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氷の王子、クラウス。執事のジョルジュ。

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テーブルに置かれた、軽食。食卓用テーブルでないので、手で取れるサンドイッチを接客用テーブルへと置いている。それを食べながら、アルベルトは話しを進める。
「その時、俺は思った。」
お茶を飲み、口の中の物を流し込む。
「俺の娘は、なんて可愛いんだと。」
アルベルトの話しは、王達が聴きたい話しとば掛け離れて行くばかりだった。
半月前にクラウスに会ったから始まり、馬車では途上に一ヶ月は掛かるから馬だけで途上しようと駆けていたと。馬だけなら、半月で王都まで来れる。そして、「娘の驚く顔を見たかった。」その言葉から、話しは愛娘アンジェリカの話しになっていった。
今、アルベルトは最愛の妻ダイアナが亡くなり、寂しさの余り女性と浮き世を流していた時 十歳のアンジェリカが。
『わたしを、見てくれないお父さまなんて大嫌い。』
と、涙をポロポロ流して怒っている話しになっていた。
「俺の心は、射抜かれた。俺はなんて馬鹿だったんだ、愛しい人の愛しい娘が、此処にいてくれたのに。どんなに、アンジェリカは心簿そかっただろうと。」
目を閉じて、アルベルトはしみじみと感じていた。

最初は笑顔で聴いていた、クラリスも今は氷の微笑となっていた。それに気付いたカイゼルは、オロオロしだす。エドガーは、頭を抱え込んだ。それに気付かすアルベルトは、話しを続けようと、
「うひゃあ!! 」
アルベルトの口から、変な単語が飛び出した。
「なっ、何をする。ジェラルド。」
真っ赤になって、左耳を押さえてジェラルドを見た。
「貴方の話しが、ずれてるからですよ。」
どうやらジェラルドは、アルベルトの耳に息を吹きかけたようだった。
「相変わらず、耳が弱いですね。」
「うるさい、男に耳に息を吹きかけられたら変な声も出る。」
「そうですか? 」
ジェラルドは、エドガーを見た。
「ん、まあ、そうか? 」
エドガーは、頭を抱え込んだ。
「これが、クラリス殿なら大歓迎だ。」
アルベルトはクラリスに、ウインクをした。
「まあ。」と、クラリスは頰を染める。それを見ていたカイゼル王は、
「二人共、斬首刑に処す。」
いきなり立ち上がった。
「何、馬鹿な事を。」
エドガーが、顔を上げた。
「私以外に、そんな事をしたら許さない。絶対、許さない。」
王とは思えぬ、子供の様に地団駄を踏むカイゼルがいた。カイゼル王は、側室を持たずクラリス王妃だけをこよなく愛している王としては珍しいタイプだった。執事のジョルジュは、教育を誤ったと目を閉じた。
「馬鹿ね。貴方以外に、しないわ。」
「本当に? 」
「ほ ん と う に。」
座り直したカイゼル王の鼻の頭をちょんちょんと人差し指で叩いて、クラリスは微笑んだ。
二人は、見詰め合う。

「貴方のせいですよ、アルベルト。」
「俺のせいか? 」
「ええ、貴方が話しをずらすから。今度話しをずらせば、次はエドガーが耳に息を吹きかけますよ。」
「えっ、俺? 」
不意に自分に振られて、エドガーは顔を向ける。
「当たり前です。私も男に息を吹きかけたくありませんよ。」
「お前、昔 良くやってたよな。」
学生時代ジェラルドは、良くアルベルトが暴走した時に耳に息を掛けていた。これをされるとアルベルトは、力が抜け正気に戻る。
「学生時代は、イタズラの一端で済ませますが。今やったら、変態でしょう。」
「それを俺に、やらせるのか? 」
「私はやりました、今度は貴方の番です。」
嫌そうな顔で、エドガーはアルベルトを見た。アルベルトは「お前に、出来るか? 」と、ニヤニヤしながらエドガーを見る。

「僭越ながら。」
三人の後ろから、声がした。三人は驚いて、後ろを振り返った。
「今度、話しが反れれば。私 ジョルジュが、アルベルト様の耳に息を吹きかけさせてもらいます。」
いつの間にか、三人の後ろに移動した執事のジョルジュは言った。
アルベルトは両耳を押さえて、言った。
「分かった、ちゃんと話す。亡き妻ダイアナと愛娘アンジェリカの名に、掛けて。」
「では、お話し下さい。」
ジョルジュは、ニコリと微笑んだ。
「カイゼル様。見詰め合ってる場合ですか? 」
優しく、問いかける様にジョルジュはカイゼルに声を掛けた。これは、ジョルジュが怒っている時の言い方だった。カイゼルは背筋を伸ばして、前を向いた。
「では、お話し下さい。アルベルト様。」
「ああ、えっと、何処からだったけな? 」
アルベルトは、頭を捻る。
「最初からですよ、アルベルト様。」
優しく ジョルジュの、低い声が聞こえる。
学生時代 何度かジョルジュに制裁、もとい説教を叩き込まれていた四人は。四人の男は昔の様に、背筋を伸ばし前を向いた。
それを不思議そうに、クラリスは見ている。
「さあ、早くお話し下さい。アルベルト様。」
ジョルジュは、微笑んだ。
「ああ、そう。クラウス殿下に会ったのは、半月前。俺が、王都に途上するために屋敷を出て、山道を駆けていた時だ。」
今度こそ、クラウス殿下の話しが聞けるとジョルジュは安堵した。しかしアルベルトの後ろに控えたまま離れない。アルベルトは後ろを気にしながら、今度こそ真面目に話し始めるのだった。
自業自得だが。愛娘、アンジェリカに逢えるのはまだまだ先だった。

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