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第三章 取材orデート?

お疲れ様

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 夕刻、白川と理子が帰り、ようやく部屋が静かになった。しかし、真琴はすっきりしない気分で食器を洗っている。
 三時のおやつに出したアップルパイと、お土産のマドレーヌは、理子以外には好評だった。鷹城はばくばくアップルパイを食べていたし、白川もお土産をもらって喜んでいた。

 しかし理子は、「甘すぎる」だの「私を太らせる気か」だの冗談交じりに口にし、その場の空気をなんとも言えないものにした。
 そこまで言われると作り手の真琴もいい気がしない。途中からむすっとしてしまった。白川にも気を遣わせてしまった。

(本当におれって子供だな)

 いくら理子と合わないからといって態度に出すなんて、なんて格好悪いのだろう。
 真琴はシンクに手をついて、がっくりとうなだれた。そんな時、側に鷹城が寄ってきた。

「お疲れ様。ありがとな、今日は」

 と、肩にぽんと手を置く。 

「いえ……」
「飯、どれもうまかったぞ。特にアップルパイ。りんごが甘くて美味しかった」
「いいですよ。お世辞なんて」
「本当だって」
「だって、理子さんは甘すぎるって言ってたし」
「あいつのことは気にすんなって。そういう子なんだよ」

 真琴は黙っていた。

「あの子、そうとう甘やかされて育ってきたんだろうな。ああいうワガママなタイプには、近づいちゃダメなんだ。振り回されるから」
「……先生はやっぱり大人ですね」

 真琴は鷹城を見上げた。

「大人? 俺が?」

 鷹城が目をしばたたいた。

「だって理子さんにも普通に接してたし、今だって人生経験ほうふなこと言うし……。おれは駄目です」
「どこが?」
「顔に出ちゃう」

 真琴が再びうつむいた。

「それでいいんだよ、若者は。自分と違うタイプの人間と接することで、世間の渡り方を知ってくんだから。だから今日のことだって無駄じゃない。そう思うとなんか得した気分だろ。な?」
「そうでしょうか……」
「そうだよ。そうやって少しずつ経験値を増やしていくんだ。そして、自分を傷つけない相手を見通すようにならなくちゃいけない。周りは敵ばかりとは言わないけれど、悪意を持った人間ってのは意外と多いもんだ。特にお前は優しいから、つけ込まれやすいと思う。そうやって利用されないように、自分の目で信頼できる人間とそうでない人間を見抜かないとな。それが経験を積むってことだよ」

 鷹城の言葉が心にじんと響いた。石のように重かった胸が、すっと軽くなる。

「先生も、そういうことがあったんですか?」
「……あったよ。高校生の時、信じていた奴に、裏切られたことがある」

 鷹城の目が痛みを思い出すかのように細くなる。

(裏切られたって、誰に……?)

 真琴は訊いてみたかったが、問うてはいけないことのような気がして、口をつぐんだ。
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