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しおりを挟む最初に気づいたのは義母のベルタだった。
とっくに朝食の時間は過ぎているというのに、いくら待っても嫁が来ない。きっと片付けが終わらなかったのだろう。あの荒れようでは一晩で片付けるのは無理だとわかっていた。だけどそんなこと自分には関係ないと、いつも通り朝食を持ってくるように言いつけたのだ。
ここ十年以上、毎朝必ず決まった時間に朝食を持ってこさせている。あの役立たずな嫁の代わりに私が子育てをしてあげているのだからそれくらいやって当然だろう。
義母はあれくらいのことでなんてだらしない嫁なんだと憤りながら、隣に建つ息子夫婦の家にノックも無しに入っていく。そこで義母は片付けなど一切されておらず、荒れ果てたままの家を目にして驚いた。それになんの臭いかわからないが、とにかく臭かった。
義母は顔をしかめながら家中を探すが、嫁は見つからない。
本当にあの嫁は役立たずだなと思っていると、テーブルの上に何かが置いてあることに気がついた。
荒れ果てた家の中で、唯一整えて置かれていた三通の封筒。
近づいてみるとその封筒には息子、孫、そして自分の名前が書かれていた。義母はなんだこれはと思いながら自分の名前が書かれた封筒を開けてみる。するとその中から出てきたのは一枚の便箋だ。その便箋に書かれていたのはたった一文だけだった。
【“役立たずの嫁”はいなくなりますので、どうぞお幸せに】
「なによ、これ」
この手紙の内容から考えると、どうやらあの嫁は家を出ていったようだ。
「……ふっ。笑っちゃうわね」
だが義母に焦りはない。むしろこんなことでしか気を引けないなんて、と鼻で笑った。きっと息子と孫の気を引きたいのだろう。そんなことをしても誰もあの役立たずな嫁など気にもしないというのに。
息子が結婚をすると言い出した時は本気であの嫁を呪ったが、あとから話を聞けば息子は本気であの女を好きになったわけではなく、金のために結婚したのだと言っていた。残念ながら金は手に入らなかったが、愛する息子があの嫁を愛していないと知ってホッとしたことは今でも覚えている。
義母は昔のことを思い出しながら、一文だけ書かれた手紙をくしゃくしゃに丸め、ポイと床へ投げ捨てた。どうせ数日もすれば戻ってくるはず。戻ってきたらこれからは大人しく自分の言うことを聞くように、改めて教育をしなければと義母はほくそ笑んだ。元ではあるがあの嫁は貴族だ。貴族が平民である自分に許しを乞う姿が見られるなど、愉快で楽しいはずだ。
だからその時が来るまで楽しみに待っていることにする。それにお腹も空いた。あの役立たずのせいで、いつもの朝食の時間からずいぶんと時間が経ってしまったようだ。
義母は嫁の跪く姿を楽しみに数日だけは我慢してやるかと、何事もなかったように自宅へ戻っていったのだった。
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