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第三章 和二一族( 太康十年・西暦二八九年)
統一への動き
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「モテリカムが作った旗振り山の出発点を奈国に置きます。朝鮮半島と九州の間には流れの速い對馬海流があり、自然の城壁となっています。いち早く統一国家となれば他国の侵略を許すことはありません」
表向き、族長はスサノオだが倭の統一には時間がかかる。今後のことはクマノクスビに託したい。そのためには、できる限りクマノクスビの考えを取り入れたいとスサノオは思っていた。
新日高三国の掟として、旗振り山は残す。集落は山地から平地に移す。ヒダカ一族も米作りが中心になっているので、これは当然のことだった。
内海の国が新日高三国に加わったので、内海側にも新たに旗振り山を作った。モテリカムが作った曲玉はないので、山と山の間隔は短くした。
内海は穏やかなため航路を整備した。これまでは北の外海中心の交易だったが、内海を通って摂津までやってきて、山背を経て淡海までという新たな交易路ができた。
心配な点もある。敵が穏やかな内海を通って攻め込んでくる可能性が強くなった。耶馬一連合との争いがないのは、蘇奈国にいる徐福が止めているからだが、耶馬一連合だけでなく、交易が盛んになれば朝鮮半島や大陸からの船も受け入れなければならなくなる。
もう、未開の地では済まされない時代に入ってきた。クマノクスビハスサノオに「耶馬一連合と手を組むいい機会です」と進言した。
そんな折、耶馬一連合である異変があった。これまでも対立していた狗南国だが、戦いを仕掛けてきたのである。
周りのヒダカ一族の国々が次々と耶馬一連合に加わっていくのを見て、焦ったのだろう。自らを日御子と名乗って他国を引き留めようとしたがうまくいかない。その結果である。
耶馬一連合の大王文高は間諜からの報告を聞いていた。
「大王、狗南国は国境付近に兵を集結してきました。この度は本気で攻撃をかけてくるものと思われます」
「狗南国との戦いは避けられないようだ。それは仕方がない。しかし、今は兵を南に移動させたくはないな。どうも朝鮮半島の動きが気になる」
すると、別の間諜が「馬韓と弁韓は、我が連合との交易も順調ですが、心配なのは辰韓です。特に、斯蘆は油断できません。日高三国に攻められて、おとなしくはしているようですが、その日高三国が内戦で東西に分裂したようです」
「日高三国についての情報はないか」
すると蘇奈国の王徐晋が「大王、これは弓矢国から聞きつけた情報ですが、西の日高三国の族長をしていたスサノオが一か月前に亡くなったそうです。今は十五歳のトッカラムという若者が族長に就いているようです」
「そんな若者が族長か」
「スサノオの娘婿クマノクスビは族長に就かず、その息子のトッカラムが族長です。どうもその隙を狙って、西の日高三国が狗南国に戦いを持ち掛けたようです」
「耶馬一連合の国々を奪い取って、西の日高三国を挟み撃ちにでもしようと思ったのか?」
文高は少しあきれた表情で、徐晋を見た。
「ヒダカ一族の国々は同胞の狗南国とは戦いたくはないでしょう。しかし、彼らが狗南国につくことは絶対にありません。狗南国の兵は蘇奈国の兵だけで蹴散らすことは可能です。ただ、我が国の長老は戦いは無益だと申しております」
「無益だと」
文高は、その長老の話をもう少し詳しく知りたくなった。
「では、長老は何が有益だと言うのだ」
「西の日高三国と同盟を結ぶことです」
表向き、族長はスサノオだが倭の統一には時間がかかる。今後のことはクマノクスビに託したい。そのためには、できる限りクマノクスビの考えを取り入れたいとスサノオは思っていた。
新日高三国の掟として、旗振り山は残す。集落は山地から平地に移す。ヒダカ一族も米作りが中心になっているので、これは当然のことだった。
内海の国が新日高三国に加わったので、内海側にも新たに旗振り山を作った。モテリカムが作った曲玉はないので、山と山の間隔は短くした。
内海は穏やかなため航路を整備した。これまでは北の外海中心の交易だったが、内海を通って摂津までやってきて、山背を経て淡海までという新たな交易路ができた。
心配な点もある。敵が穏やかな内海を通って攻め込んでくる可能性が強くなった。耶馬一連合との争いがないのは、蘇奈国にいる徐福が止めているからだが、耶馬一連合だけでなく、交易が盛んになれば朝鮮半島や大陸からの船も受け入れなければならなくなる。
もう、未開の地では済まされない時代に入ってきた。クマノクスビハスサノオに「耶馬一連合と手を組むいい機会です」と進言した。
そんな折、耶馬一連合である異変があった。これまでも対立していた狗南国だが、戦いを仕掛けてきたのである。
周りのヒダカ一族の国々が次々と耶馬一連合に加わっていくのを見て、焦ったのだろう。自らを日御子と名乗って他国を引き留めようとしたがうまくいかない。その結果である。
耶馬一連合の大王文高は間諜からの報告を聞いていた。
「大王、狗南国は国境付近に兵を集結してきました。この度は本気で攻撃をかけてくるものと思われます」
「狗南国との戦いは避けられないようだ。それは仕方がない。しかし、今は兵を南に移動させたくはないな。どうも朝鮮半島の動きが気になる」
すると、別の間諜が「馬韓と弁韓は、我が連合との交易も順調ですが、心配なのは辰韓です。特に、斯蘆は油断できません。日高三国に攻められて、おとなしくはしているようですが、その日高三国が内戦で東西に分裂したようです」
「日高三国についての情報はないか」
すると蘇奈国の王徐晋が「大王、これは弓矢国から聞きつけた情報ですが、西の日高三国の族長をしていたスサノオが一か月前に亡くなったそうです。今は十五歳のトッカラムという若者が族長に就いているようです」
「そんな若者が族長か」
「スサノオの娘婿クマノクスビは族長に就かず、その息子のトッカラムが族長です。どうもその隙を狙って、西の日高三国が狗南国に戦いを持ち掛けたようです」
「耶馬一連合の国々を奪い取って、西の日高三国を挟み撃ちにでもしようと思ったのか?」
文高は少しあきれた表情で、徐晋を見た。
「ヒダカ一族の国々は同胞の狗南国とは戦いたくはないでしょう。しかし、彼らが狗南国につくことは絶対にありません。狗南国の兵は蘇奈国の兵だけで蹴散らすことは可能です。ただ、我が国の長老は戦いは無益だと申しております」
「無益だと」
文高は、その長老の話をもう少し詳しく知りたくなった。
「では、長老は何が有益だと言うのだ」
「西の日高三国と同盟を結ぶことです」
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