最強勇者を倒すため。ボクは邪剣に手を染める

はりせんぼん

文字の大きさ
7 / 42

第1話 『進む道なき』シオン その5

しおりを挟む
「サライ!」

 ボルカの動きは早かった。
 仲間の誰かが危機に陥った時、助けに入るのは機動力に秀でるボルカの役割だった。
 【術技:突撃】。
 高速の踏み込みを用いる各種の【術技】の基本。
 その速度、攻撃距離は他の【術技】系統の追随を許さない。
 ボルカはさらに、そこから様々な【術技】へと派生させる事が出来る。
 ただ突進するだけの素人。ただ【術技】を弄ぶだけの未熟者とはそこが違っていた。

「……お?」

 ラフィがにやりと笑う。
 その顔が、その姿が、すっと消えた。

「下っ!」

 するりと、小柄な身体が足元に滑り込む。
 足を先に、身を伏せる動作と前に滑り込む動作が一体となったその動きは、明らかにそのための訓練を受けたものだ。

 ボルカの細剣が空を斬る。

 一度放たれた【術技】は、決められた通りの動きをなぞる。
 それでも、放つ前であるならば、あるいは多少であるならば、軌道の変化は不可能ではない。
 しかし、それにも限度がある。
 そしてラフィの動きは限度の外にあった。

 瞬間。ボルカは再び【術技】を発動させる。
 【術技:返し浪】。
 踏み込みの勢いを溜めにして、背後に跳びつつ一撃を放つ【術技】だ。

 突撃への対応手段は数多い。
 地面に伏せて身を躱す事も、サライとの戦いを見れば想定範囲内にある。
 敵の動きに対応して、千差万別に変化する技術こそ、ボルカの真骨頂だった。

 【術技:突撃】により、相手の対応を引き出して、その対応へのカウンター【術技:返し浪】を放つ。
 ボルカにとっては定跡と言っていい連携だった。

 ひゅおん、と返しの剣が空を斬る。

「はい残念」

 想定外だったのは。
 ラフィの姿勢は、ボルカの想定よりも、さらに低かった事。
 そして、彼女の尻から伸びた尻尾が、ボルカの引き足に絡んでいた事だった。

「ほぃよっと!」

 気合の声を上げてラフィが逆立ち気味に後転する。
 森小人の尻尾は、自身の身体を支える程の強度と力がある。
 そこにラフィの全身の体重を加えて、ボルカの引いた足を引っ張り上げる。

 完全に想定外の体幹の崩れ。
 さらに身体は発動途中の【術技:返し浪】の動作を続けようとする。
 自ら足に絡んだ尻尾を蹴るようにして、ボルカの身体は反転する。

「……ま……」

 まずい。
 瞬間に意識する。
 下は硬い土。
 革鎧の重み。
 【術技】のために受け身のとれない身体。

 決断する。
 【術技:耐性】で耐える。
 どれか?
 どの耐性か?
 打撃か? 衝撃か? それとも……。

 ふと、ボルカの脳裏に駆け出し時代の記憶が蘇る。
 迷宮の罠で死んだ冒険者がいた。
 罠はただの落とし穴だった。
 ただ少し、その落とし穴は少しばかり深くて、その冒険者は頭から落ちたと言うだけの事だった。

「落下ダメージ耐性とる奴なんて珍しいからな」

 そう、誰かが言っていた。
 余裕が出来たら、【術技:耐性(落下)】は必ず取ろうと、ボルカはその時思った。

 その事を、今の今まで忘れていた。

「……ぅあ……」

 声も出ない。冷や汗を流す暇も無い。
 その襟首を掴まれた。
 ラフィだった。
 すばしっこい森小人は、いつの間にか体勢を立て直して、ボルカの背後に既にいた。

 ダメ押しだった。
 ボルカが首から落ちるように。
 受け身がまったくとれないように。
 落下が致命的な威力を発揮するように。
 襟首と背中を掴んで、ラフィはボルカの体勢を丁寧に調整していた。

 ごきり、と嫌な音がした。

 【術技:耐性(落下)】は結局取っていなかった。

「受け身の練習くらいはしておいた方がよかったねぇ」

 よっこいせと立ち上がるラフィ。
 それを呆然と見上げて、ボルカはそのまま事切れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...