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第一章 出逢いは突然に

俺が官能を教えてやる

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「何言って・・・・・・」
「答えろよ。ミステリも、恋愛も、時代物も、ホラーも、青春物も、官能も、全く関係ない。何だと思う?」

 真琴は話について行けないながらも答える。

「ストーリーや設定の面白さ、でしょうか」
「違う。小説は文章から喚起される想像の世界だ。脳で感じて楽しむものだ。つまり視覚や、嗅覚や、聴覚や、味覚や、触覚を頭で味わうんだ。例えばお前も、作中に『潮の匂いがした』と書かれた文を読んで、確かに塩辛い匂いが漂ってる気がした経験があるだろう?」

 真琴はこくんと頷いた。
 確かに経験がある。『虹だ』と書かれれば虹が見え、『氷柱(つらら)を手折った』とあれば、凍てつく冷たさを手のひらに感じたような気になる。

「ここまで言えば馬鹿でも分かるだろ?」
「はい」
「つまり――ここからは官能小説の話になるが、セックスを描くのはその五感を総動員する必要がある。俺はそこらの純文学やエンタメ小説より、ずっと文章として高度な技術が求められるのが官能小説だと思ってる。お前文字を読んだだけで勃起できるか? 抜けるか? 人妻の肌の柔らかさやマシュマロみたいな唇の感覚や膣の暖かさを全て文章で表現するんだ。難しいぞ」
「・・・・・・」
「いいか。小説の基本は五感を鍛えることだ。五感を鍛えれば読者の感覚を震わせる良い文章が書ける。そうすれば目新しいトリックだけじゃなくお前の作品の武器になる」
「何がおっしゃりたいんですか」
「脱げよ。俺が官能を教えてやる」

 真琴を見据えて鷹城が言った。形の良い唇は弧を描き、ぞっとする程の色気が襲いかかる。
 真琴は迫力に息を呑んだ。
 何かとんでもない男を相手にしているのではないか。
 真琴の心は、恐れと抑えきれない好奇心にざわめいていた。
 カーテンの向こうでは嵐を予感させる強い風が吹き、窓ガラスを揺らしていた。

第一話・了
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