対ソ戦、準備せよ!

湖灯

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★連合艦隊エジプトへ★

【慰労会と12月の寒さ②】

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 もしかして前史で、山本長官がアメリカとの戦争に踏み切ったとき、ハワイの真珠湾攻撃を立案した経緯もそこにあったのかもしれない!

 今回は五輪選手団の送迎という名目で、はるばるアフリカまで艦隊を向かわせたが、前史において日本海軍は外洋での大艦隊による行動は行われていなかった。

 それゆえに山本が持ってきた計画書を見た、永野軍令部総長は一旦作戦計画を見直すように指示したそうだ。

 だが山本は退かず、永野も折れて山本に託した。



 無謀な計画。

 昭和9年3月に起きた「共鶴事件」と、翌年9月に起きた「第四艦隊事件」は、共に荒天下での艦の損傷事故は未だ記憶に新しい。

 なのに山本が出した計画は、冬の千島列島から真珠湾攻撃部隊を出発させる計画。

 冬場の東北より北の太平洋は荒れることが多く、その荒れ方は台風並みかそれ以上で、一旦荒れ出せば一週間以上も台風並みに荒れることもある。

 そのような場所から出発して、陸地もない太平洋を進み、敵に気付かれないままハワイ島に近付きアメリカ太平洋艦隊の泊地である真珠湾を襲う。



 この空母を中心とした艦隊を率いるのは、水雷専門の南雲忠一中将。

 彼のこれまでの乗務経験は “水雷” という分野で駆逐艦や軽巡洋艦が主だったから遠洋航海の経験はなく、今回の五輪特別編成の輸送隊にも参加していない。

 しかも南雲は航空機の運用に関わる知識もないのにだ。

 更に南雲は艦隊派の急先鋒であり、山本や井上と対立しただけではなく海軍兵学校で1期下の井上に対して「殺してやる!」と脅した激しい性格の持ち主。

 しかも南雲が旗艦として搭乗する第一航空戦隊は、もともと南雲の1期下の小沢治三郎が司令官を務めていたもので、彼がこの航空部隊を鍛え上げた。



 なぜ山本は、この様に優秀で信頼のおける将官がいるにも拘わらず、思想的に対立する南雲を栄誉ある日米開戦の緒戦に当たる司令官に抜擢したのだろう?

 もしかしたら、これは博打好きの山本が打った日本を掛けた大博打なのかもしれない!

 自ら率いれば十分に実行可能だが他の者から見れば実行不可能と思える計画をわざと立て、それを見た永野が却下すれば日本が勝つ作戦はこれ以外ないから日米の開戦は諦めてもらう。

 仮に永野が承諾したとしても、水雷畑で遠洋航海の経験もない南雲なら北の荒れた海で事故を起こしてしまう確率は高い。

 仮に1隻でも事故が起き、艦の損傷があれば救援要請のために無線封鎖を解くしかなく、そうなればこちらの行動もアメリカが知ることになるから計画を実行することは難しくなる。

 責任を取るのは時代遅れの南雲中将であり、彼が失脚すれば後任に若くて才能のある者を抜擢できる※うえ日米開戦に積極的な艦隊派も抑えることができる。



 更にコチラの動きを知ったアメリカから何らかのリアクションはあるはずで、それにより日本政府は新たな対応を要求される。

 そして新たな対応とは既に発覚してしまった「開戦」ではない別の対応となるだろう。



 前史では成功した真珠湾奇襲攻撃だが、普通に考えれば成功する方がはるかに難しい作戦である。



 山本にしてみれば、連合艦隊司令長官を務めていた永野なら、この無謀な作戦を止めてくれるだろうと思ったのかもしれない。

 永野にしても無謀な計画を見過ごすはずもなく、計画を山本に託すことで彼が自ら断念してくれることを願ったのかもしれない。





 慰労会が終わった帰り道で薫さんが私に聞いた。

「ねえ、草加少将はアノ時何を耳打ちしたの?」と。

 私は惚けて、酔っていたから覚えていないと答えてしまった。



 この時代で日本が悲惨な戦争を回避することに成功すれば、彼女はまた元居た未来に帰ってしまうだろう。

 だから私と薫さんが結ばれることはない。

 そう思うと、やけにこの押し迫った12月の寒さが身に凍みる。







 ※海軍の人事は、基本的に兵学校の卒業順に決められ、山本は第一航空戦隊指令に小沢治三郎[37期]を抜擢したかったが、そうすると南雲[36期]を抜いてしまうため実現しなかった。

 ちなみに支那事変で第一連合航空隊司令官を務め海軍における航空機を運用する作戦司令官として一番有能と目されていた山口多門は[40期]であり、ミッドウェイ海戦で飛竜から山口が南雲に行った “すぐに攻撃隊を発進させるように進言した” 行為は並ならぬ逼迫した状況を察した山口の苦肉の策だったが、卒業順を重んじる海軍の風潮が当たり前だと思っている南雲にその心は届かなかったのだろう。
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