S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko

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第1章

第3話:夕暮れの踊り場

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図書室での一件から数日後。
俺の世界は静かだが確実に変わり始めていた。

「黒瀬くん、おはよう!」
教室に着き自分の席で PC を立ち上げていると不意に声をかけられた。
振り返ると、そこに天野光が立っていた。太陽みたいな笑顔で。

「お、はよう……」

俺はかろうじて、そう返すのが精一杯だった。
なんで俺なんかに? 周囲の視線が突き刺さる。

やめてくれ、俺のライフはもうゼロだ。

「この前の PC、あれからずっと調子いいよ! 本当にありがとう」

彼女はただ純粋にお礼を言いたかっただけらしい。
その屈託のなさがあまりにも眩しかった。
俺が「別に」とか「ただのコマンドだ」とか、痛々しい態度をとったことなんて彼女は全く気にしていないようだった。

「……そうか」

俺がそう答えると、彼女は満足そうに微笑んで自分の席へと戻っていった。

残された俺の心臓はまたしても異常な速度で脈打っている。
ダメだ。あの笑顔は、俺に対する DoS 攻撃だ。
処理能力の限界を超えてしまう。

だがその一方で、天野光という存在が俺の中で「完璧なプログラム」から、
少しだけ「人間」へと変わった瞬間でもあった。

そんな変化とは裏腹に、彼女を取り巻く悪意は日に日に濃度を増していた。

「なあ、あの裏アカまた更新されてるぜ」
「マジ? こいつマジで毎日投稿してんな」

隣の席の男子たちの声に、俺は眉をひそめながらブラウザを開く。
真っ黒なアイコンのアカウント。投稿は、昨日よりもさらに悪質になっていた。

『今日の小テスト、一人だけ満点だったらしいじゃん。カンニングでもした?』
『昨日つけてたネックレス、彼氏からのプレゼントだったりして』

クラスでもごく一部の人間しか知らないはずの些細な情報。
犯人は明らかに天野光の身近にいる。

そして、その悪意は確実に教室の空気を侵食し始めていた。

俺はゆっくりと顔を上げ、天野の様子を観察する。
すると、彼女の友人の一人が心配そうな顔で天野に駆け寄った。

「光、大丈夫…? あのアカウント…」
「ん? ああ、なんかあるみたいだね」

天野は困ったように笑い、友人の肩を軽く叩いた。

「大丈夫だよ、気にしないで! こういうの、反応したら負けだって言うしね」

その笑顔は完璧だった。
気丈で、優しくて、周りに心配をかけまいとする彼女らしい強さの表れだった。

その完璧さが今は痛々しく見えた。
休み時間、彼女が一人で窓の外を眺めた一瞬。

その横顔からふっと表情が消えた。
それは昨日までの彼女なら決して見せることのなかったほんのわずかなシステムの綻び。

そして放課後。
その致命的なエラーは、ついに俺の前で発生した。

俺はいつも通り、教室に残って PC を触っていた。
クラスメイトたちがほとんど帰った後の静かな時間が好きだったからだ。

天野も友人たちと一緒に「じゃあねー」と明るく教室を出て行った。
その姿を見送り、俺は自分の作業に戻る。
なに見送ってるんだよ、俺は、、

それから三十分ほど経っただろうか。作業が一段落した俺は、飲み物を買いに行こうと席を立った。
向かう途中、踊り場の窓から夕日が差し込んでいるのが見えた。
そのオレンジ色の光の中に、彼女は一人で立っていた。

天野光。
友人たちと別れ、一人になったのだろう。

壁に背を預けスマホの画面をじっと見つめている。
その顔に教室で見せる笑顔はなかった。

代わりに浮かんでいたのは、驚くほど無防備で脆くて、今にも泣き出しそうな表情だった。

華奢な肩がかすかに震えている。
必死に涙をこらえているのか、きゅっと結ばれた唇が白くなっていた。

完璧なシステムが、ついに処理能力の限界を超えた。
俺は、見てはいけないものを見てしまった。

彼女は俺の存在に気づいていない。
俺は息を殺し、その場から静かに踵を返した。

ここで俺みたいなやつが出て行っても事態が好転するわけがない。
むしろ悪化する。それくらいの自己分析はできていた。

自分の席に戻り、PC の前に座る。
さっきの彼女の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
あれが天野光の本当の姿。

今まではただの不愉快なバグだった。 だが今は違う。
図書室で、教室で、俺に笑いかけてくれた彼女が確かに傷ついていた。

心臓が、ドクン、と大きく鳴る。
俺は新しいブラウザを開き真っ黒なアイコンのアカウントを表示させた。

そして、おもむろにキーボードに指を置く。
もう傍観者でいるつもりはなかった。
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