撃はこれからさらに激しくなるだろう。

俺は解析ツールの画面を閉じた。そして、もう一度天野光を見た。
彼女はまだ、何も知らないように笑っている。

その笑顔を守りたい、なんておこがましいことは思わない。
そんな気持ちの悪い騎士気取りにだけはなりたくない。

ただ、この不愉快なバグを俺の手で修正したい。
完璧であるべきプログラムは完璧なまま動くべきだ。

どうしてか、それを見過ごせない自分がいた。
いや、もう違う。
見過ごすつもりがない自分が、確かにそこにいた。
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