のような

汐夜

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第6話 方針

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 「あの、レイモンドさん。その背中のって….」


 聞こうと思った矢先、騎士団本部の扉が開く。その場にいた全員が話すのをやめる。扉の奥から姿を見せたのは、団長と副団長だった。


 「皆、おはよう」

 「「「おはようございます!!!!」」」」


 団長の挨拶に一斉に返事をする。


 「大変だと思うが、今日もよろしく頼む」

 「「「はい!!!!」」」

 「では、本日の配置を伝えますので、各自隊長の指示に従い準備をしてください。準備が整い次第、出立してください。まず、警備隊ー」


 団長の挨拶が終わると、副団長が手元の紙を見ながら警備隊の配置を発表していく。警備隊の後に討伐隊の任務が伝えられる。


 「最後にエレナ隊ですが、詳細がわかりましたので朝礼が終わり次第私の元に来てください。以上で朝礼は終了です。本日もよろしくお願いします」


 朝礼が終わると同時に各隊の隊長が指示を出し始める。遠出で馬を準備してる隊もあればもう出発している隊もいる。そんな中、俺達エレナ隊は副団長の元へ集まっていた。


 「集まりましたか。では、任務についてお伝えします。今回皆さんにはズィメワの森での調査をお願いします」


 ズィメワの森。ここから歩いて行ける距離だ。魔獣もいない穏やかな所だと聞いた事がある。そんな場所で何を調査するんだろう。


 「ズィメワの森は今まで魔獣が出た事のない安全な場所のはずだ。そこで何を調べるんだ?」


 レイモンドさんも同じ事を考えていたらしい。


 「先日、ズィメワの森を通った旅商人から“森で魔獣を引き連れてる色なしの少女を見た”との情報がありました」

 「引き連れて….ですか?魔獣は….獰猛で..人間を..見たら襲い….かかり….ます。色なしの….女の子が..引き連れている….のは..ありえない..と….思います」


 シャノンさんの言う通りだ。魔獣は人に危害を加える存在で共存はありえない。だから俺達討伐隊が魔獣を倒すことで人々の生活を守っている。


 「私もありえないと思いますが、旅商人が嘘を言う理由がありません。なので、実際に行って何か掴めればと思いまして。少女と魔獣はすでにいないと思いますが、何か痕跡があれば持ち帰ってきてください」

 「わかった。じゃあ、行ってくる」


 副団長の説明が終わるとエレナ隊長はすぐに出発する。レイモンドさんとシャノンさんも既に歩き出していた。俺も急いで後を付いていくように歩き出した。


     ◇


 到着したズィメワの森の前で俺達は最終確認をしていた。


 「確認も終わった事だし、いつもの“あれ”やるか!」


 “あれ”? レイモンドさんの掛け声にエレナ隊が円を作るように並ぶ。何をするつもりなんだろう。


 「ミカエルも入って! 入って!」


 レイモンドさんに急かされて、シャノンさんとの間の不自然に空いている所に入る。すると、全員が中心で拳を合わせていた。俺も左腕を上げて拳を合わせる。


 「皆、自分の命を何よりも大切にして。任務はその次でいい。どんな時、どんな瞬間も生きる事を考えて行動して。わかった?」

 「おう!」

 「はい!」


 エレナ隊長の言葉に各々返事をすると、互いの拳をぶつけて手を離す。


 「ミカエル、これが俺達エレナ隊の“あれ”だ。イーサ隊の時もやってただろ? ….えっと..何て言ったかな?」

 「隊の方針….です」

 「そう! それだ! やっぱりシャノンは賢いな」


 レイモンドさんはシャノンさんの頭を撫でる。口ではやめるように言っているが表情は心なしか嬉しそうだ。


 「ミカエルもエレナ隊の一員だからな! 覚えておくといいぞ」

 「ありえません!!」


 反発されたレイモンドさんは驚いた顔をしている。
 イーサ隊にいた時にも隊の方針の確認は任務の度にしていた。でも、イーサ隊の方針は任務の成功が必須で、任務に命をかけるなんて当たり前だ。実際にそれで命を落とした隊員も見てきた。エレナ隊の方針はイーサ隊ではありえない。


 「何が?」


 出発しようとした所で出鼻を挫かれ不満そうなエレナ隊長が振り向く。


 「俺達討伐隊は魔獣を討つ事で人々の暮らしを守っています。だから任務の成功が何よりも大切なはずです。なのに任務が次で自分の命を優先なんて出来ません!」


 言い分を聞いたエレナ隊長はため息をつく。


 「ミカエル、それはイーサの決めた方針。隊長が違えば方針も変わる。ミカエルは今私の隊員だから、私の方針に従って。それに私は、命より優先するものはないと思ってる」

 「それはエレナ隊長が戦わないから言えることなんじゃないですか!?」

 「は?」


 レイモンドさんは大盾と剣をシャノンさんは短剣をそれぞれ装備している。だけどエレナ隊長だけは何も装備していない。きっと彼女は戦闘向きではないのだろう。だから任務の重要さを知らないんだ。今まで信じてきた事を全て否定されたようで少し苛立つ。


 「エレナ隊長だけ剣も何も持たないのは、戦わないからですよね? そんな隊長に命がどうとか言われたくありません! この際だから言いますけど、エレナ隊隊員になるつもりなんてありません! 俺は早く成果を上げて他の隊へ異動するんです!」


 や..やってしまった..。

 苛立つままに出た言葉は言わなくてもいい本音まで口をついて出てしまう。こういう時に何かを言ってくれそうなレイモンドさんでさえ何も言わないから自然とその場が静まり返ってしまう。ばつが悪くなり、つい俯く。


 「知ってる」

 「え」


 予想していなかった返答に思わず顔を上げる。エレナ隊長は怒るわけでもなく、いつもの無表情で俺を見ている。


 「ミカエルが好んで隊に来たわけじゃないことくらい皆知ってる。でもそんな事はどうでもいい」


 表情が全然変わらないから内心怒っているのか、本心でどうでもいいと言っているのか全くわからない。出会ってからあまり時間は経っていないがエレナの全く表情は表に出ない所が俺は少し怖い。


 「あと、私のギフトで武器が出るから装備は必要ない」


 ほらと目の前に手を出される。何もない彼女の手が微かに光る。その光が剣の形になると、一瞬で本物の剣に変化した。

 本当にギフトがあるんだ。謝らないといけないのに驚いて声が出ない。


 「もういい?」

 「あ、はい。……すいませんでした」


 彼女に向かって深々と頭を下げた。早合点で勘違いをして失礼な事を言って傷つけただろうか。

 別にいいと素っ気無い返事と共に彼女の遠ざかっていく足音が聞こえる。


 「ミカエル! 早く来ないと置いて行くぞー」


 その声で俺は頭を上げ、皆と共にズィメワの森に足を踏み入れた。
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