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第5章……アルマン教国編
間話……勇者たちの懇願
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俺たちはエルドラウトとの死闘に敗北してそのエルドラウトの目の前に手足を拘束されて猿轡まで噛まされて転がされている。
「ではお話をしましょうか……猿轡を外すので騒がないで貰えますか?」
俺はコクコクと首を縦に振って了解を示す。
するとエルドラウトはすぐに猿轡を外してくれた。
「さて、交渉をと思ったのですが正直アナタ方が弱すぎたので困っています」
「よわ……すぎる?」
俺たちが? 勇者である俺たちが弱い?
「えぇ。本来なら勇者という力を殺してしまうのは勿体ないので我々に忠誠を誓うと言うのであれば生かしてあげようかと思っていたのですがね……ここまで弱いとお話になりませんので殺してしまおうかと」
エルドラウトは何気ないようにそんなことを言う。
「ちょ、ちょっと待って……ください!」
「なんですか?」
エルドラウトはまるで路肩の石ころを見るかのような目でこちらを見下ろしてくる。
「助け……助けてください! 何でもします! だから、だから命だけは助けてください!」
「なんでもですか?」
俺の本気の懇願にエルドラウトはなにやら興味を示したようだ。
「では……そうですね。そちらの女性2人にはゴブリンと交わってもらって子供が出来るかの実験に付き合ってもらっても構いませんかね?」
「んー!? んー!」
ゴブリン……と?
愛子と香織は必死で喚いているが猿轡のせいで言葉にならないようだ。
実験……それで生き残れるなら……
愛子と香織も死ぬわけじゃないし……
「くく……ははは! 冗談ですよ。そんな必死にならなくても」
エルドラウトは心底愉快そうに笑う。
良かった、なんでかは分からないけど機嫌は良いみたいだ。
「まぁ元々協力してもらうつもりでしたしね。良いですよ、命は助けてあげます」
「あ……あ、ありがとうございます!」
良かった……命は助けて貰えるみたいだ……
「その代わり……しっかり働いて貰いますよ?」
「はい! だから……殺さないで……」
エルドラウトはニンマリと口角を上げる。
「では最初の仕事を頼みましょうかね」
「な……なにをすれば……」
「そうですね。魔王様の治めるこの土地の西の端には大森林と呼ばれる森があるのですが、そこを超えて暫く行くと帝都があります。そこに居る聖女を攫ってきてください」
「聖女を……攫う?」
誘拐?
「ええ。もちろんアナタ方だけではありませんよ。私の配下も数名付けますし大森林にはたくさんの魔物を潜ませて居ますのでそれも使ってください」
「でも……どうやって……」
エルドラウトは少しイラついたようにため息を吐く。
「少しくらい自分で考えてくださいよ……そうですね、遠巻きに魔物で帝都を囲んでアナタ方が帝都に侵入……勇者だと言えば入れるでしょう。それから聖女を攫って街の外へ逃げて下さい」
それくらいなら……
「ワイバーンを貸し出しますので移動はワイバーンに乗って行ってください。いいですか? 決して聖女は傷付けないでください。邪魔する人間は全て殺しても構いません」
「人間を……殺す?」
俺が? 俺たちが?
「嫌なのですか? こんなお使いも出来ないのなら必要無いのですが?」
エルドラウトの瞳がだんだん冷たいものになっていく。
「いえ! 分かりました! やります、やらせてください!」
「なら最初からそう言ってくださいよ……ではキミたちも着いていきなさい。そうだ……そのまま逃げられても困りますからね……」
エルドラウトは俺たちの顔を1人ずつ覗き込む。
「アナタで良いでしょう。アナタはこのまま私と来てもらいます。もし他の方が逃げ出したら……分かりますね?」
選ばれたのは愛子だった。愛子は涙を流しながら俺を見ている。
「わ、分かりました! だから愛子に危害は……」
「加えません。アナタ方がきちんとお仕事をしてくれる限りはね」
「はい……」
「他のみなさんもよろしいですか?」
他のみんなも首を縦に振っている。
「よろしい。では早速行ってきてください。いきなりワイバーンに1人では乗れないでしょうから私の部下と同乗してくださいね」
俺たちの拘束は解かれエルドラウトの部下に従ってワイバーンに跨った。
「それでは頑張って来てください。失敗すれば……分かってますね?」
「はい! 全力を尽くします!」
俺たちへ愛子を残して大空に舞い上がった。
それからエルドラウトの立てた作戦通りに行動して帝国の聖女を攫うことに成功。
そこで俺は初めて人を殺した……
ほんの少しの罪悪感はあったけど、俺が生き残るためだし仕方ない。運が悪かったと思って諦めてもらおう。
追ってを大森林から連れてきた魔物の大群に任せて俺たちは聖女を連れてワイバーンに乗ってエルドラウトの下に向かう。
「へぇ……やれば出来るじゃないですか」
魔王城に到着するとエルドラウトが出迎えてくれた。
帝都から攫ってきた聖女を引き渡すとエルドラウトは微笑みながら受け取ってくれた。
「では次は教国に行ってもらいましょうか……魔物の移動もありますので数日はのんびりしてくれて構いませんよ。部屋まで案内しましょう」
言われるがまま部屋に通されてそこで数日を過ごす。
5人で1部屋だし食事も1日1食のみ、今までより厳しい生活を強いられたが生き残るためだ、我慢しないと……
それから出発の日、今回の居残り……人質は知也が指名された。
今回はあのニートも居るし、確か大魔道士の女も居たはず……
なので防御力に優れる知也を置いて攻撃力の高い愛子を連れて行くのだ。
これはあのニートたちの情報を知りうる限りエルドラウトに話した時に決まった人選だ。
ニートを俺が、剣士の女を愛子が、大魔道士を賢人がそれぞれ抑えて香織が聖女を攫う。
あとは帝都での行動と同じだ。
教国に潜入しているエルドラウトの部下からの報告でかれこれ聖都に閉じ込められて長いので注意力も散漫になっている頃合いだという。
「ではお気を付けて。今回のお仕事が成功すれば元の世界に帰る方法が見つかり次第帰らせて貰えるよう魔王様にお願いしてあげますので頑張ってくださいね」
「本当ですか!? 頑張ります!」
エルドラウトに見送られ俺たちはアルマン教国へと向かう。
「ねぇ英雄、久里井戸さんのこと斬れるの?」
「愛子……出来れば同じ日本人だし殺したくはないかな……それに帰る方法が見つかれば帰して貰えるっぼいし、それでニー……久里井戸さんと交渉してみてもいいかも」
ワイバーンから降りて聖都とやらに向かいながら話し合う。
「でも……殺さないと邪魔になるんじゃ?」
「賢人の言う通りだけど……そうだな、無理そうなら殺すけど、出来れば手足を斬って動けないようにするだけにしたいな……教国って言うくらいなんだから回復魔法を使える人は多いと思うからそれなら死なないよね?」
違う世界の人間と同じ日本人じゃやっぱり抵抗が……
俺たちと一緒に魔王に従ってくれるならそれが一番なんだけどな……
「交渉に失敗したら私が麻痺毒で動きを封じる。その後はお願い」
「分かったよ。頼りにしてるよ」
会話を終えて聖都に入る。
帝都もそうだったけどエルヴニエス王国で貰った勇者の印を見せればすぐに入れてくれるし聖女の居場所も教えて貰えるから楽だ。
「さぁ……お仕事しようか」
正直知也なら見捨ててもと思わなくは無いが俺たちが勝てなかったエルドラウトにニートが勝てるとも思えない。
なので言われた通りにするのが一番安全だろう。
俺たちは聖女が居るというライノスという貴族の家に向かった。
「ではお話をしましょうか……猿轡を外すので騒がないで貰えますか?」
俺はコクコクと首を縦に振って了解を示す。
するとエルドラウトはすぐに猿轡を外してくれた。
「さて、交渉をと思ったのですが正直アナタ方が弱すぎたので困っています」
「よわ……すぎる?」
俺たちが? 勇者である俺たちが弱い?
「えぇ。本来なら勇者という力を殺してしまうのは勿体ないので我々に忠誠を誓うと言うのであれば生かしてあげようかと思っていたのですがね……ここまで弱いとお話になりませんので殺してしまおうかと」
エルドラウトは何気ないようにそんなことを言う。
「ちょ、ちょっと待って……ください!」
「なんですか?」
エルドラウトはまるで路肩の石ころを見るかのような目でこちらを見下ろしてくる。
「助け……助けてください! 何でもします! だから、だから命だけは助けてください!」
「なんでもですか?」
俺の本気の懇願にエルドラウトはなにやら興味を示したようだ。
「では……そうですね。そちらの女性2人にはゴブリンと交わってもらって子供が出来るかの実験に付き合ってもらっても構いませんかね?」
「んー!? んー!」
ゴブリン……と?
愛子と香織は必死で喚いているが猿轡のせいで言葉にならないようだ。
実験……それで生き残れるなら……
愛子と香織も死ぬわけじゃないし……
「くく……ははは! 冗談ですよ。そんな必死にならなくても」
エルドラウトは心底愉快そうに笑う。
良かった、なんでかは分からないけど機嫌は良いみたいだ。
「まぁ元々協力してもらうつもりでしたしね。良いですよ、命は助けてあげます」
「あ……あ、ありがとうございます!」
良かった……命は助けて貰えるみたいだ……
「その代わり……しっかり働いて貰いますよ?」
「はい! だから……殺さないで……」
エルドラウトはニンマリと口角を上げる。
「では最初の仕事を頼みましょうかね」
「な……なにをすれば……」
「そうですね。魔王様の治めるこの土地の西の端には大森林と呼ばれる森があるのですが、そこを超えて暫く行くと帝都があります。そこに居る聖女を攫ってきてください」
「聖女を……攫う?」
誘拐?
「ええ。もちろんアナタ方だけではありませんよ。私の配下も数名付けますし大森林にはたくさんの魔物を潜ませて居ますのでそれも使ってください」
「でも……どうやって……」
エルドラウトは少しイラついたようにため息を吐く。
「少しくらい自分で考えてくださいよ……そうですね、遠巻きに魔物で帝都を囲んでアナタ方が帝都に侵入……勇者だと言えば入れるでしょう。それから聖女を攫って街の外へ逃げて下さい」
それくらいなら……
「ワイバーンを貸し出しますので移動はワイバーンに乗って行ってください。いいですか? 決して聖女は傷付けないでください。邪魔する人間は全て殺しても構いません」
「人間を……殺す?」
俺が? 俺たちが?
「嫌なのですか? こんなお使いも出来ないのなら必要無いのですが?」
エルドラウトの瞳がだんだん冷たいものになっていく。
「いえ! 分かりました! やります、やらせてください!」
「なら最初からそう言ってくださいよ……ではキミたちも着いていきなさい。そうだ……そのまま逃げられても困りますからね……」
エルドラウトは俺たちの顔を1人ずつ覗き込む。
「アナタで良いでしょう。アナタはこのまま私と来てもらいます。もし他の方が逃げ出したら……分かりますね?」
選ばれたのは愛子だった。愛子は涙を流しながら俺を見ている。
「わ、分かりました! だから愛子に危害は……」
「加えません。アナタ方がきちんとお仕事をしてくれる限りはね」
「はい……」
「他のみなさんもよろしいですか?」
他のみんなも首を縦に振っている。
「よろしい。では早速行ってきてください。いきなりワイバーンに1人では乗れないでしょうから私の部下と同乗してくださいね」
俺たちの拘束は解かれエルドラウトの部下に従ってワイバーンに跨った。
「それでは頑張って来てください。失敗すれば……分かってますね?」
「はい! 全力を尽くします!」
俺たちへ愛子を残して大空に舞い上がった。
それからエルドラウトの立てた作戦通りに行動して帝国の聖女を攫うことに成功。
そこで俺は初めて人を殺した……
ほんの少しの罪悪感はあったけど、俺が生き残るためだし仕方ない。運が悪かったと思って諦めてもらおう。
追ってを大森林から連れてきた魔物の大群に任せて俺たちは聖女を連れてワイバーンに乗ってエルドラウトの下に向かう。
「へぇ……やれば出来るじゃないですか」
魔王城に到着するとエルドラウトが出迎えてくれた。
帝都から攫ってきた聖女を引き渡すとエルドラウトは微笑みながら受け取ってくれた。
「では次は教国に行ってもらいましょうか……魔物の移動もありますので数日はのんびりしてくれて構いませんよ。部屋まで案内しましょう」
言われるがまま部屋に通されてそこで数日を過ごす。
5人で1部屋だし食事も1日1食のみ、今までより厳しい生活を強いられたが生き残るためだ、我慢しないと……
それから出発の日、今回の居残り……人質は知也が指名された。
今回はあのニートも居るし、確か大魔道士の女も居たはず……
なので防御力に優れる知也を置いて攻撃力の高い愛子を連れて行くのだ。
これはあのニートたちの情報を知りうる限りエルドラウトに話した時に決まった人選だ。
ニートを俺が、剣士の女を愛子が、大魔道士を賢人がそれぞれ抑えて香織が聖女を攫う。
あとは帝都での行動と同じだ。
教国に潜入しているエルドラウトの部下からの報告でかれこれ聖都に閉じ込められて長いので注意力も散漫になっている頃合いだという。
「ではお気を付けて。今回のお仕事が成功すれば元の世界に帰る方法が見つかり次第帰らせて貰えるよう魔王様にお願いしてあげますので頑張ってくださいね」
「本当ですか!? 頑張ります!」
エルドラウトに見送られ俺たちはアルマン教国へと向かう。
「ねぇ英雄、久里井戸さんのこと斬れるの?」
「愛子……出来れば同じ日本人だし殺したくはないかな……それに帰る方法が見つかれば帰して貰えるっぼいし、それでニー……久里井戸さんと交渉してみてもいいかも」
ワイバーンから降りて聖都とやらに向かいながら話し合う。
「でも……殺さないと邪魔になるんじゃ?」
「賢人の言う通りだけど……そうだな、無理そうなら殺すけど、出来れば手足を斬って動けないようにするだけにしたいな……教国って言うくらいなんだから回復魔法を使える人は多いと思うからそれなら死なないよね?」
違う世界の人間と同じ日本人じゃやっぱり抵抗が……
俺たちと一緒に魔王に従ってくれるならそれが一番なんだけどな……
「交渉に失敗したら私が麻痺毒で動きを封じる。その後はお願い」
「分かったよ。頼りにしてるよ」
会話を終えて聖都に入る。
帝都もそうだったけどエルヴニエス王国で貰った勇者の印を見せればすぐに入れてくれるし聖女の居場所も教えて貰えるから楽だ。
「さぁ……お仕事しようか」
正直知也なら見捨ててもと思わなくは無いが俺たちが勝てなかったエルドラウトにニートが勝てるとも思えない。
なので言われた通りにするのが一番安全だろう。
俺たちは聖女が居るというライノスという貴族の家に向かった。
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