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第1話 異動命令
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「ミカ、副団長が団長室に来るように言ってたよ」
同僚にそう教えられ急いで向かった団長室では、待っていたよと笑顔の団長とその隣でこっちを睨むような視線の副団長がいた。
というか、睨まれている気がする。
「今回、お呼び立てしたのは他でもありません。ミカエル・トレント、貴方にエレナ隊への異動を命じます」
「な、何故ですか!? 納得出来ません!」
理由もなく唐突に告げられた異動命令に俺は思わず、団長の机を叩きつけ身を乗り出した。
エレナ隊といえば、隊員なら誰もが知ってる“討伐隊のお荷物”と呼ばれている隊だ。そこには、他の隊では不要だと言われた所謂、落ちこぼれが入る隊だと先輩隊員から聞いた事がある。そんな所に理由も告げられず異動なんて納得出来るわけがない。
副団長の咳払いと睨みで俺は姿勢を戻す。
「いいですか? ミカエル・トレント。貴方は先日、イーサ隊の一員として挑んだ任務で勝手な行動をし、隊列を乱しました」
「あれは……!」
「その行動により、隊員が重軽傷を負う被害がでたとイーサ・ヴァレンタインから報告がありました。間違いありませんか?」
「‥‥間違いありません」
口先だけの否定ならいくらでもできた。でもそれをしなかったのは、俺のせいで傷ついた隊員の憎悪に満ちた顔が浮かんできたからだ。思い出される光景に胸が痛む。
「まあ、イーサは細かい所があるからな。今回はミカエルの行動がなければ任務は失敗してた可能性も十分あった。それに人の為に行動するのはいい所だし、騎士として大切な事だ。自信を持っていいぞ!」
「団長! 貴方がそうやって甘やかすから隊員が育たないんです! わかっていますか?」
「まあ、いいじゃないか。そんな事は」
「そんな事では‥‥!」
明らかに怒っている様子の副団長とは対称に団長は大口を開けて笑っている。笑い終えるタイミングを見計らうと副団長はわざとらしく咳払いをした。
「話が逸れてしまい、大変失礼しました。事実確認も済んだので、質問はなければ戻っていただいて結構です」
「あの、討伐隊にはエレナ隊以外にも隊はあります。それでもエレナ隊を選んだのは俺にギフトがないからですか?」
異動を告げられた時から思っていた事を質問として投げかけた。
ギフトとは、個人が保有している能力のことを指している。その能力は剣術や建築、絵画など種類は多岐に渡り、ギフトによって職業を選ぶ人がほとんどだ。世界の大半をギフト持ちが占めているものの、ギフトに関しては解明されていない事も多いらしい。神からの祝福だと言う人も多くいるのだとか。
反対にギフトのない人も数は少ないが存在している。その人達は何故か決まって皆、輝くような白い髪をしている。ギフトを持っていることが当たり前とされているこの世界でギフトのない人達は忌み嫌われていて、ギフトも髪色もない“色なし”だと皮肉を込めて呼ばれ、差別の対象になっている。
俺のように髪色はあるがギフトはないというのは極めて稀な存在らしい。
「私達はギフトの有無程度で個人を評価する事はしません」
「それならどうしてですか!?」
「なら、ミカエルがエレナ隊で成果を上げたら他の隊に異動させよう」
「団長! 勝手に‥‥!」
「いいじゃないか。討伐隊は他の隊と比べて人手不足だし、ここで辞められても困る。こうしたら頑張る理由になるだろう。どうだ? ミカエル」
隣で怒りを通り越して呆れてため息をついている副団長を尻目に団長は少年のような屈託のない笑顔を俺に向ける。この人が団長で良かった。
「ありがとうございます! 頑張ります!」
早々に成果を上げて他の隊へ異動させてもらおう。エレナ隊は簡単な仕事しかさせられてないという噂だし俺でも出来るはずだ。
「あー、それでエレナ隊へ行かせる理由だが‥‥」
今まではっきりと物事を言っていた団長が初めて口ごもった。
ギフトの有無とは関係ないのに口ごもる程の理由とは一体何を言われるんだろう。
「エレナと‥‥」
団長が言いかけた時、後ろから音の小さいノック音が聞こえた。
同僚にそう教えられ急いで向かった団長室では、待っていたよと笑顔の団長とその隣でこっちを睨むような視線の副団長がいた。
というか、睨まれている気がする。
「今回、お呼び立てしたのは他でもありません。ミカエル・トレント、貴方にエレナ隊への異動を命じます」
「な、何故ですか!? 納得出来ません!」
理由もなく唐突に告げられた異動命令に俺は思わず、団長の机を叩きつけ身を乗り出した。
エレナ隊といえば、隊員なら誰もが知ってる“討伐隊のお荷物”と呼ばれている隊だ。そこには、他の隊では不要だと言われた所謂、落ちこぼれが入る隊だと先輩隊員から聞いた事がある。そんな所に理由も告げられず異動なんて納得出来るわけがない。
副団長の咳払いと睨みで俺は姿勢を戻す。
「いいですか? ミカエル・トレント。貴方は先日、イーサ隊の一員として挑んだ任務で勝手な行動をし、隊列を乱しました」
「あれは……!」
「その行動により、隊員が重軽傷を負う被害がでたとイーサ・ヴァレンタインから報告がありました。間違いありませんか?」
「‥‥間違いありません」
口先だけの否定ならいくらでもできた。でもそれをしなかったのは、俺のせいで傷ついた隊員の憎悪に満ちた顔が浮かんできたからだ。思い出される光景に胸が痛む。
「まあ、イーサは細かい所があるからな。今回はミカエルの行動がなければ任務は失敗してた可能性も十分あった。それに人の為に行動するのはいい所だし、騎士として大切な事だ。自信を持っていいぞ!」
「団長! 貴方がそうやって甘やかすから隊員が育たないんです! わかっていますか?」
「まあ、いいじゃないか。そんな事は」
「そんな事では‥‥!」
明らかに怒っている様子の副団長とは対称に団長は大口を開けて笑っている。笑い終えるタイミングを見計らうと副団長はわざとらしく咳払いをした。
「話が逸れてしまい、大変失礼しました。事実確認も済んだので、質問はなければ戻っていただいて結構です」
「あの、討伐隊にはエレナ隊以外にも隊はあります。それでもエレナ隊を選んだのは俺にギフトがないからですか?」
異動を告げられた時から思っていた事を質問として投げかけた。
ギフトとは、個人が保有している能力のことを指している。その能力は剣術や建築、絵画など種類は多岐に渡り、ギフトによって職業を選ぶ人がほとんどだ。世界の大半をギフト持ちが占めているものの、ギフトに関しては解明されていない事も多いらしい。神からの祝福だと言う人も多くいるのだとか。
反対にギフトのない人も数は少ないが存在している。その人達は何故か決まって皆、輝くような白い髪をしている。ギフトを持っていることが当たり前とされているこの世界でギフトのない人達は忌み嫌われていて、ギフトも髪色もない“色なし”だと皮肉を込めて呼ばれ、差別の対象になっている。
俺のように髪色はあるがギフトはないというのは極めて稀な存在らしい。
「私達はギフトの有無程度で個人を評価する事はしません」
「それならどうしてですか!?」
「なら、ミカエルがエレナ隊で成果を上げたら他の隊に異動させよう」
「団長! 勝手に‥‥!」
「いいじゃないか。討伐隊は他の隊と比べて人手不足だし、ここで辞められても困る。こうしたら頑張る理由になるだろう。どうだ? ミカエル」
隣で怒りを通り越して呆れてため息をついている副団長を尻目に団長は少年のような屈託のない笑顔を俺に向ける。この人が団長で良かった。
「ありがとうございます! 頑張ります!」
早々に成果を上げて他の隊へ異動させてもらおう。エレナ隊は簡単な仕事しかさせられてないという噂だし俺でも出来るはずだ。
「あー、それでエレナ隊へ行かせる理由だが‥‥」
今まではっきりと物事を言っていた団長が初めて口ごもった。
ギフトの有無とは関係ないのに口ごもる程の理由とは一体何を言われるんだろう。
「エレナと‥‥」
団長が言いかけた時、後ろから音の小さいノック音が聞こえた。
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