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しおりを挟む――チュンチュン
小鳥のさえずりが聞こえる。なんて心地いいんだろう。こんな時はあともう少し寝ていたい…
「……ゼリーヌ様!アンゼリーヌ様!」
「うぅん…あとちょっとだけ…」
「起きてください!今日はアンゼリーヌ様の十歳のお誕生日なんですよ!準備することがたくさんあるんですからね!」
「うーん?十歳…誕生日……っ!…ケイト?」
「はい、ケイトでございますよ」
「…また戻ってこられたのね」
どうやら無事に十歳の誕生日に戻ってこられたようだ。
「アンゼリーヌ様どうかされましたか?」
「な、何でもないわ。おはよう、ケイト」
「おはようございます、アンゼリーヌ様。十歳のお誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」
「今日の生誕パーティーは盛大なものになるでしょうね。ああ、そうでした。アンゼリーヌ様、パーティーの前に国王陛下から大切なお話があるそうです。しっかりと準備いたしましょうね」
「ええ、お願いね」
そうして準備が終わり、私の姿を見たケイトが感慨深い声で言う。
「本当にアンゼリーヌ様も大きくなりましたね。アンゼリーヌ様の立派なお姿を見ることができてケイトは嬉しゅうございます」
時には厳しく時には優しく私を見守ってきてくれたケイト。今度は私がケイトを守る番だ。
(…ケイト、あなたを必ず守るからね)
「さぁ出来ましたよ。それでは皇帝陛下の元に参りましょう」
「ええ、分かったわ」
そして部屋を出るとやはり扉の前にはクリスが立っていた。
「おはよう、クリス」
「おはようございます、アンゼリーヌ様」
(よかった、また会えたわ…)
今回も無事にクリスに会うことができてホッとした。しかし三度目のあの後、クリスがどうなったのかは気になるが知る術はない。
(本音を言えば前回のことは気になるけど、今は気にしている時間はないわ。私はやれることを全力でやらなければ)
「お誕生日おめでとうございます」
「どうもありがとう。クリスに祝ってもらえてすごく嬉しいわ」
「アンゼリーヌ様…」
クリスはふいっと顔を横に背けてしまったが照れているのだろう。ほんのりと頬が赤い。
「ふふっ、それじゃあ行きましょう」
私はクリスとケイトを連れて謁見の間へと向かう。謁見の間の前に着き、扉の前に立つ騎士に声をかけた。
「皇帝陛下に取り次ぎを」
「かしこまりました。…アンゼリーヌ第二皇女様がお見えになりました!」
『通せ』
「はっ!…第二皇女様どうぞお入りください。侍女と従者の方はこちらでお待ちください」
「では行ってくるわ」
「私たちはこちらでお待ちしておりますね」
「待ってます」
「二人ともありがとう」
このやり取りも四度目なのでもう慣れたものだ。私は謁見の間の扉をくぐり父の待つ玉座へと歩みを進める。玉座には父と母が座っており私を出迎えてくれた。
(お父様、お母様…)
前回の姉の話しぶりから想像するに父と母は一度目も二度目も私が死ぬ頃にはすでに姉たちの手に掛かり毒に侵されていたのだろう。それに母に関しては今も何かしらの毒物を摂取させられている可能性がある。
(母に、それも皇后陛下に毒を盛るなんて許せないわ。今回こそは絶体に阻止しなければ!)
私は父と母の元気な姿を見て改めて決意を固くした。
「アンゼリーヌよく来たな」
「アンゼリーヌ、十歳の誕生日おめでとう」
「皇帝陛下と皇后陛下にご挨拶申し上げます」
「ははっ、そんなに畏まらなくてよい。ここには私たちしかいないからな」
この謁見の間にいるのは毎回同じだ。父と母と宰相と私の四人である。私は宰相を盗み見る。人当たりの良さそうな顔をしているが裏の顔は醜悪そのもの。私たちは表の顔にすっかり騙されていたのだ。
(私はもう騙されないわ。でもそれを宰相に気づかれてはダメ)
私も表の顔と裏の顔を使い分けなければならない。それくらいできないようでは皇帝の座は手に入らないだろう。
「ありがとうございます」
「本当に立派になったな」
「ええ。アンゼリーヌがもう十歳だなんて時が経つのは早いわね」
そして今回も他愛のない会話が終わり本題へと話題が移った。
「アンゼリーヌ」
「はいお父様」
「ここからは父としてではなくこの国の皇帝として話をする」
「かしこまりました」
私は父から四度目の説明を受けた。兄と姉は今回も同じ選択をしたようだ。
「では選択肢を伝える。よく考えて答えを出すように」
「はい」
「一つ目は帝国内の有力貴族との婚姻、二つ目は他国への嫁入り、そして三つ目は私の後を継ぐことだ」
詳しい説明を聞き私は今までのことを思い出す。
一度目は他国への嫁入りの道を選び死んだ。
二度目はカイン・エグラント侯爵子息との婚姻を選び死んだ。
そして三度目はユリウス・ロイガール公爵子息との婚姻を選び死んだ。
一つ目と二つ目の道を選んでも十八歳で死んでしまう。私はもう死にたくない。それに十八歳より先の人生を大切な人たちと生きていきたい。だから私は選ぶのだ。
「皇帝陛下」
「決まったか?」
「はい」
「よく考えて決めたのだな?」
「そうです」
「ではアンゼリーヌ。お前はどの道を選ぶのだ?」
「私は……皇帝陛下の後を継ぎます!」
私の四度目の人生の進む道が決まった瞬間だった。
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