親友の彼氏と、一つ屋根の下。

第3章「早速だけど家出がしたい」

読めない行動。

……確かに、そうかもしれないけど。
でも、水野くんに言われたくない！
そう思って口を開こうとしたら、それを遮るようにまた水野くんが言った。

「どうしたって、アイツは瀬川さんには振り向かない。さっさと諦めなよ」

そう言って、肩を掴んでいる手に力を込められる。
ちょっ…痛いって、
そう思いながら、あたしが「離してよ」って手を振り払おうとしたら…

「！」

その前に、我に返ったのか水野くんが不意にぱっとその手を離してくれた。
だけど止めてくれたとかそういうわけではないようで、彼はまだ納得のいっていないような顔をしたまま。
それでもそんな水野くんにあたしは負けじと言った。

「…水野くんには関係ないでしょ。ほんと、口出ししないで」

そう言って先に部屋を出ようとするけど、何だかまだイライラしていてあたしはまた口を開く。

「自分は上手くいってていいよね。毎日幸せだもん。良かったね」

何だか本当にかわいくないけど、でも本当のことだから仕方ない。
水野くんは上手くいってる側だから、上手くいっていないあたしを見てまたからかってるんだ。
だけど嫌味を言ったはいいものの、水野くんの反応が何だか怖くて、あたしは逃げるようにその場を後にした。
早く、学校に行こう。
しかし、そう思って玄関に続く廊下を逃げるように歩いていると…

「っ…！？」

次の瞬間、後ろから足音が早歩きで聞こえてきて、そうかと思えば。
突然、がばっとその体を後ろから引き留められた。

「っ、なに…！？」

一瞬、思考回路がバグったけど、あたしはどうやら今水野くんに後ろから抱きしめられているらしい。
…え、あたしもしかしてこのまま襲われる…！？
やっぱさっきので怒らした！？
あたしはそう思うと、なかなか離してくれる様子がない水野くんに言った。

「ちょ、ちょっと、ほんとに冗談やめて。手出さない約束は！？」
「…」
「て、ていうか、歩美に申し訳ないとか思わないわけ？」
「…」
「…水野くん？」
「…」

しかし、いくら声をかけてみても、あたしを抱きしめたまま水野くんからの返答はない。
ほんと、どうしたんだろ？そう思っていると…

「…？」

あたしを抱きしめている水野くんの腕が、不意に少しだけほどかれる。
しかし、そうかと思えばあたしは体をくるりと方向転換させられて…

「…え、あっ…待っ…！」
「…」

拒むような隙も無く、そのまま正面から水野くんにキスをされた。

「！」

触れるだけのキスだったから、水野くんはあたしからすぐに離れると、そのまま何も言わずにあたしの頭をくしゃ、と撫でて先に家を出て行く。
あ…二回目も奪われてしまった。
だけど予想外の水野くんの行動に、あたしは困惑しながら乱された髪を手ぐして整える。

…何で今、抱きしめたの？
何でキスしたの？
何で頭なんて撫でたの？

…水野くんの行動がよくわからないまま、あたしは廊下で独り盛大なため息を吐いた。
今日…歩美に会いたくないな…。