お父様が、女性と女の子を連れて帰って来た。

執事、セバスチャン。

家路をライラック家へと急ぐ、馬車があった。中では白髪の混じった老紳士が、背を曲げ祈りを捧げていた。

「どうか、何事も起こっていないように。」
老紳士はライラック家の古くから使える執事である。名はセバスチャン、フォロー苦労人である。

「奥様、『収しゅう・確かく』です。情報を収集して、確認して下さい。お願いですから。」
セバスチャンは手を組んで祈る。

それは、レムスに届いたある夫人から手紙であった。

「タカナ子爵夫人からの……　お会いになられたの？　」
「ああ、会った。」
「そう……　」
マーガレットは静かに席を立とうとした。そこにすかさず、セバスチャンのフォローが入る。

「先日王城へ登る時、タカナ子爵夫妻に順番を譲られたそうですね。旦那様。」
「ああ、譲った。」
「たいそう喜ばれたようですね。」
「ああ、どうやら急いでたようだ。」
「コレは、その御礼状ですね。」
「ああ、そうだ。」
セバスチャンは、手紙をマーガレットに差し出す。

「奥様も、御覧頂いた方が宜しいかと。いつどこで、タカナ子爵夫妻に会われるかもれません。」
「ええ、そうね。お会いして、何も知らなかったら失礼ですわね。」
マーガレットは喜々としてその手紙を読んだ。

「ただの御礼状です、奥様。」　
「ええ、ただの御礼状ですわ。」
マーガレットは、結構嫉妬深かった。そして、部屋に籠もり話を聞かない傾向があった。古くから使える執事はよく知っていた。


「兎に角、確認。確認です。ぶっちゃけ情報収集しなくても、本人に直に確認して下さい。奥様。」
そうすれば、殆ど誤解だと判明するはずだ。

「旦那様も『いつ、どこで、誰が、何のために、何をした。』言葉の基本を話せば、誤解などされないんです。」
言葉足らずが、マーガレットの前では酷くなる。

「好きな人の前では、喋れなくなる？　ガキか！？　子供を二人もこさえといて、何を言ってるんだ。あの旦那様バカ。」
セバスチャンは馬車の中で、呟きにながら貧乏揺すりする。

「二人の間でどれだけ、迷惑苦労をしているか。」
セバスチャンは頭を抱える。今彼は馬車の中で、二人のフォローはできない。

迷惑な有り難いことに、マーガレットから休暇をもらったのだ。渋るセバスチャンに、大旦那様への手紙を届けてと強制された。マーガレットは、長年勤めていてくれるセバスチャンへの感謝つもりである。

「感謝するなら二人で話せ、意思疎通をしろ。旦那様あのバカは、未だ契約結婚だと思ってるし。」
ダンダンとセバスチャンは、貧乏揺すりが激しくなる。

「お嬢様奥様も、レムス様は婚約者では無いとなんべん言っても耳に入れなかったし。」
養子縁組で兄として迎えたと、話してもマーガレットの耳には入らなかった。跡継ぎとして＝私と結婚する人、つまり婚約者。
（奥様お嬢様は都合のいいことしか、耳に入れない。）

マーガレットはレムスを最初から婚約者だと見ていた。だから、レムスの婚約者候補ライラック家の親戚筋の令嬢への対応は凄まじかった。
（旦那様あのバカは、知りませんけど。）

「ローズお嬢様、お願いします。」
ローズにセバスチャンは話しをし、フォローを頼み込んで屋敷を後にした。小姑リンダが訪れる前には必ず帰ると。その間だけはと。

「ぶっちゃけ、引き籠もってくれてた方が安心です。」
セバスチャンはローズに祈った。

「次の行動だけは、阻止して下さいローズ様お嬢様。」

しかし、マーガレット次の行動は起きていた、そしてレムス次の次の行動に進んでいた。

ローズ頼みの綱は、逆にマーガレットの後押しをしている。

なぜならば、ローズ頼みの綱は、マーガレットの娘であるのだから。