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しおりを挟むただ私はこの道を選ぶなど全く考えてこなかった。争い事は苦手だし自分には向いてないと思っていたからだ。でもその道を避けて他の道を選んできたが全て死という結末。
もう争い事が苦手とか自分に向いてないとか言っている場合ではない。お父様もお母様もケイトも死んでしまうのだ。クリスだってどうなるか分からない。
大切な人を、この国を守るためには皇帝になる道を選ぶしかない。
(それにお姉様が言っていたじゃない。お母様は故意に子どもができないようにされていたって。それならその要因を取り除けばもしかしたら…)
正統な後継者が生まれこの国を導いていく。それが本来あるべき未来だったのだ。その未来へと正すことが私のやるべきことなのではないか。
(そのためには中継ぎだとしても皇帝にならなければいけないわ…。私にできる?…ううん、できるできないじゃない。やらなくちゃダメなのよ!)
幸いと言うべきなのか、姉は私の絶望する顔見たさに色々なことを話してくれた。今回の人生ではもうどうすることもできないが、もしも次の人生があれば活かすことができるはずだ。
(それに私は生きたい。もう死ぬのはごめんよ!)
「うっ…!ごほっ、ごほっ!」
もう死にたくないと思った矢先、私は突然苦しくなって咳き込んだ。すると口から血が溢れてきた。
「…私も気づかないうちに毒を盛られていたのね」
思い当たる節はある。
ようやく結婚式を迎えとても緊張していた私にニコラが緊張を和らげるからとハーブティーを淹れてくれたのだ。その時の私はニコラの裏切りに気づかずなんの疑問も抱くことなくそのハーブティーを飲んだ。おそらくそれに遅効性の毒が入っていたのだろう。普段ハーブティーは飲み慣れていないので味の変化に気づけなかった。
そのことを姉は知っていたから私に色々と教えてくれたのだろう。私はもうすぐ死ぬのだからと。
悔しい。今回も私の負けだ。
(あ…。私にも悔しいなんて感情があるのね…)
初めて感じる感情に戸惑うも不快ではない。
三度の人生を経験して私も変わったのかもしれない。
徐々に毒が身体を蝕んでいく。息をするのも辛くなってきた。
その時地下牢に響く足音が一つ。
―――コツコツコツコツ
ひどく焦っているような速い足音だ。あの二人のものとは違う。一体誰なのか。
「アンゼリーヌ様!」
「ク、クリス!?っ、ごほっごほっ!…どうして?」
「申し訳ありません!私がアンゼリーヌ様の側を離れたばかりに…!」
地下牢に現れたのはクリスだった。急いでやってきたのだろう。髪は乱れ額には汗が滲んでいる。
「さぁ急いでここから出ましょう!」
どうやら私を逃がすために危険を侵してまでここにやってきたようだ。しかし私は首を横に振る。
「…いいえ、私はここに残るわ」
「な、なぜですか!?」
「…クリス、よく聞いて。私はもう長くないわ。こうして話すのが精一杯なの。だからあなただけでも無事に逃げて、ごほっ!」
「アンゼリーヌ様!血が…!」
「…身体に毒が回ってしまっているの。この身体ではもうなにもできないわ」
「そ、そんな…」
「でもねクリス、私は諦めたわけではないの。…次に、次に賭けることにしたのよ」
「次…?い、一体何をおっしゃっているのですか!?」
「クリス…うっ!げほっ、ごほっごほっ!…ごめんなさい。もうお別れの時間が、来たみたい…」
「ア、アンゼリーヌ様!」
私は口から大量の血を吐き地面に倒れ込んだ。身体は重く、もう起き上がれそうにない。私は最後の力を振り絞り口を開いた。
「どうか、生きて…。また、ね、クリス……」
「アンゼリーヌ様…?アンゼリーヌ様ぁーー!」
地下牢にクリスの叫び声が響き渡る。だがその叫び声に返事をする者は誰もいない。
そうして私は三度目の死を迎えた。
ただ一度目二度目と違うのは次の人生に希望を抱きながら死んでいったということ。
そしてその願いが叶い、四度目の人生の幕がまもなく上がろうとしている。
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