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第7話 守護者
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「ミカエル!早く来ないと置いて行くぞー」
その声で俺は顔を上げ、皆と共にズィメワの森に足を踏み入れた。
◇
太陽の光が降り注ぎ、風で揺れる木々。とても穏やかな森だ。
「静かすぎるな」
「はい。鳥も….いない….のは..おかしい….です」
言われてみれば、周囲は鳥だけでなく他の動物の姿もない。
「これ見て」
しゃがむエレナ隊長が地面を指さす。そこには、小さな人間の足跡と複数の獣の足跡が残されていた。足跡は全て同じ方向へ向かっている。これが例の少女と魔獣の足跡なのだろうか。でも、子供が魔獣から逃げている足跡とも考えられる。
「もしかして例の?」
「多分」
エレナ隊長は立ち上がり、小さな足跡と自分の足の大きさを比べ始める。
「なあ、ミカエルはどう思う?」
「え? お、俺ですか!?」
急に意見を求められ、驚きと同時に戸惑う。俺みたいな一介の騎士が意見を言うなんていいのか。戸惑っている俺の背中をレイモンドさんが軽く叩く。
「考えている事でも気付いた事でも何でも言っていいぞ。間違っててもいい。俺達は少数だから皆で意見を出し合うんだ。まあ、最後に決めるのはエレナだけどな! 俺の意見ほとんど却下されてるし!」
真面目な話をしていたのに、最後自身の話をして笑うのは俺が意見を言いやすくする彼の優しさだろう。
「俺は、子供が魔獣に追われていた可能性もあると思っています」
意見を言うと頭を撫でられる。撫でられるなんて子供の時以来でなんだか照れてしまう。
「僕は….違うと….思います」
今までどこにいたのか、普段着けていないグローブを着けたシャノンさんが足跡を見ながら話し始める。
「何が違うんだ?」
「この足跡….小さい..足跡の….すぐ後ろ..に..魔獣の….足跡が….あります。….この距離….なら..喰べられて….いる..と..思います。でも….小さい….足跡は..この先も….続いています。だから….これは….副団長の..言った..少女だと..思います」
確かにこの距離なら襲われていてもおかしくない。でも、足跡は見える限り続いている。
「足跡を辿る。何かわかるかも」
エレナ隊長の決断で足跡を辿っていくことが決定した。
足跡は途切れる事なく、人が行かないような森の奥深くまで続く。奥へ進むにつれて、木々が生い茂る。だが、目の前には生い茂る木々の枝が折れ、草花は踏み潰されている光景が広がっていた。折れている枝は俺よりも背の高いレイモンドさんよりも高い場所にある。どれだけ体の大きい魔獣が通ったのだろう。
「….相当でかいのが通ったみたいだな」
「慎重に進もう。嫌な感じがする」
エレナ隊長の言葉で緊張感は走る。俺達はエレナ隊長を先頭に更に奥へと進む。
随分と奥まで進んだ。初めは木の隙間から差し込んでいた光も徐々になくなっていく。
一体どこまで続いているんだろう。
そう思った矢先、前を歩くレイモンドさんが立ち止まる。つられて俺も立ち止まる。エレナ隊長がレイモンドさんの横から顔を出す。彼女は人差し指を口元にあてる。
これは静かにという合図だ。その後、ついてくるような合図。指示通り近くの茂みに身を隠す。そこから見た光景を俺は信じる事が出来なかった。
色なしの少女と複数のグラオウルフ、そして今まで見た事のないボアがいた。少女はグラオウルフを愛犬でも可愛がるかのように扱っている。
グラオウルフは本来、凶暴で肉食。噛む力が特段強く、四肢を噛みちぎられた隊員もいるほどだ。人に懐くなんて聞いた事がない。しかも少女の傍にいるあの大きいボアは何だ? 大きい体に太い牙。特徴だけ見ればユーベルボアだ。でも、俺の知ってるそれより段違いに体も牙も大きすぎる。あれに刺されたら体に穴が空きそうだ。それにあんな毛色はユーベルボアで見た事がない。血に染まったような毛色はまるであの時の….
パキッ
「….あ」
無意識に身を乗り出していたらしい。足元にあった枝を踏んでしまった。グラオウルフがこっちに向かって唸り出す。
「誰!?」
驚いた様子で振り向く少女。よく見れば彼女の服はボロボロの布切れだけだ。服から出てる腕や足はあまりにも細い。転んだだけでも折れてしまいそうなほどだ。
エレナ隊長とレイモンドさんが茂みを出る。一緒に出ようとしたが腕を引っ張られ茂みに戻される。
「何するんですか!シャノンさん」
「静かに….してください。..エレナに….僕達は….隠れてるよう..言われて….います」
理由を追求しようとした時、少女と対峙しているエレナ隊長が話始める。
「驚かせてごめん」
「あ….。色なし….」
エレナ隊長の髪色を見て少女は少し安堵したような表情を見せる。
「私はプロスペラーレ国騎士団のエレナ。貴女を国で保護したい。一緒に来てくれる?」
「嫌!! そう言ってまた戻るんでしょ!? やっと出られたの! 捕まりたくない!!」
戻る?
出られた?
一体何の話をしてるんだ?
「何を言って….?」
レイモンドさんも分かっていない様子だ。
「わんちゃんたち! 行って!!」
少女の声に反応したグラオウルフ達がエレナ隊長とレイモンドさんに襲いかかる。
エレナ隊長とレイモンドさんは次々とグラオウルフを倒していく。だが、グラオウルフの数が多く誘導されてるかのように互いの距離を少しずつ離されてしまう。その間、少女は怯えているのかボアの後ろに隠れている。
あのグラオウルフ達は何故かわからないが、彼女の指示に従っている。それなら、あのボアを倒して少女に攻撃をやめさせよう。幸い、彼女もボアも俺とシャノンさんに気付いてない。今行けば不意をつける。
「ミカエルさん!」
シャノンさんの手を払いのけ、茂みから飛び出す。剣を抜いてボアとの間合いを詰める。ボアはまだ俺を見ていない。
これならいける!
剣を振りかざす。ボアが俺のほうを見る。でもその体の大きさでは間に合わないだろう。力を込めて剣を振りおろす。剣がボアの体に届いたその時、
剣は盛大な音と共に折れてしまった。
「な!?」
折れた!?
何で!?
想定していなかった事態に俺は動けなくなる。
「ミカエル!! 避けろ!!」
レイモンドさんの声に視線を上げる。その瞬間ボアの頭突きを受け、後方へ飛ばされる。
「….っ!!」
何かに背中を強打し、倒れてしまう。その衝撃で剣が手から落ちる。
受け身をとれなかった….。咳が止まらない。上手く息が吸えなくて苦しい。どうしよう、どうしよう。
攻撃された事で怒ったのかボアは今にも突進してきそうな勢いだ。
早く動かないと!
頭ではわかっているのに手足が痺れて上手く動かない。このままじゃ殺される。
動け!
動け!
動けない俺に向かって物凄い勢いで突進してくる。太い牙が向かってくる。
「ミカエル!!」
もう駄目だ。死を覚悟して目を瞑った。
「ぐっ….」
何かが割れる音と苦しんでいるような声が聞こえる。恐る恐る目を開ける。目の前には、誰かの足と滴り落ちる血。その前には突進してきたであろうボアがいる。
「ミカエル、大丈夫か?」
俺を庇ってくれたのはレイモンドさんだった。
「レイモンドさん、何で….?」
「仲間は死んでも守るって決めてるんだ」
隊員になるつもりはないって拒絶したのにそんな俺を仲間だと言ってくれるなんて。その言葉に涙が溢れる。
ボアが少し後退りするとレイモンドさんは大盾を捨て、剣を抜く。大盾は大破していた。ボアが再度突進しようとしている。
「逃げてください! このままではレイモンドさんが死んでしまいます!」
俺の失敗だから死ぬのは俺だけでいい。こんなに良い人を死なせてはいけない。
「大丈夫だミカエル。俺を信じろ」
そう言って剣を構えるレイモンドさんにボアが突進する。
「レイモンドさん!!」
その声で俺は顔を上げ、皆と共にズィメワの森に足を踏み入れた。
◇
太陽の光が降り注ぎ、風で揺れる木々。とても穏やかな森だ。
「静かすぎるな」
「はい。鳥も….いない….のは..おかしい….です」
言われてみれば、周囲は鳥だけでなく他の動物の姿もない。
「これ見て」
しゃがむエレナ隊長が地面を指さす。そこには、小さな人間の足跡と複数の獣の足跡が残されていた。足跡は全て同じ方向へ向かっている。これが例の少女と魔獣の足跡なのだろうか。でも、子供が魔獣から逃げている足跡とも考えられる。
「もしかして例の?」
「多分」
エレナ隊長は立ち上がり、小さな足跡と自分の足の大きさを比べ始める。
「なあ、ミカエルはどう思う?」
「え? お、俺ですか!?」
急に意見を求められ、驚きと同時に戸惑う。俺みたいな一介の騎士が意見を言うなんていいのか。戸惑っている俺の背中をレイモンドさんが軽く叩く。
「考えている事でも気付いた事でも何でも言っていいぞ。間違っててもいい。俺達は少数だから皆で意見を出し合うんだ。まあ、最後に決めるのはエレナだけどな! 俺の意見ほとんど却下されてるし!」
真面目な話をしていたのに、最後自身の話をして笑うのは俺が意見を言いやすくする彼の優しさだろう。
「俺は、子供が魔獣に追われていた可能性もあると思っています」
意見を言うと頭を撫でられる。撫でられるなんて子供の時以来でなんだか照れてしまう。
「僕は….違うと….思います」
今までどこにいたのか、普段着けていないグローブを着けたシャノンさんが足跡を見ながら話し始める。
「何が違うんだ?」
「この足跡….小さい..足跡の….すぐ後ろ..に..魔獣の….足跡が….あります。….この距離….なら..喰べられて….いる..と..思います。でも….小さい….足跡は..この先も….続いています。だから….これは….副団長の..言った..少女だと..思います」
確かにこの距離なら襲われていてもおかしくない。でも、足跡は見える限り続いている。
「足跡を辿る。何かわかるかも」
エレナ隊長の決断で足跡を辿っていくことが決定した。
足跡は途切れる事なく、人が行かないような森の奥深くまで続く。奥へ進むにつれて、木々が生い茂る。だが、目の前には生い茂る木々の枝が折れ、草花は踏み潰されている光景が広がっていた。折れている枝は俺よりも背の高いレイモンドさんよりも高い場所にある。どれだけ体の大きい魔獣が通ったのだろう。
「….相当でかいのが通ったみたいだな」
「慎重に進もう。嫌な感じがする」
エレナ隊長の言葉で緊張感は走る。俺達はエレナ隊長を先頭に更に奥へと進む。
随分と奥まで進んだ。初めは木の隙間から差し込んでいた光も徐々になくなっていく。
一体どこまで続いているんだろう。
そう思った矢先、前を歩くレイモンドさんが立ち止まる。つられて俺も立ち止まる。エレナ隊長がレイモンドさんの横から顔を出す。彼女は人差し指を口元にあてる。
これは静かにという合図だ。その後、ついてくるような合図。指示通り近くの茂みに身を隠す。そこから見た光景を俺は信じる事が出来なかった。
色なしの少女と複数のグラオウルフ、そして今まで見た事のないボアがいた。少女はグラオウルフを愛犬でも可愛がるかのように扱っている。
グラオウルフは本来、凶暴で肉食。噛む力が特段強く、四肢を噛みちぎられた隊員もいるほどだ。人に懐くなんて聞いた事がない。しかも少女の傍にいるあの大きいボアは何だ? 大きい体に太い牙。特徴だけ見ればユーベルボアだ。でも、俺の知ってるそれより段違いに体も牙も大きすぎる。あれに刺されたら体に穴が空きそうだ。それにあんな毛色はユーベルボアで見た事がない。血に染まったような毛色はまるであの時の….
パキッ
「….あ」
無意識に身を乗り出していたらしい。足元にあった枝を踏んでしまった。グラオウルフがこっちに向かって唸り出す。
「誰!?」
驚いた様子で振り向く少女。よく見れば彼女の服はボロボロの布切れだけだ。服から出てる腕や足はあまりにも細い。転んだだけでも折れてしまいそうなほどだ。
エレナ隊長とレイモンドさんが茂みを出る。一緒に出ようとしたが腕を引っ張られ茂みに戻される。
「何するんですか!シャノンさん」
「静かに….してください。..エレナに….僕達は….隠れてるよう..言われて….います」
理由を追求しようとした時、少女と対峙しているエレナ隊長が話始める。
「驚かせてごめん」
「あ….。色なし….」
エレナ隊長の髪色を見て少女は少し安堵したような表情を見せる。
「私はプロスペラーレ国騎士団のエレナ。貴女を国で保護したい。一緒に来てくれる?」
「嫌!! そう言ってまた戻るんでしょ!? やっと出られたの! 捕まりたくない!!」
戻る?
出られた?
一体何の話をしてるんだ?
「何を言って….?」
レイモンドさんも分かっていない様子だ。
「わんちゃんたち! 行って!!」
少女の声に反応したグラオウルフ達がエレナ隊長とレイモンドさんに襲いかかる。
エレナ隊長とレイモンドさんは次々とグラオウルフを倒していく。だが、グラオウルフの数が多く誘導されてるかのように互いの距離を少しずつ離されてしまう。その間、少女は怯えているのかボアの後ろに隠れている。
あのグラオウルフ達は何故かわからないが、彼女の指示に従っている。それなら、あのボアを倒して少女に攻撃をやめさせよう。幸い、彼女もボアも俺とシャノンさんに気付いてない。今行けば不意をつける。
「ミカエルさん!」
シャノンさんの手を払いのけ、茂みから飛び出す。剣を抜いてボアとの間合いを詰める。ボアはまだ俺を見ていない。
これならいける!
剣を振りかざす。ボアが俺のほうを見る。でもその体の大きさでは間に合わないだろう。力を込めて剣を振りおろす。剣がボアの体に届いたその時、
剣は盛大な音と共に折れてしまった。
「な!?」
折れた!?
何で!?
想定していなかった事態に俺は動けなくなる。
「ミカエル!! 避けろ!!」
レイモンドさんの声に視線を上げる。その瞬間ボアの頭突きを受け、後方へ飛ばされる。
「….っ!!」
何かに背中を強打し、倒れてしまう。その衝撃で剣が手から落ちる。
受け身をとれなかった….。咳が止まらない。上手く息が吸えなくて苦しい。どうしよう、どうしよう。
攻撃された事で怒ったのかボアは今にも突進してきそうな勢いだ。
早く動かないと!
頭ではわかっているのに手足が痺れて上手く動かない。このままじゃ殺される。
動け!
動け!
動けない俺に向かって物凄い勢いで突進してくる。太い牙が向かってくる。
「ミカエル!!」
もう駄目だ。死を覚悟して目を瞑った。
「ぐっ….」
何かが割れる音と苦しんでいるような声が聞こえる。恐る恐る目を開ける。目の前には、誰かの足と滴り落ちる血。その前には突進してきたであろうボアがいる。
「ミカエル、大丈夫か?」
俺を庇ってくれたのはレイモンドさんだった。
「レイモンドさん、何で….?」
「仲間は死んでも守るって決めてるんだ」
隊員になるつもりはないって拒絶したのにそんな俺を仲間だと言ってくれるなんて。その言葉に涙が溢れる。
ボアが少し後退りするとレイモンドさんは大盾を捨て、剣を抜く。大盾は大破していた。ボアが再度突進しようとしている。
「逃げてください! このままではレイモンドさんが死んでしまいます!」
俺の失敗だから死ぬのは俺だけでいい。こんなに良い人を死なせてはいけない。
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